食の教科書の1ページ目

この作品はとんでもない文学パワーを放っている。

正直私も他人に強要するような菜食主義の方には嫌悪感がある。その嫌悪はあくまで法を犯すような強要に対してであり、本来は菜食主義そのものを含んではいけない。だけど世間は菜食主義全体に対して悪いイメージを持ちつつあると思う。

この作品は菜食主義の方が持つ「肉を食べる」という罪悪感を「冴えたアイデア」ですべての人が自分のことのように考えることができる形に拡張している。この話を読んで肉食について影響を受けない人間はいない。それほど優れたアイデアである。

だから私は前半で少し怖くなった。とんでもない冴えたアイデアだが結論が極端にどちらかに寄っていたらどうしよう。社会で今進行している問題に対して強烈な文学パワーをもって片方の主張をするものだったらどうしよう。それは文学の力を利用した主義主張であり私が評価すべきものではなくなってしまうから嫌だった。

こんなに美しく両方の価値観を書いてしまうのか。お見事なのは彼女にも主人公にも根まで語らせなかったこと。そして最後の食事のシーンにすべてを委ねたこと。文学でした。なによりそこに作者さんの高い意識を見ました。あなたはこころの綺麗な人ですね。

多くの人が答えを持たない問題に、冴えたアイデアで読者が自分のことのように考えられるように仕掛けて、どちらの立場も理解させてしまう。正しい文学の在り方を見ました。すべての人が読むべきです。また肉食について悩む人、無関心な人、また無用に罵り合うような人は必ず読むべき作品です。手放しで称賛します。