第2話 依頼
「それで君は具体的に何をしてくれるのかな?」
「具体的に……うーん、水弦先生は何をされてきたんですか?」
「私かい?そうだねえ、無理やり取ろうとしたり力のある人にネックレスごと粉砕してもらおうとしたりしたかな」
水弦はやれやれとため息をついた。
力技でどうにかしようとして取ることができなかったのだから不貞腐れても仕方がないだろう。
しかし、外したいという想いは消えてはいない。どれだけ不貞腐れても水弦の中からその想いが消えることは絶対ない。
それほどまでに、何度も何度も繰り返すことを苦だと感じてきたのだ。
早く解放されたい。それが今の水弦が生きる意味で、原動力である。
「そうですか……とりあえず力技はやめておきましょう。その中って記憶が入っているんですよね?なにか起きたら困りますから」
神奈月は水弦の話を聞いて思ったことがあった。外したいという気持ちは尊重したいが、記憶が入っているとなれば力技は不安だということだ。
と、二人がそんな話をしている時だった。
事務所の扉が開いたのは。
そこには一人の女性が泣き腫らした目をして立っている。
そう、ここは探偵事務所だ。その女性を依頼主だと確信した水弦は助手である神奈月に命令をした。
「今からこの女性の話をお聞きするから神奈月くんはお茶を淹れてくれないかい?」
「はい。貴女はそちらへどうぞ」
神奈月が案内をし、女性と水弦が向かい合うソファーに座ることとなった。少し経つと女性が話し始めた。
「あの、ここってどんな依頼でも受け付けてるって本当ですか?」
「うむ、基本はね。それでどんな依頼かな?」
「わ、私は逃げてしまった自分のペットを探しているのですが見つからなくて……そんな時、噂を聞いてここに来ました」
「その依頼、引き受けよう」
即答だった。考えることもせず水弦はその依頼を引き受けた。水弦にとってペット探しなど容易いものであるからだ。
今回もすぐに見つけることができるだろうと思ったのである。
「そんな簡単に引き受けていいんですか?」
紅茶を淹れたカップを二人の前に置きながら神奈月は言った。自分の問題もあるのにそんなに易々と依頼を受けていいのかと気になったのだ。
「ああ。私の探偵としての勘が告げているんだ。この依頼を解決できたら私の問題もどうにかなる、ってね」
水弦はドヤ顔をした。
自分の勘を信じているので心配はいらないと言うかのように。そんな二人の会話を変だと思っていても女性はそれを口には出さず嬉しそうな顔を浮かべる。
「ありがとうございます!どうかよろしくお願いします」
「お礼はいい。これは私のためなのだから。さて、その紅茶を飲みながらペットの特徴を教えてもらおうか」
「ええ」
女性が言った特徴は
【毛は白く、尻尾が長く目に少しだけ傷がある】この三つだった。
女性が飼っているペットは猫。
数日前のことなのでもう遠くに行ってしまったかもしれないという情報もある。
「了解だ。その情報があれば十分だよ。時間はかかるが見つけ出してみせよう」
「お願いします」
もう一度お辞儀をし、女性は探偵事務所から出ていった。
その時ほんの少しの違和感を水弦は持った。なぜか女性が笑っていたからだ。
依頼を受けた時も嬉しそうではあったが、それとは違うようなものを感じたからだ。
だが、それを気にせず仕事をすることにした。
「神奈月くん、行くよ」
「えっ、行くってどこへ?」
「決まっているだろう?聞き取り調査だよ」
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