IFエピローグ 催眠アプリはこの『画面の壁』を越えられるだろうか……
リマがこの世界に転移して、数年が経過した。
「かんぱーい!」
リマは『セントラル・クリエイト』の社員たちと一緒に、大量のウニやカニ料理を囲んでいた。
「みんな、今日は旅行に来てくれてありがとうな! イグニスも忙しいのによく来てくれたな!」
「いえいえ! ニルセン社長と来れるの楽しみだったんで!」
もちろん今回の幹事はセントラル・クリエイトの社長『ニルセン』だ。
彼はリマの催眠を受けた後、パワハラ気質を改めたうえで起業。そして別の世界線のニルセンと同じように『セントラル・クリエイト』の企業の社長となっている。
違うのはそちらの世界線より、さらに大きな組織となっていることだろう。
「最近仕事ばっかりでしたから、羽根を伸ばすいい機会ですよね、エスタさん?」
「ええ。私も最近は、沢山仕事貰って頑張りすぎちゃったもの。なんか若いころに戻った気分よ」
イグニスたちも同様に、それぞれが自分の道で活躍している。
ベテランイラストレーターのエスタもまた、ニルセンの会社と正式に契約を結んで仕事をしている。若いころの熱意を取り戻した彼女は、現在も精力的に活動を行っている。
「ウヒヒ、こんなに美味しい料理は初めてだよ、な、ヨアン!」
「だよな! 今度シンシアと娘も連れて、また来てみようかな……」
ヨアンはシンシアと一児をもうけ、楽しく生活をしているとのことだ。
そしてリマはヨアンと一緒に、営業としてニルセン社長の下で働くようになった。
彼はシナリオライターとしても頑張っているが、残念ながら才能はないらしく、そのシナリオが採用されたことはない。
だが、営業のスキルは高く、またその人柄も周囲から高く評価されており、職場でも慕われている。
リマはニルセンやヨアンたちと楽しく会話をしていると、横から『男爵』のあだ名を持つヴァンパイアの男が口をはさんできた。
「楽しんでいるようだがな、リマ。一応言っておくが、私がこの店を見つけたのだ。私にも感謝してもらわないと困るな」
「あ、そうでしたね、男爵。ウヒヒ、ありがとうございます」
「フフフ、それでいい」
そういわれて『男爵』は満足したのか、そのまま霧になって自分の席に戻っていった。
彼の席にいるのは、竜族とヴァンパイアの同僚。……別の世界線ではリマにクビにされたものたちだ。
そしてリマは、頃合いを見計らって周りに聞こえるように大きな声で話をはじめた。
「……さて……そろそろ言おうと思うんですけど……実はもう一つ報告があるんです!」
「報告? ……あ、まさか……」
「……来て、クーゲル?」
「うん!」
そういうと、隣のテーブルからクーゲルがやってきて、リマは二人一緒に並んだ。
そして、リマは幸せそうな顔をして口を開く。
「ボクとクーゲルは、今度の秋に結婚するんです!」
その発言とともに、周りはおおおおお! と感嘆の声を上げた。
「イグニスさんとヒューラさん、私とミケルに続いてリマさんたちも結婚か……!」
「リマさんとクーゲルさんにはお世話になりましたから……僕も嬉しいですよ!」
「私も嬉しいです! 秘書として未熟だった私を助けてくれた、お二人が結婚なんて!」
サラとミケル、フリスティナもそういいながら嬉しそうに祝福した。
因みにサラとミケルは現在新婚で、とても仲良く暮らしている。
「ウヒヒ! みんなにそう言ってくれると本当に嬉しいよ! ね、クーゲル?」
「ああ。……けどさ、リマ。それだけあんたがみんなのために頑張っていたってことなんだ。すごいよな、本当に」
クーゲルはそう嬉しそうに笑うと、肩をバンバンとたたく。
「ありがとう、クーゲル……ん?」
突然会場の照明が落とされ、リマを含む周囲は少し驚いた表情を見せた。
「……あれ、どうしたんだろ?」
「フフフ……。来たね……」
クーゲルが不敵に笑みを浮かべる。
……そして、荘厳なバイオリンの音が聞こえてきた。
「あれ、この曲って……」
「ああ。ゴットシャルの演奏だよ。それに……」
「あ、シチェラさんも!」
モデルをやっているシチェラは、ダンサーとしても有名である。
彼女はゴットシャルの演奏に合わせて、くるくると回っている。
また、二人の照明は、ロクルーダがやってくれているようだった。
因みに作曲をしてくれたのは、このあたりでは有名なエルフだ。
刑務所で看守を行っているリャナンシーの妻に、一時は精気を吸いつくされそうだったが、間一髪でリマが話を聞いて、夫婦ともども助け出すことに成功したといういきさつがある。そんな恩のあるリマのために曲を作ってくれたのだ。
