第5話「屁祖、そして……」

「ふっふっふ、屁爺を倒すか」

「屁祖!」

 宙に浮かぶ屁祖は、屁爺がやられても余裕のようだった。

「オナラーマン、君は女は殴らない主義らしいね?」

「そうだな」

「勿論僕は人間ではない。だから気にすることはないが、女性ではある。だから紳士精神に反するというのなら、こういうのはどうだろう?」

 屁祖はニヤリと笑った。

「僕に触れられたら、僕の負けで構わないよ」

 余程自信があるのだろうか、触れただけでいいと言う。それならば……俺はおならを溜めて、一気に放出した。

「だ、駄目! オナラーマン!」

 屁っちゃんが叫んだが、俺はもう屁祖の傍まで飛んでいた。だが……。

「な、なんだ? 急に体が動かない!」

「はっはっはー! やはりプップー博士のスーツとはいえ、僕のおならの前では無力のようだね」

 何がどうなってるのか、わからなかった。俺は屁祖の目の前で止まり、体の自由を奪われたのだ。

「これぞ、我が秘技、屁操! この技をくらったものは僕の思うがままなのさ。さぁ、オナラーマン、君の必殺技で裏切り者の屁っちゃんを倒すんだ!」

「やめろ! やめてくれ! う、うう、うわあああ!」

 俺の体は俺の意思に反して、屁っちゃんを標的とする。そしてオナラージェットパンチを放とうとしてしまう。


「濃臭屁ボム!」

 屁っちゃんは俺に屁ボムを浴びせた。すると少し自由が効くようになり、俺はすんでのところで屁っちゃんを避けた。

「ハァハァ……ごめん、屁っちゃん。ありがとう」

「屁祖様のおならは強力よ」

「くそ! どうしたら!」

「ふはは! 僕にかなうものなどいない! 勿論、逃がしもしないけどね」

 グラウンドの方にユラユラと歩いてくる影が複数見えた。

「屁祖様に操られてる人達だわ!」

「僕を倒さない限り、彼らが解放されることはない!さぁどうする?」

「くそ! この外道め!」

「ふふふ、何とでも言え! さぁ、僕の操り人形になりにくるがいい!」

 俺は何か手がないか考える。そして一つの手段が思い浮かんだ。

「物は試しだ! 防屁!」

 俺はおならの膜を常に出しながら、飛んで近づいた。これならばどうだ?

