第18話 王都襲撃 その10
「――ここからは、私の戦いだね」
玉座の間、中央。リオンは背後のスイとグリムを庇うようにして立っていた。その右手にぽっかりと空いていたはずの鍵穴は、今はもう見る影もなくなっている。
呪詛の魔術。その効果によって人喰いの魔女と合成魔獣に攻撃を加えることができなかったリオンは、ついにその呪いを破り自由の身となったのだ。
「――で、それでどうなるって言うのよ?」
そんなリオンに向けて、人喰いの魔女は冷たい声で言い放つ。心底つまらないものを見るような目でリオンを見据えた。
「あのねぇ、三人がかりなら私の
「三人がかりじゃないよ。戦うのは私一人さ」
人喰いの魔女はぽかんとした顔でリオンを見つめた。
「……は?」
「戦うのは私一人だって言ったのさ。弟子たちには十分頑張ってもらったからね」
人喰いの魔女は唖然とした表情になる。
(――このバカはなにを言っているの?)
リオンと人喰いの魔女のやり取りを聞いていた騎士たちも同様の感想を抱いていた。グリムもスイもまるで歯が立たなかった合成魔獣を一人で相手取るなど、無謀もいいところだ。
唯一、グリムとスイだけが、リオンの言葉に疑問を抱いていなかった。
「もういいわ。アンタからさっさと死になさい」
人喰いの魔女は苛立った様子で合成魔獣に指示を出す。リオンめがけて飛び出した合成魔獣。その斬撃が、リオンの頭上へと振り下ろされた。
頭上から振り下ろされた刃。その一撃は、ぴたりとリオンの顔前数センチのところで静止した。
「――なっ!?」
否、正しくは受け止められていた。リオンの右腕一本によって。
上から切り込まれた刃は、リオンの纏う黒いローブを貫通することができず、刃はそこで静止していた。
「どうしたんだい? もう終わりかい?」
リオンが挑発的に尋ねる。合成魔獣は雄叫びを上げ。二本の大刀をまるでみじん切りをするようにリオン目掛けて何度も振り下ろした。が、その斬撃は全てリオンの右腕一本によって受け止められる。
「ゴオオオ――!?」
困惑した合成魔獣の手が止まる。その様子を見たリオンが、にこりと笑みを浮かべた。
「――それじゃあ、私の番」
次の瞬間、リオンの纏っていたローブが消えた。
「――は?」
人喰いの魔女は思わず声を漏らしていた。
自身の最高傑作。最高の防御力と攻撃力を持つはずの合成魔獣。その体が、真っ二つに切り裂かれていた。
「――!!?」
体を上半身と下半身に両断されて、その合成魔獣は一声も上げることなく絶命した。ごとん、と音を立てて床に倒れ伏した亡骸が、黒い灰となって消滅してゆく。
「……なに……なにが……」
魔女の口から言葉がこぼれ落ちる。リオンは人喰いの魔女へと歩みを進めながら、いつの間にかまた纏っている
「
淡々と自身の力について話すリオン。人喰いの魔女は思わず後ずさりをした。
が、リオンは魔女を逃がさなかった。再びリオンの纏っている黒いローブ――『存在しない空間』は形を変え、魔女の両手と首を拘束し地面へと縫い付けた。
「がはッ――くそ! 離せっ!!」
藻掻く魔女は見た。自身を拘束する黒い物体が形を変え、首から真上に向けて二本の支柱のようなものが伸び、その間を渡すように漆黒の刃が形成される。
魔女は一目でその形状が何を模しているのか理解した。それは古来より何人もの罪人を葬ってきた断罪の刃――ギロチン。
「――ば、バカなっ!? よせ!! やめろ!!」
魔女は必死になって拘束から逃れようともがいた。が、黒い物質はまるで空間そのものに固定されているかのようにびくともしない。
「最後に何か。言い残すことはあるかい」
「ヒッ――」
自分を見下ろす女の冷たい瞳に、人喰いの魔女は短い悲鳴を漏らした。
「わ、分かった。取引しよう。アンタと私が組めば、この王国を丸ごと手に入れられる」
魔女は引きつった笑みを浮かべ、震える声で提案する。が、
「ああ、悪いね。アンタとはどうあっても組むつもりはないよ」
リオンは視界の端で、グリムとスイを見た。傷と血に塗れた愛弟子の姿を。
「――こう見えて、イラついてるんだよ。私」
「……や、やだ、やめて嫌だ助け――」
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