『アイ』

『雪』

『アイ』

 この身に降り掛かる数多の痛みこそが愛なのだ、と彼らは言った。怒り任せに、或いは上機嫌に笑い、時には理解不能な涙を浮かべながら、彼らは私を殴り付けた。

 身体中に侵食する鈍く残る痛み、極限状態にほど近く最早何かを口に含む事すら身体が拒絶するような耐え難き空腹と、何故私だけがと言う孤独感とも疎外感とも取れる無言の叫び、心身を蝕むようなこの耐え難い苦しみがお前の為になるのだ、と彼らは言っていた。

 そんな彼らの言葉が上っ面ばかりで、自分達の自己陶酔の為の都合の良い免罪符だという事は子供ながらに朧気ではあるが分かってはいた。そして、それが確信に変わったのは彼らが死に、たった一人でこの世界で生きていかねばならなくなってからの事だった。


 私のこの身体にはクズ達の血が流れている。どれ程器用に上部を取り繕ったって、所詮はいつか剥がれる化けの皮でしかない。クズの子はクズになる他ない、それは私に彼らと同じ穢れた血が私には流れているが故。

 人が苦しむ様に快感と愉悦を覚え、人が痛がる様子が堪らなく愛おしくなり、気分が高揚するのを抑えられないのは、彼らにそうあれと身体へと刻み込まれたから。

 頭ではこの在り方が間違っているという事など百も承知である。しかしながら、それを否定する事が私には出来ない。それだけが私を形作る存在証明アイデンティティであるが為に。


 そんな私を好いてくれたのは、どうしようも無い程に馬鹿な君。今までの有象無象と違い、私の本性を知って尚好いてくれている稀有な人物だ。無論、私達の相性が良いだなんて私は決して思わない。何故なら君が私に合わせてくれているだけだってわかっているから。彼は決して頭のおかしい人間にしか興味を抱けない異常者では無い。平々凡々、極めて普通の価値観を持って、話を聞く限りは至極真っ当にこの世界を生きていた。彼には私達が呼ぶ『』というものが世間の言うソレとは異なる事を知っていたし、痛みや苦痛に性的興奮を覚える人でも無かった。何処までも普通でありながら、私のありのままを受け入れてくれていた。

 そんな君の優しさと好意に甘えきって、私は在るがままに振舞う。衝動と欲望が導くままに、君に暴力あいを振るい、苦痛あいを君に刻み込む。でもそれはどうしようも無い程にわたしの為なんだ。


 そう遠くない未来、何時の日にか私はきっと君を手に掛けようとする日が来てしまうだろう。

 これは予感では無く確信だった。なんたって私はあのクズ達の血を引いているのだから。彼らから受け継がされたこの愛情くるしみを、ただ君にも理解して欲しいという下らない承認欲求の為に。

 だからその前に、或いはそうなった時には、どうか私を殺してほしい。あの日、クズ達を殺したの私のように。

 どうしようも無く愛しい君の手で。

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『アイ』 『雪』 @snow_03

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