第53話 Shall we Dance?

■エルドリス・ホール


 カクテルタイムが終わると社交ダンスの時間になった。

 アリシアが女王の目の前で礼儀正しく、そして優雅に踊る姿が見守られる。

 楽団による生演奏とか、金のかかった趣向にあふれていた。


「お久しぶりですわ。ジュリアン」

「それなりに見られる格好じゃないか」


 声をかけられた方を見ると、フレデリックと一緒に行動をしていたセレナとカスパ―がいる。

 二人は手をつないでおり、どうやら5年間でそういう仲になったようだ。

 ごちそうさまである。


「アイゼン家がやばい状況になったが、そちらも苦しかったんじゃないか?」

「ええ、爵位は下げられましたが何とか、家はもっておりますわ。全てカスパーの力があってこそですわ」

「セレナが努力家であってこそだ。私はそういう君だから好きになったのだ」

「ああ、カスパー」

「セレナ……」


 俺の言葉から二人の気持ちに火が付いたのか、お互い熱いまなざしで見つめあい始めた。

 このまま放っておくとラブラブチュッチュ(?)しそうだったので、俺は話題を変える。


「二人は弟の件で迷惑をかけた。本当にすまない。俺の謝罪に価値がないかもしれないが、改めて謝らせてくれ」

「気にしなくてもとはいっても、5年も前のことだ」

「あの頃のわたくしたちはまだ子供でしたわ」


 カスパーも、セレナも過去を乗り越えて、今を生きようとしていた。

 

「俺も大人にならなきゃいけないか……」

「ジュリアンは5年前からずいぶん大人だったと思いますが……」

「責任ってのから逃げて来たと言えば、そうだなと思ったからよ」

「なるほど、貴族としての在り方を考えることでもあったのか?」


 カスパーが鋭いことを言ってくる。

 頭が切れる参謀的な男に育ったのだろう。

 昔からそうだったのかもしれないが、付き合いの長くない俺にはわからなかった。


「噂で聞いているかもしれないが、アイゼン家がな……」

「そうですわね。あれだけのことがあったのに5年も耐えきったほうだと思いますわ」

「王都の屋敷が売られているのを見て、その屋敷を買い取ろうと女王陛下に嘆願したところだ。結果はわからないが、叙爵されるように頑張るよ」

「ふふふ、それでは多少なりともわたくしも力添えをしていきましょう」

「知らぬ中ではないからな、頼ってくれ」


 二人はそれだけいうと、ダンスをしに離れていった。

 俺はダンス会場で踊る貴族たちを眺め、きらびやかな別世界を肌で感じる。


「ダンスは男性から誘わないといつまでたっても壁の華になるぞ」

 

 ボーっと眺めていたら、俺は別の人物に声をかけられて振り返った。

 その場にいたのはフリードリヒだ。

 俺のいた世界では女性からの誘いでもOKだったが、この世界の基本常識ではそうではないらしい。


(そういえば、アリシアからそんなことを聞いていたな……)

 

 すっかり忘れていたことを思い出した俺はアリシアと話をしている女性に向かって近づき、一言告げる。


「Shall we Dance?」


 その後2人ほどと踊ったが、もう二度と社交ダンスはごめんだと思うほど疲れた。

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