第4話 真相

「あんたってひどいなあ。ちゃんと名前があるのに」


女から男へと変わった人は泣き真似をした。

 本当は泣いてなどいないくせに。

 水弦はその様子が気に入らなかった。

 自分をこんな不思議な現象に巻き込んだ元凶がクスクスと笑って楽しそうにしているのだから。それは当事者からしてみれば怒りだって湧くだろう。


「幾度も私に人生を繰り返させて名前が複数ある私にそれを言うのか?なんとも皮肉なものだな」

「あっはは、そうだね。ボクが言うことではなかったか。でもね、これだけは言わせてほしいんだ。実はね、君が何度も違う人生を送ることになったのはちょっとした手違いだったんだよ」

「手違い?」

「そうさ。本当はね、君に渡したその袋はただのお守りで力の持たないものであったんだ。鍵だなんて言ったけれどね。だが、それが変わってしまった。君が願ってしまったんだ。まだ生きたいと、自由に生きる人生がほしいと。それがトリガーとなった」


男は目を伏せ、なんとも言えない表情をしている。自分はこんなふうになるだなんて思っていなかったと庇護しているのかとも思えるが、事実なのだ。

 水弦が、カゴの中の鳥であったという人生の終わりに願ったから。自由に生きたいとそう考えたから。それがトリガー。つまり引き金だった。

 男はその現象を止めることができなかった。彼女は何故か、認められた。彼女の何が気に掛かったのかは分からない。だが、世界が認めた。彼女が別の人生を生きることを。

 そして、彼女も求めたのだ。また生きたいと。


 だから、止めることなどできなかったのだ。


「私の、せい……?」

「君のせいではない。最初はボクがその袋を渡してしまったから起こったことなんだ。君がもっと自由に生きることができたら楽しいんじゃないかって思ってただの小さな袋を、鍵だなんて言って渡したから。けどね、それももうお終いにできる」

「なぜだい?」

「君がもう満足したようだからね。少しでも満足していなかったらまた戻る。だが、君が頼れるような人もそばにいるようで、君が自分で抱え込むこともしなくなったから。その袋もそろそろとれるようになると思うよ。コンが教えてくれたんだ」


 神奈月をチラッと見た後に、自分が抱えている動物を撫でた。

 

「そうだね、私には優秀な助手がいるからもう満足だ。それで、そのコンとやらはなんだい?」

「コンは魂の案内人。こんなに小さい姿だけど狐なんだよ」

「魂を回収しにきたんだ。そこの水弦がこの人生を終える時回収しなければならないから、その前に見ておこうと思って」

「しゃ、喋った⁈」


今まで一言も発していなかった神奈月があまりの驚きで声を出した。


「そりゃ喋るよ。教えてもらったって言ったじゃないか」

「私も喋るだろうとは思っていたよ」

「当然だろう?喋らなければ案内人などできないから。さて、もう帰ろうかな。用事も終わったからね。わざわざその子を女性に見せる幻術を施すのも疲れたからもう寝たいんだ」

「そうだね〜帰ろうか。じゃあね、水弦ちゃん。この人生をちゃんと最後まで生き切るんだよ。探偵としての人生は面白そうだし」

「言われなくてもそのつもりさ。神奈月くんもいるからな」

「最後まで付き合いますよ!」


巻き込まれた当事者と、その元凶。そして、魂の案内人と当事者の相棒。

 その者たちが笑い合って別れたのだ。

 彼女たちの道がまた交わることがあることはあるのだろうか。

 だが、少なくとも彼は、あの男は見守っているのではないだろうか。コンという狐だって彼女が人生を最後まで生き切るまで見守るだろう。

 

 きっと、この人生を最後まで生き抜いてループを終わらすことができる。

 そう信じて水弦はその時に笑えるように全力で生きようと思った。

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その探偵は早くループを解決したい ぷりん @HLnAu

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