第14話

「そういえばツカサ、どうしてスキルを使わないの?」


連中の後を追って洞窟の中を歩いていた最中、突然フォーリットが俺に向けてそう言った。

”スキル”などというものを聞いたこともない俺は、その質問に質問で返すことにする。


「スキル?何のことだ?」

「えぇ…。スキルも知らないの…?」

「悪かったな…」


フォーリットは俺の事をジト目で見つめながら溜息を吐いたのち、こう言葉を続けた。


「スキルっていうのは、特別な技のようなもの。例えば炎を放ったり、水を発生させたり、他にもいろいろとできる」

「な、なんだそれ…。ラーク、お前も知ってるのか?」

「知ってるには知ってるが…。だがスキルっていうのは、勇者や上級モンスターにしか覚えられないものだろう?下級モンスターのゴブリンに扱えるものとは到底思えないが?」


ラークの言っていることはおそらく事実なのだろう。

そこに嘘をついているような様子は感じられず、むしろスキルというものを扱えない自分たちの事をやや悔しく思っているような雰囲気さえ感じさせた。

しかしフォーリットは、そんなラークの言葉を少し否定した。


「普通はそう。だけど、ツカサは違う。スキルを習得するに必要な素養と才能を、持っているように感じられる」

「お、俺に……素養?才能??」


素養、才能…。

人間時代も含めて、今まで生きてきて完全に無縁だったそれらの言葉。

そんなものがゴブリンになった俺にあると言われても、今一つピンとこない…。


「言いすぎだろフォーリット…。確かにこいつはゴブリンにしてはなかなか強いみたいだが、だからってスキルは…」

「来い!!炎の刃バーファード!!」

「「っ!!!!」」


炎なんかが出せるらしい、というフォーリットの言葉のままに、俺は適当に炎の姿を思い浮かべ、適当な名前を発して剣をふるってみた。

…するとその瞬間、構えた剣先からあたり一帯に向けてすさまじい勢いで炎が沸き上がり、うす暗い洞窟の中を明るく照らし始める。


「ほら、やっぱりできた。ツカサには才能が」

「言ってる場合か!!ツカサ!!逃げるぞ!!」

「やっべやっべ!!!!」


スキルっぽいものを放つことに成功したことを喜ぶ間もなく、俺たちは目の前に沸き上がる火の手から逃げ出すことに全神経を注ぐ。

ただでさえここは洞窟の中で、逃げ道は限られているというのに、ちんたらと動いていたらそれこそ燃えカスになってしまいかねない。


「は、走れ走れ!!!」

「うおおぉぉぉ!!!」

「おー」


俺はそのままフォーリットを抱きかかえ、ラークと並んで駆け出し、全速力でその場から退避する。

…自分たちで起こした火に焦がされて死ぬなんて、こんな恥ずかしい最期はない。

その思いが俺たちの体を突き動かし、なんとか火の手を避けて退避することに成功する。


「ツカサ、まだ自分の力を制御できていない。だからせっかくのスキルもこんないい加減になってる」

「そ、そうなのか…?自分じゃなにがなんだか…」


俺は抱きかかえていたフォーリットをゆっくり地上に下ろすと、先ほど炎が放たれた剣先を改めてまじまじと見てみる。

…が、特に変わったところなど何もなく、自分の体にも特に何かの変化があるようには感じられなかった。


「なんか夢でも見てたみたいだな…。体にも剣にも何の変化もないし…」

「体にも…変化がない?」

「??」


ぼそっとつぶやいた俺の言葉を聞いたフォーリットは、やや不思議そうな表情を浮かべながらこう言葉を返した。


「ほんとに体に変化がないの?どっと疲れたり、痛んだりしていないの?」

「あ、あぁ…。特に何も…」

「おかしい。普通スキルを放ったら、かなり体を消耗するはずなんだけど」

「お、おいおい…」


フォーリットはそう言うと、俺の体のすみからすみまでを凝視して回る。

…俺にはなんだかそれが小恥ずかしく感じられ、困った俺はラークに助けを求める。


「ラ、ラーク…これは一体どういう…」

「さぁな。俺は空気の読める男だから、別にお前たちがイチャイチャしてるのを止めたりはしないぜ?」

「か、からかうなよ…。別にそんなんじゃ…」


すると、フォーリットは俺の体を観察し終えたのか、そのまま俺に向けてこう言った。


「ほんと、不思議な体をしてる。もしかしたらツカサは、本当にこの世界を変えちゃう存在なのかも」

「い、言いすぎだってフォーリット…」


…フォーリットは当然、俺が転生してこの場にいることなど知らない。

しかし彼女はまるで俺の秘密が透けて見えているかのように、どこか楽しそうで、興味深そうな表情を浮かべていた。


「と、とにかく進もう。またいつ勇者たちがここに来るとも限らない。早くキングに会って話をしようじゃないか」


俺は半ば強引に話題を終了させると、そのまま二人を伴ってキングを捜索するべく再び動き始めるのだった。


――――


…そんなツカサたちの様子を、気配を消して見つめていたゴブリンがいた。

他でもない、ツカサたちがキングへの手がかりとしていたルガンである。


彼は自身の胸に沸き上がる確かな熱い思いを感じながら、その心の中でこう言葉をつぶやいた。


「(こ、この感覚…。初めてキングと出会った時と同じ…。ツカサ、やつはもしかしたら…)」

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初期ダンジョンのゴブリンに転生した結果、挑んでくる勇者たちを空気を読まずに返り討ちにしてしまっています 大舟 @Daisen0926

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