第4話「屁爺」

 数日後、俺は小城おしろ鳴美なるみという、同じ高校の女子生徒と会っていた。

「まさか君が屁っちゃんだとは」

「ごめんね、私のせいで、尾道君がオナラーマンだということが……」

「というか、君はなんで俺がオナラーマンだと気付いたの?」

「いや、その……おならの匂いで」

 彼女は苦笑いしていた。まさかおならの匂いで気付くとは予想できなかった。

「とりあえず今のところ家族に危害を加えられたりはしてないけど」

「多分それは大丈夫だと思う。屁祖様は支配したいだけで、誰かを傷つけたいわけではないから」

「目的とかは知ってるの?」

「しっかりと聞いたわけじゃないから何とも言えないの。ごめんね」

「他の構成員は?」

「あとは、屁爺のみだと思うわ。リーダーの屁祖様を除けば」

「意外と少ないんだな」

「おならの国の力を十分発揮出来る人は限られてるからだと思う。あとは、人材を集めてる時に、丁度オナラーマンが噂になったのもあると思う」

「なるほど」

 俺は考えていた。あと二人なら、今のうちにアジトを叩いてしまえば解決できる。


「屁っちゃん、アジトの場所を教えてくれないか?」

 その日の夜、俺は屁ん身をして、屁っちゃんの案内でアジトの場所へと向かった。そこは、

「ここは……小学校?」

 門を飛び越え中に入っていく屁っちゃんを追う。

「人はいないのか? 当直の教師とかは?」

「ここにはいないわ」

 すると、そこで唐突に窓ガラスが割れた。グラウンドの方を見る。そこには一人の腰を曲げた老人らしき人物が立っていた。俺は窓を開け、グラウンドの方へ走った。

「待って、オナラーマン!」

 グラウンドに着くと、ヘコッキーがつけていたものと似た仮面をつけた老人が笑っていた。

「ふぉっふぉっふぉ、若いのぉ、ノコノコと出てきて」

「お前が屁爺か!」

「そうじゃ、そして……」

 屁爺は指で上を示す。上空には屁っちゃんのマスクの小さい版をつけた少女が浮かんでいた。

「僕が屁祖さ!」

『屁祖様!』

 今までなりを潜めていた、俺にオナラースーツを渡したおならの精が、姿を見せた。

「その声は、プップー博士か」

「それじゃあ、お前が……」

『彼女がおならの国の王女、屁祖様じゃ』

「人間なのか?」

『彼女は、突然変異で人間の姿のようになってしまった、おならの精なのじゃ』

「屁祖! お前は何故、王女でありながらおならの国の科学を悪用するんだ?」

「簡単なことだよ」

屁祖は真顔になって言った。

「僕は前々から気に入らなかったんだ。人間はすぐにおならを下に見る。だが人間達の科学力など、おならの国の力に比べたらカスみたいなもんさ! だから思ったんだ。僕が人間のこの国をおならの国の植民地にして、世界を支配し全ての人間をおならの精たちのために働かせようとね!」


 なんて馬鹿げた目的だ、と思った。

「そのために集められていたのが儂らというわけじゃ。さて、お話はお終いじゃ。どうじゃ?儂らと共に、屁祖様の夢の実現を手伝わんか?」

「ふざけるな! お前らの企みは俺が阻止する!」

「ふむ、交渉決裂じゃな。ならば容赦はせん」

 屁爺は背を向けた。そして、

「屁ガン!」

「オナラーマン! 危ない!」

 パァンという音がする。同時に屁っちゃんが俺にぶつかりながらとんできた。

「くっ! 大丈夫? オナラーマン」

「!? へ、屁っちゃん、その傷!」

 彼女は肩から血を流していた。まるで銃創のような傷を負っている。

「私は大丈夫。早く物陰に!」

 俺たちはボールなどの用具をしまう倉庫の裏に回る。その間も屁爺の射撃が飛んでくる。

「屁爺は遠距離攻撃のスペシャリストなの」

「そうだったのか」

「容易には近づけないわ」

「それでも隠れ続けてるわけにはいかない!」

「私に考えがあるの。私が囮になってる隙に回り込んで、屁爺をぶっ飛ばして!」

「そ、そんな危険な目にあわせるわけには!」

「あなたの役に立ちたいの」

 考えてる暇はなかった。俺は彼女の案に乗る。

「絶対無茶はするなよ!」


 屁っちゃんは、倉庫の裏から飛び出す。

「ふぉっふぉっふぉ、隠れんぼは終いかい?」

「あなたの相手は私よ!」

「なるほど、遠距離攻撃対決というわけか。じゃが……」

 パァンという音で、屁っちゃんの腕から血が流れる。

「儂に勝てると思ったら大間違いじゃ」

 屁っちゃんは、腕を抑えながら、

「くっ!これをくらいなさい! 屁ボム!」

 爆発が起きる、が、ひょいひょいと躱す屁爺。

「ほれほれ、当ててみなさい」

「連続屁ボム!」

 爆発が起きていくがなかなか当たらない。理由は走りながら投げているからだった。

「コントロールがなっとらんのぉ、数を撃つならこれくらいせんと。屁マシンガン!」

 パパパパパパパパと、連射のおなら弾丸が飛んでくる。様々な箇所に当たりながら、屁っちゃんは屁ボムを撃ち続けた。

「あうっ」

 足に当たり転ぶ屁っちゃん。ニヤリと笑った屁爺は言った。

「もうギブアップかのう?」


 顔を伏せていた屁っちゃん。だが、ふふっと笑った。

「ん?何が可笑しいんじゃ?」

「私がただ屁ボムを投げていたと思ってた?」

「な、何?」

「あなたは遠距離攻撃に自信があるあまり、避けはしてもそこまで移動はしない。これがあなたの弱点よ」

「何を強がりを……」

「この技は時限式! くらいなさい! 屁ダイナマイト!!」

 屁爺の場所にギューッと圧縮するように溜まったおならのガスが大爆発を起こした。

「ぐあああああ! ぐぅっ、な、なんのこれしき」

「あとは任せたわ。オナラーマン!」

「うおおおおおお!」

「し、しまった!ま、まっ……」

「待たん! くらえ! オナラージェットパンチ!」

 屁爺の顔面に強力なパンチが炸裂する。屁爺は吹き飛び、気を失った。

「やったね、オナラーマン」

 ボロボロな体を引きずりながら、オナラーマンの元へ向かう屁っちゃん。

「大丈夫か? 屁っちゃん。手当をしないと!」

「私のことは気にしないで。それよりも……」

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