「なるほど、考えたな。だけど……」

 屁祖は俺のスピードでも捕まえられない速さで避けた。

「僕はスピードにも自信がある。パワーはないけど、屁ネルギーの最大量も君より上だと思うよ」

「く、くそ!」

「屁ネルギーの差で時間の問題ではあるだろうけど、それじゃあつまらないし、本気を出そうかな?」

「う、うわあああ!?」


 濃厚な屁操で、防屁を使っているにも関わらず、再び体の自由を奪われる。

「屁っちゃんに向けても解除されそうだし、あの壁に突撃しなー!」

 俺は言われるがままに壁に突撃した。屁っちゃんの屁ボムで屁操は解除できたが、為す術がなかった。操られてる人達に囲まれてくる。

「無様だな、オナラーマン」

 聞き覚えのある声がした。俺は顔を上げた。

「お、お前は……ヘコッキー!生きていたのか!何故ここに?」

「ふっ、俺はケジメをつけるタイミングを見計らっていたのさ」

「意地悪な人ね」

「俺も屁祖の力を把握しきれていたわけじゃない。オナラーマンが勝つならそれでも良かったしな。だが、オナラーマン。お前では彼女には勝てない」

「悔しいが、ヘコッキー、お前の言う通りだ」

「ヘコッキー、あなたなら勝てるの?」

「いいや、俺でも勝てないだろう」

「くそ! どうにもならないのか?!」

「一人の力では勝てない。だがオナラーマン、俺とお前が組めば、無限の可能性がある」

「どういうことだ?」

「屁祖の力もおならだということだ。風程度では無理だろうが、」

「そうか! ヘコッキー!」

「理解したようだな、オナラーマン!」


「へぇ、誰かと思えば、ヘコッキーじゃないか。君も寝返ったんだね」

「そういうことだ」

「そんなことで今までの事が精算できるのかい?」

「過去を洗い流そうなんて考えはしていない。ただ、これが俺のケジメなんだ」

「そうかい。でも君でも僕にはかなわないよ?」

「それはどうかな?」

 俺とヘコッキーは屁祖を挟むようにして立った。

「二人がかりか。それでも僕の屁操は破れないよ」

「確かに近づけはしないかもしれないが、これならどうだ?」


 ブォンブォンと、おならを鳴らす、俺とヘコッキー。そして勢いよく、屁祖の周りを回り始めた。

「ふっ、徐々に近づこうが、射程に入ってしまえば、それまでだ」

 だが俺とヘコッキーは近づこうとしなかった。ずっと円を描いているのだ。そしてどんどんスピードをあげる。そして、おならの風が突風となっていき、やがて……。

「オナラーーーーーージェーーーット」

「屁バスターーーーーーーーーーーー」

「な、な、なんだこれは!?」

「ハリケーン!」

 竜巻を起こした。俺とヘコッキーのおならの竜巻は屁祖を巻き込み、暫くしてから収まった。

「捕まえたぞ」

 竜巻と共に上昇していった俺とヘコッキーは、遂に屁祖の腕を掴んだ。

「確か、触れれば勝ちだったな?」

「うぐ! うぐぐぐ」

「今更変更はなしだぞ?」

「くそう! 僕が……この僕が人間如きに!」

「人は確かにおならを下に見ているかもしれない。でもいつか、おならで笑顔になっていく世界がくるかもしれないんだ。だから支配ではなく、手を組み合わないか?」

「ふん! 人間はすぐ裏切る生き物だ! 信用できるか!」


「そうかもしれない。でも人は、いや俺はおならを使って人を幸せにしたいと思う。この匂いを嗅いでくれないか?」

俺は屁ネルギーを使って、特殊なおならをこいた。

「これは……なんだ!? いい匂いがする」

「金木犀の香りだな」

「わかるか、ヘコッキー。これぞ、必殺! いい香りのおならだ!」

「ふ、ふん! これがなんだって言うんだ」

「いや、これは凄いぞ、他の香りも再現できるのか?」

 俺はバラの香りや、ラベンダーの香りなどを再現した。

「この化学力を使えば、おならも下には見られないと思わないか?」

「しっかり研究解明すれば、支配は出来なくとも人から尊敬の目で見られることは確かだ」

「うむむむ……!」

「悪用するのではなく、役に立つことで、世界に認められるのはダメか?」

「熟考してみてもいいかもしれない」

「屁祖!」

「あ、あくまでも考えるだけだ!」

 地上に降りると、屁祖は屁操を解除した。操られていた人達は正気に戻った。俺は事情を説明し屁祖に謝らせた。怒りを浴びるのかと思ったが、人々は意外な反応を見せる。

「こんな女の子がこんな凄い発明をしたなんて。悪いことに使ったのはダメだけど、将来有望じゃないか!」

解放してから、俺は屁祖に言った。

「どうだ? 人に賞賛された感想は」

「ふっ、悪くないね」


 あれから高校卒業後、俺はある会社に入社した。その名も……。

「オナラーマン、屁っちゃん……ようこそ、オナラー社へ」

 ヘコッキーが出迎えてくれる。

「お主らなら、高校中退しても即採用じゃったんじゃがなぁ」

「そういうわけにはいかないよ」

 俺と屁っちゃんは、高校生活を続けながらヒーロー活動をしていた。だが悪はひっそり潜み、誰かを傷つけていく。そこで屁祖は会社を立ち上げることにしたのだ。社長に屁祖、副社長に屁爺、部長にヘコッキー。技術開発部署にプップー博士を含む、精鋭のおならの精が就くことになった。会社の事業としての活動は二つ。おならの臭いをいい香りに変える薬品(勿論副作用のないもの)の作成。そして……。

「むっ、早速だが、オナラーマンはA地区へ向かってくれ! 屁っちゃんはB地区だ!」

「了解です!」


 国の許可を得て、緊急おなら探知機を各地に置かせてもらった。これは、恐怖を感じたり、焦燥を感じたり、悪いことをしてる時のおしりから香る独特の匂いを、離れた場所から感知し本社に通報するというもの。

 勿論ハズレは多いが、本当にピンチの場面を救えた時もある。

『オナラーマン、屁っちゃん、聞こえるか?』

 ヘコッキーが通信を通して指示を出す。

『警察にも連絡してみたところ、A地区では通報もあったようだ。急いでくれ』

「わかった!」

 こうして俺は卒業後もオナラーマンとして、正義の味方をやっている。おならの国の力で、この国の平和と、おならのせいでいじめられる人たちを救えたらいいと思うんだ。今日も俺はおならで駆けつける!

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オナラーマン みちづきシモン @simon1987

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