第52話 カクテルタイムにて
■エルドリス・ホール
女王陛下への謁見も終わり、ホールに戻った貴族たちは食事をとったり、歓談したりと自由に動いている。
アリシアの方に公爵家ということもあり、パイプをつなぎたい貴族の令嬢やエスコートの男が挨拶をしていた。
俺はつかず離れずの距離で見守りながら軽食を摘まんでいる。
寝坊をしたから、朝飯も、昼飯もなしの状態だった。
「とはいっても、めちゃめちゃがっつくわけにもいかないのがこういう上品なイベントなんだよな……」
「最低限の礼儀はわきまえているようだな。多少は見直したぞ」
慇懃無礼な態度をしてくるのは先日あった、フリードリヒと呼ばれた騎士だ。
フリードリヒがいるならば、あの赤ずきんもいるだろう。
「ごきげんよう、ジュリアン。この間と違って随分見違えたわ! いい感じよ」
「レティシア王女殿下、ご機嫌麗しゅうございます。おほめいただき感謝します」
俺は膝を軽く下げての礼をレティシア王女に行った。
彼女はこの間の赤ずきんとは違い、栗色のツインテールが映える白いAライン型のドレス姿だ。
「お、王女殿下! アリシア・ローレライと申します。女王陛下よりお聞きして、王女殿下とお話したいと思っておりました」
アリシアも俺に合わせてカーテシーで挨拶を行う。
挨拶を交わした俺達はレティシア王女の提案で、ホールから少し離れたバルコニーへと移動をした。
「ここならば、他の貴族にも聞かれないから気楽に話していいわ。ジュリアンは特に敬語を使われるとむず痒いの」
「では、遠慮なく。たった一日しかあっていないのに、そんな風に言われることはないぞ」
「王女殿下の言う通りよ。ジュリアンの敬語ってむず痒くなるのよ」
「アリシアとは気が合いそうだわ。友達になって」
「はい、私でよければ……」
俺の抗議を無視した二人の少女たちはお互いをほめあって盛り上がっている。
やれやれと思いながら視線をフリードリヒに向けた。
「第二王女様はいろいろある訳? この間の誘拐未遂事件といい、今回も他の貴族たちと距離を置いたりといい」
「いい洞察力だ。私の中の貴様の評価は上がったぞ」
「お前に言われても、嬉しくない……」
この意見は心からのものだ。
気障なイケメンの好感度なんて、上げてもいい理由なんかない。
某美少女ゲームのように実は女とかあれば別だろうが、そんなイベントがそうそう起きるとは思わなかった。
「言ってくれるな……まぁいい。一つだけ忠告をしておこう。アルステッド侯爵、ガードナーには気を付けるように。私もだが、貴族として君の様な経歴の持ち主は毛嫌いされがちだからな」
「そこで自分も含めていうなよな……だが、そういう素直なところは嫌いじゃないぜ」
バルコニーの出入り口のところに俺はフリードリヒと共に立って入ってくる人を警戒している。
さりげなくこういうことができるのはデキル男の証明だ。
「貴様に好かれるつもりはないが、王女殿下が貴様を気に入っているようだから敵対はしたくないものだ」
「それは俺も一緒だよ。余計な敵は増やしたくねぇよ……」
クツクツとフリードリヒは笑い王女殿下の近くによる。
「殿下、そろそろ……」
「ええ、アリシア。楽しい時間をありがとう。今度王宮の庭でお茶をしながらゆっくり話しましょう」
「ありがとうございます、王女殿下。ぜひ、お話しいたしましょう」
アリシアとレティシアはどちらからともなくとハグをしてから別れた。
仲良くなってくれてよかったぜ。
「ジュリアン、次は舞踏会だからしっかり頑張ってね」
「地獄のような特訓を思い出させるなよな……」
せっかく笑顔で二人を見守っていたのに、最後の最後で渋い顔になってしまったのは仕方ない。
仕方ないのわかってくれるよな?
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