そしてシチェラの兄、妖狐ハチャトールがワゴンを押してやってきた。
「あれ、ハチャトールじゃん! ウヒヒ、お前も来てくれたの?」
「そう。これはサプライズってやつだよ、リマ」
そう妖狐のハチャトールがいいながら、おいしそうなケーキが運ばれてきた。
因みに作ってくれたのは『ピザ・レジェンド』の店主だ。
更に、後ろからもう一人、意外な人物が現れた。
「おいおい、リマ? お前さ、俺のこと忘れんなよな?」
……リグレだ。
彼の下卑た表情はすっかりなくなっており、ニコニコと優しそうな笑みを浮かべていた。
「ごめん、リグレ! だってお前の会社、新作が出たばかりで忙しそうだったから……」
「うちとお前の会社は競争相手だけど、仲間じゃんか! 誘ってくれないのは水臭いだろ。それにうちの社長も『リマとクーゲルのためなら、絶対に出席しろ』って言ってたからな」
「ウヒヒ、悪かったよ、リグレ」
リマはあれからリグレに対しても催眠アプリを使って、その性格を改善していた。
また、その時の縁によって『ロングロング・アゴー』は『セントラル・クリエイト』と、単に競争するだけでなくソフトを共同開発するなど、ある種の共闘関係になっていた。
そのため、リグレだけでなく他の社員とも『セントラル・クリエイト』は良好な関係を築くようになっていた。
因みに彼らを連れてくるために馬車の御者をしていたのは、別の世界線で慣れない会計業務をやっていた『サイクロプスの男』だ。彼は、今はロングロング・アゴーに引き抜かれて仕事をしている。
「そういえば、今度のゲームはさ、アイテムクラフト要素をちょっと取り入れてみるつもりでさ。リマ、悪いけど力を貸してくれないか?」
「ウヒヒ、もちろんだよ! けど……ヨアンも手伝ってくれる?」
「ああ、もちろん! 種族の特性に合わせた難易度調整なら、任せてくれよ!」
それぞれの種族の特性にあわせないと、この世界ではゲームは売れないし、市場の成熟度合いや文明水準も考えないと、良いゲームは作れない。
別の世界線でのリマは、それを知らずに独りよがりなゲームを作り失敗した。
だが、この世界線ではリマは頼もしい仲間に囲まれている。
次は恐らく成功するだろう。
「そりゃ助かるよ。……ほんじゃ、俺は忙しいから帰るけどよ。……リマ、クーゲル。結婚おめでと。祝福すっぜ」
そう、はにかむようにつぶやくと、リグレは去っていった。
……それからしばらくして、宴会は終わりを迎えた。
「クーゲル……ボクを選んでくれて……ありがとうね?」
「こっちこそ。あのさ、リマ……」
「なに?」
クーゲルはリマのことをぎゅっと抱きしめて、力強い口調で答えた。
「誤解しないでほしいんだけどさ! あたしは別に、あんたの『催眠アプリ』の力が欲しくて結婚するんじゃないからね! あんたの優しいところが好きになったんだ! だから、万一アプリの力がなくなっても、離婚するつもりはないからね?」
そういわれて、リマは少し嬉しそうに顔を赤らめた。
「ウ……ウヒヒ、そう言ってくれたら嬉しいよ。……けど、ボクだってクーゲルの見た目が好きになったんじゃないよ? クーゲルの頼りがいと優しいところが、好きになった理由だから!」
そういわれてクーゲルも同じように顔を赤らめながら、抱きしめた手を離して見つめあう。
「そっか……。それならお互い、一生夫婦として過ごして行けそうだね?」
「うん! これからもよろしく、クーゲル! ……ん、また人数が増えたのかな?」
そういいながらリマは催眠アプリを取り出して、画面を見る。
……ずいぶん、制限人数が増えているのを見て、少しリマは笑う。
「ウヒヒ! 最近頑張ったから、また人数も増えてるね! そうだ、こんなに人数が増えたなら……この世界に来た時からやりたかった、『あれ』ができるな……」
そしてリマは、催眠アプリを「こちら」に向けてきた。
「『君たちはこれから、きっと楽しい人生を過ごせるようになる』っと……」
キイイイン……と、音が響く。
その様子を見て、クーゲルが不思議そうに尋ねる。
「リマ、いったい今、誰に催眠掛けたの?」
「ウヒヒ、さあね? ……それじゃ二人で飲みなおそっか?」
「いいね! 今日はたっぷり飲むから、覚悟してね?」
そういいながら、リマとクーゲルは手を取り合って、温泉街に繰り出していった。
催眠アプリで恋人を寝取られて「労働奴隷」にされたけど、仕事の才能が開花したことで成り上がり、人生逆転しました フーラー @fu-ra-
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