第19話 エピローグ

「――いやー! 終わった終わった!! もう思い残すことはないやー!」


 師匠はそう言って、空になった酒瓶を勢いよくテーブルに置く。その笑顔は実に晴れやかだ。


 俺と師匠とスイの三人は、王都の外れにある小さな酒場でささやかな祝賀会を開いていた。


「しかし、よかったのですか? 結局アスタモンド王に直接復讐しなくて」


 スイが尋ねる。そう。結局師匠は実の父親――アスタモンド王の命までは取らなかったのだ。


「いいのいいの。どうせ、もうアイツは王じゃいられないだろうし」


 師匠の言うとおり、アスタモンド王はその地位を失うことになるだろう。なにせ、国民を魔女に売ろうとした挙句、その事実を隠蔽するためにその場にいた者を皆殺しにしようとしたのだ。今頃あの場にいた騎士たちによって投獄されていることだろう。


「にしても、師匠。こんなところにいていいんですか? アスタモンド王の娘であることが正式に認められれば、女王に就任する可能性もあるのでは?」


 師匠は戦いの決着後、逃げるようにその場を去ってしまったので、今頃騎士団は師匠を探しているのではないだろうか。


 しかし師匠は俺の心配をよそに、面倒くさそうな顔をした。


「いや、女王とかガラじゃないし。私には自由が似合ってるよ」


「まぁ……それは確かにそうですね」


 どーいう意味よそれ、と師匠が睨みを利かせてくるがそれを無視する。


「では、師匠はこれからどうするんですか?」


 スイが師匠に尋ねた。師匠はやや赤みを帯びた顔で、うーんと唸って腕組みをした。


「……この国を出て、いろんな場所に行ってみようかと思ってるよ。ほら、私って子供のときからずっとあの森で暮らしてたからさ。晴れて自由の身になったことだし、世界のいろんなもの――美しかったり、そうじゃなかったり、とにかくいろんなものを見てみたくってさ」


「なるほど、それはいいですね。では、最初は東のゾドト国なんてどうでしょうか。私、一度行ってみたかったのです。なんでも海鮮類が美味だそうで」


 スイの言葉に俺も頷く。


「俺は北の大陸に行ってみたいです。小さい頃に読んだ物語の舞台になっているので、一度行ってみたいと――」


 気がつくと、俺とスイのそんなやり取りを師匠はポカンとした表情で見ていた。


「? 師匠、どうかしましたか?」


「え? いや……二人もついてくるの?」


 俺とスイは顔を見合わせた。


「……もちろん、ついていきますよ。特にやることもないですし」


「でも、騎士団のところに戻れば表彰されて、この国で一生遊んで暮らせるかもしれないんだよ?」


「そんな生活に興味はないです。俺は――師匠と一緒にいたい」


 俺の言葉に、師匠は驚いたような表情をした。


「スイ、お前は?」


「私の居場所はお師匠とグリム様のお側にしかありません。もちろん、ついていきます」


「だそうですよ。師匠」


 師匠は俺とスイの顔を交互に見た。それから、テーブル上のお酒を一気に飲み干した。


「うわぁ……」


 俺がドン引きしていると、師匠は今度こそ確実に赤くなった顔に満面の笑みを浮かべていた。


「――じゃ、今日から私たちは、ともに旅をする『パーティ』ってやつだ! よろしくね!」


 こうして、俺たちは旅のパーティを結成した。後に『最強のパーティ』としてこの世界に名を馳せることになるが――それはまた別の話だ。


「――ねぇ、グリム、スイ。ひょっとしてだけどさ、私たちって実は最強なんじゃない?」


「師匠、酒場で『自分たち最強!』とか言ってるパーティ、イタイですよ」



 END






 本話にて完結となります。

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追放少年はバグにまみれて〜呪いの子として捨てられた少年が力を使いこなし最強となって帰ってくるまでのお話〜 雨悟 凛 @lyn_amasato

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