第3話 聞き取り

 水弦たちは事務所を出た。

 冬なため冷える中での聞き取り。

 人間も寒いと感じるが、猫はもっと寒いと感じてしまうだろう。

 水弦は早く見つけてあげたいとそう思った。

 人生を繰り返すことで捻くれた人間にはなったが、動物を愛おしく想う心は変わらずあるのだ。一番最初の自分が鳥と会話することだけを楽しみにしていたように。


「よしっ、片っ端から聞いて回るからついてくるがいい」

「あの女性宅の周辺で聞くんですよね。分かってますよ」


そうして二人は聞き取りを開始した。

 道行く人、商店街の人……多くの人に聞いた。しかし、見たと言う人が誰もいなかったのである。

 普通なら諦めてしまいそうなほどの時間だが、見た人がいないか探して歩いていた。というより、彷徨っていたと言う方に近いのかもしれない。


「水弦先生、今日はもう帰りませんか?」

「君はもう少し探したら見つかるかもしれないものを諦めるのかい?私は自分のことも他人のことも諦めないけれどね」


 水弦は諦めが悪い。

 それは彼女自身分かっていることであり、それが彼女の誇り。

 だからこそ神奈月もついていこうと思うのだ。諦めが悪く横暴で、振り回されるけれど誰よりも依頼主のことを考えている水弦のことを神奈月は尊敬しているのだから。

 本人に言うと調子になるからと言わないようだが。


「神奈月くん、いい情報が入ったぞ!なんとな、白い猫が通ったのを見たらしいのだ‼︎」

「この先に神社があってのぉ。そっちに向かってたんじゃ。数分前じゃったかのぉ」

「本当ですか⁈ありがとうございます!」

「ではの、頑張っての」


老人が情報をくれた。

 近くの神社に行った、と。

 それを聞いてすることはただ一つ。


「向かうぞ神奈月くん!」

「置いていかないでくださいよ⁈」


二人は走った。

 数分前に見たと言っていたものがいついなくなるか分からないから、逃さないように急がねばならないのだ。


「こ、ここのこと、だな」

「体力ないんですから落ち着いてください」

「いや、もう走る必要はなさそうだ。もう猫は見つかったのだからな」

「え?」


水弦は冷静にそう言ったが神奈月は訳がわからない様子である。それもそのはずだ。

 彼からは水弦の視界に入っているものが見えていなかったのだから。

 見ようと思って神奈月が移動して目に入ってきたものは……


「依頼されたかた⁈と、白猫⁈」


一人と一匹であった。

 見つけてほしいと依頼をしたはずの女性が立っている。しかも猫を抱えて。

 その光景を表すのであれば妙としか言いようがない。

 依頼していた人物が、探していたペットと一緒にいるのだから。


「あの時の違和感はこれだったか。君は嘘をついていたのだね。しかも二つ」

「私が嘘を?なんのことですか?この子は依頼をしたあとに自分で捜索をしていたら無事に見つけることができたのですよ」


女性ははぐらかすように笑顔になった。

 その言葉も本当だという保証はない。

 笑顔さえも嘘くさいと感じさせる。


「いいや、それが嘘なのだよ。まず一つ、君のペットは猫ではない。そして二つ目、こちらが最も重要であり私に関係があること。君、姿を偽っているね?隠しているようだが仕草で分かってしまうよ。もう少し上手く隠せば気付かなかったかもしれないのにねぇ」


水弦は得意げな顔を浮かべて言い放った。

 女性が嘘をついていると確信しているのだ。

 そんな水弦を見て女性はまた笑った。


「あっははっ、正解。初めて会った頃より君は随分変わったようだね。コン、術を解いてくれ」


女性は抱えていた猫?に向かって言った。

 術というものが解かれると女性の姿は変わった。


「こちらの姿なら見覚えがあるかな?」

「っ、あんたは……」


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