社畜のオッサンがモブ悪役(奴隷商人)に転生したら、ゲーム知識を利用して、ヒロインたちを最強に育成するわ、無自覚にヤンデレ化させるわで、いつのまにかストーリーをへし折りまくっていた件。
第47話 もうやぶれかぶれの突撃をするしかない
第47話 もうやぶれかぶれの突撃をするしかない
が……しかしそれは至難の業だ。
まずもって、帝国兵がこの街に来た目的がわからない。
何よりも、単なる奴隷商人の俺が帝国兵たちにこの街から出ていってくれと言っても、彼らが俺の話をマトモに聞くはずはない。
やはり、今から戻って、アリスとミレーヌを説得するか。
帝国兵に手を出すのはまずいと説明すれば、彼女たちもわかって——。
と、俺はそこで無数の視線に気づく。
ケモノ娘たちが俺の方を遠目に見ている。
そして、彼女たちは目を爛々と輝かせながら、何かを話し合っている。
「帝国が……ついにこの街にも……ライナス様は帝国と闘う決意を固められたに違いないわ」
「今度は負けない……ライナス様のためにも……もうわたしたちはあの頃のような子供ではないのだから……」
……ダメだ。
たとえ、アリスやミレーヌを説得できても、他にも無数に帝国を憎んでいる者がこの街にはいる。
ここにいるケモノ娘たちはみな帝国を憎悪している。
彼女たちを理性で説得しても聞き入れてくれるとは思えない。
というよりも、俺が帝国におもねっていることが、彼女たちに見咎められれば、俺の命が危ない。
それでなくても俺は彼女たちから恨まれているのに……。
やはり、帝国兵たちの方をなんとかするしかない。
なにか……なにか良いアイディアはないか。
このなんともいえない状況を打開するための策は……。
と、俺は必死に頭を働かせた。
が、結局何らのアイディアが出る訳でもなく、俺は伯爵の屋敷の前に着いてしまった。
都合よく起死回生の策が出るほど、やはり現実は甘くない。
社畜生活が嫌でたまらなくて、色々と脱出計画を考えたが、結局うまくいかずに生きるために、10年間、ブラック労働を続けたように……。
現実はどこまでいっても厳しい。
俺は屋敷の前に立ち、ため息をつく。
もう……出たとこ勝負しかない。
そして、俺の経験則からはそうやって開き直った場合は、たいていなんとかなる……わけなどなく、予想通りに失敗するのだが……。
「あなたは……何をする気なの?」
突然、後ろから声をかけられて、俺は驚きながら、声のする方向へと振り返る。
そこには、ルシウス……もといルシアが立っていた。
メイド服姿のルシアは、怪訝な顔を浮かべながら俺を見ている。
ルシアは、どうやら俺の跡をつけてきたようだ。
しかし、いったいなぜ……。
「帝国に寝返って、アリス様たちを売る気なの?」
ルシアはそう言うと、俺を睨めつけるように見る。
「い、いや……違う——」
「嘘だ。ならなぜ一人で帝国の兵たちと会うんだ? そんな危険なことを単なる奴隷商人であるあなたがなぜする?」
ルシアは俺のことを詰問するように近づいてくる。
やはりルシアは俺のことをまったく信頼していない。
アリスに対しては極端なくらいに従順だったが、俺へは敵意むき出しである。
ルシアの誤解を解いておきたいが、うまい言葉が出てこない。
俺は帝国の味方をする気はサラサラないが、ルシアから見たら俺は帝国に属する人間に見えるのだろう。
実際のところ、俺は帝国からミレーヌたちケモノ娘たちを奴隷として買っていた経緯がある。
傍目から見れば、俺は帝国の側の人間と見られてもおかしくない。
しかし、このままルシアを伴って帝国兵に会うのはまずいのではないか。
ルシアは、反帝国を掲げる同盟の人間だ。
既に帝国にマークされていてもおかしくはない。
むしろ帝国兵がこの街に来たのだって、ルシアを追ってきたのかもしれない。
そんなルシアと一緒にノコノコ帝国兵の前に出ていけば、会った瞬間、戦闘ということも十分ありえる。
「と、とにかく……俺が帝国兵と話をするから、ルシアは屋敷に戻って——」
俺はそうルシアに言うが、彼女は、ずいっと近づいてきて、
「僕も一緒に行く」
と、じっと見つめてくる。
ルシアの態度は有無を言わさぬものであった。
とても説得できそうにない。
こうなったら奴隷紋を使うか。
ルシアとの関係がさらに悪化するが、そんなことを言っている場合ではないかもしれない。
このまま帝国兵と戦闘して、帝国——大陸中——を敵に回すよりも、ルシア——同盟を——敵に回す方がまたマシかもしれない。
俺は覚悟を決めて、奴隷紋を発動——。
「おい! お前ら! そこで何をしているんだ!」
し、しまった……。
俺がいつものようにぐちゃぐちゃと考えて時間を浪費していたら、屋敷の門番に見咎められてしまった。
「い、いや……その……わたしは——」
「ナタリア様に用があります。ぼくはナタリア様の知人のルシア……いやルシウスと申します」
「なに……ナタリア様のご友人……しかしその格好は……それに隣にいるのは奴隷商人じゃないか……そんな者を屋敷にあげるなど……それに今は帝国の方と会談中だしな……」
「至急の要件です。ナタリア様の安全にも関わる話です」
「な、なに!? ナタリア様の御身に関わる話だと……しかし……」
「議論している時間はありません。このまま通らせていただきます」
「な……お、お前……」
ルシアは、そう言うと、衛兵を無視して、門の中へと入ってしまう。
衛兵は、ルシアのそのあまり堂々とした雰囲気に当てられたのか、呆然としている。
俺も唖然としていた。
いや……いくらなんでも衛兵仕事しろよ。
俺は奴隷商人だし、ルシアはメイド服だぞ。
こんな怪しい連中をナタリアに……姫に会わせていいのか。
いや……待てよ。
なにか……こういう場面……ゲームのイベントでも何度もあったような。
この主人公補正ともいうべくご都合主義の展開が……。
しかし……こんな場面でまさかルシアの主人公性が発揮されてしまうなんて……。
「さあ……あなたも何をしているんですか。早く来てください。帝国兵と話をするんでよね? それとも——」
ルシアが後ろを向いて、俺の方を見る。
ああ……もうこうなったらやぶれかぶれだ。
俺は動揺する心を必死に抑えながら、しかし足の震えを抑えることはできずに、
門をくぐるのであった。
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大変申し訳ありません。
ストックが枯渇したため、しばらく更新を見合わせます。
ある程度、書き溜めてから、また更新させていただければと思っています。
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社畜のオッサンがモブ悪役(奴隷商人)に転生したら、ゲーム知識を利用して、ヒロインたちを最強に育成するわ、無自覚にヤンデレ化させるわで、いつのまにかストーリーをへし折りまくっていた件。 kaizi @glay220
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