梅雨

花宮零

梅雨

 6月某日。仕事終わり、外に出たら雨がしとしとと降っていた。しまった。朝は晴れていたから傘を持ってくるのを失念してしまった。仕方なくそのままオフィスを出る。小雨が私の髪やスーツを湿らせる。時々顔につく水滴を指で拭いながら駅へと向かう。

 梅雨入りを宣言されたのは数日前。その宣言を皮切りに梅雨前線は我が物顔で雲の上に居座っている。雲の上なのか下なのか、はたまた別のところにいるのか、そんな詳しい話は文系の私には分からない。でも、なんとなくにやっと口角を上げた梅雨前線が雲の上にどかっと座っているイメージが容易に浮かぶ。その梅雨前線に私はべっと舌を出す。

 梅雨は嫌いだ。ゲリラ豪雨と違ってぽつぽつと振り続けるその雨は、そのか弱さにそんな威力を持ち合わせているのかと思うほどによく洗濯物や私達を濡らす。音もなく近づき首をかっ切る忍者のようで恐ろしく感じるのだ。とまあ、そこまで深く考えている訳でもないが、とにかく濡れるし片頭痛は起こるし最悪なのだ。

 ただ、唯一好きな点もある。紫陽花が見られることだ。小さな花々が集まってひとつのドーム型の花を織り成す様子は見ていて癒される。それに、色も綺麗だ。水色、紫、ピンク。時々白も見受けられる。パステルカラーのそれらを見ると、それだけで頭の中を詩的表現がよぎる。それに、雨の降った後にその露が花の上で、雲に隠れた太陽の光を淡く反射している様子もまた美しいと思う。

 紫陽花に思いを馳せていたら、いつの間にか雨が止んでいた。じめじめとした空気だけがブラウスとともに私にまとわりつく。

 「あ」

 私は静かに微笑む。だってそこには、一朶いちだの紫陽花が咲いていたのだから。

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梅雨 花宮零 @hanamiyarei

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