第51話 女王陛下への謁見
■王宮 エルドリス・ホール
エルドリス・ホールの天井は驚くほど高く、金箔と宝石で装飾された巨大なシャンデリアが輝いていた。
天井画には、王国の歴史や神話が描かれており、特に王族の繁栄と神々の加護が表現されている。
俺達はホールに足を踏み入れた瞬間、その荘厳さに圧倒された。
「コイツはすごいなぁ……」
「ほら、圧倒されてないで王家の階段までいくわよ……貴方が寝坊するから、私たちが最後の方なのよ?」
「悪いって……」
エスコート対象のアリシアにせっつかれながら俺は大理石の床の上を歩いていく。
俺の服装はキッチリしたもので、髪型もオールバックで固めてあった。
タキシードなんか、初めて着たんだが、かなり窮屈に感じる。
対するアリシアは白いドレスを着ており、まるで結婚式をするかのようだった。
化粧も薄目であるがしっかりされていて、二割増しで美人に見える。
「私の顔に何かついてる?」
「綺麗な目がついているな」
「も、もう……ジュリアンったら、いつの間にそんなに口が上手くなったの?」
「そうか? 俺は思った通りのことを言ったまでだよ」
俺は王家の階段に近づくにつれて増えてくるデビュタントの女性達を見るがアリシアほどの美人はいないようだ。
幼馴染だからって贔屓目なのはあるかもしれないが……。
王家の階段の下まで来ると、ちょうど階段の上にいる司会者が拡声の魔導具を通して会場全体に響き渡る声でデビュタントの開会を宣言するところだった。
『ただいまより、王国歴666年のデビュタントの開会を宣言する!』
(666年って、嫌な数字だなぁ……)
そう思っているのは俺だけのようで、会場に集まっている貴族たちは拍手を行い、開会を喜んでいる。
まぁ、悪魔の数字は前世の知識だからしかたないか……。
『女王陛下への謁見を始める。呼ばれたものは王家の階段を上がり、女王の前へくるように』
「はは、この流れ10年前を思い出すぜ」
「あれから10年なのね……」
厳かな雰囲気の会場で呼ばれた人たちが女王への謁見をしていく姿が10年前に魔力測定をした時のことを思い出させる。
魔力量が8というザコ数値がでたので、追放されて冒険者になったのだ。
そのころからアリシアとは疎遠になったのは言うまでもない。
『ローレライ公爵家、アリシア。階段を上り、女王陛下の前へ』
「はい。じゃあ、エスコートよろしくね」
呼び出されたアリシアと腕を組み、俺は王家の階段を一歩一歩確実に上がっていった。
階段の上、豪華な玉座に赤みがかった栗色の髪を盛り上げて飾っている女王陛下が座っている。
あれだ、”パンがなければお菓子を食べればいい”といった某女王様と同じ髪型だ。
「アウローラ女王陛下、この度は私に謁見の機会をいただきありがとうございます。ローレライ公爵家の名に恥じないよう、魔法と魔導具の研究をしてまいります」
「期待しておりますよ、アリシア」
綺麗なカーテシーを決めるアリシアに合わせて俺も膝をつき頭を下げる忠誠の意思を示す礼をした。
「そちらが娘の話にあったジュリアン・シュテルンですか。女王ではなく、母として娘を助けていただいたこと感謝します。何か望みがあれば報酬として検討いたしましょう」
「女王陛下!? そんな勝手に……」
「レティシアの命の価値を考えれば当然のことです」
何かを言おうとした司会の貴族を腕を上げて止めて、女王陛下は俺に顔をあげるように伝え、願いを聞いてくる。
こんなに早くチャンスが来るとは思わなかった俺は正直に話すことにした。
「僭越ながら、女王陛下に一つだけお願いがございます。王都にあるアイゼン伯爵家の屋敷の権利を、私にお譲りいただけないでしょうか?」
「ジュリアン、それって……」
「なるほど……そうですね。貴方は爵位のない冒険者故に普通に渡すわけにはいきません。叙勲の条件を考えますので、決まり次第ローレライ公爵家へ使いを出すことにしましょう」
「ご検討いただき、ありがとうございます」
再び礼をした俺はアリシアの後ろに下がって膝をつく。
「それでは女王陛下。この度はありがとうございました」
「アリシアも一流貴族の仲間入りです。娘のレティシアもデビュタントですから、仲良くしてあげてください。これも女王ではなく母としてのお願いです」
時折お茶目に笑う女王陛下は俺も仕えたくなる魅力的な人だった。
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