第50話 真夜中に受ける王都の洗礼
■王都 商業エリア
結局深夜まで飲んでいた俺らは閉店ということで、店を追い出されて大通りを5人そろって歩いている。
酒で火照った頬にあたる夜風がここちいい。
「ジュリ坊強いにゃね?」
「俺も自分でびっくりしてる。酒の質の問題かもしれないけどな」
「ダメになったのはエリカだけやなぁ」
「わたくしゅわぁ~、よってないれすわぁ~」
「どう考えても酔っ払いのセリフだろ……」
俺は顔を赤くし、酔っていないと言い張るエリカを背負い直す。
レイナやリサが肩を貸そうとしたが、断り俺に抱っこを要求してきたのだが、さすがにそれは恥ずかしいと断ったら泣き出したのだ。
妥協案として、おんぶに収まっているのが今である。
周囲を見ていたリサの耳がぴくぴく動き、尻尾が警戒のためにピンと伸びた。
「夜中にデートのお誘いのようニャ」
「ふふん、私も酔い覚ましにひと暴れしたいところだったのだ」
俺を守るようにリサとセリーヌが前と後ろに立つ。
エリカを背負った俺はレイナと共に敵が出てくるのを待った。
「そんなに殺気立つなよ、兄弟」
俺達の前に現れた男は、なれなれしい態度で歩いてくる。
無防備に見えるようでも隙は無かった。
まがまがしい黒い大剣を持って近づいてくる男に見覚えはない。
「あいつは王都の冒険者ギルドで賞金もかけられている元Aランク冒険者パーティ【ヴァルゴンの牙】のリーダーにゃ」
「リーダーが直々に来てくれるとは嬉しいねぇ。酒場は締まっているようだが、どこで交遊を深めるんだ?」
リサの言葉に俺は答えつつも、逃げる用意をした。
勝てるかどうかよりも、大けがして明日に響くほうが問題である。
夜も深まっているし、少しでも寝ておきたいというのも本音だ。
「この場でちょっと遊ぼうぜ。なぁに、周囲に被害をだすと俺らもやべぇからよ、結界張らせてもらうがなぁ!」
リーダーの男がパーティメンバーを眺めてじゅるりと舌なめずりをする。
はい、コイツはムカついたのでボコるの決定。
とはいっても、俺は背中にエリカを背負っているので無理はできなかった。
「
そんな風に俺が考えていると、目の前の男がまがまがしい大剣を地面に突き刺すと、あたり一面に闇が広がり俺達を包み込む。
闇の中にいるはずだが、不思議と視界は通っていて、敵味方の識別ができた。
「オレは結界を維持する。オマエらは揉んでやれ」
「いい女を切り刻むのは久しぶりだわぁ……」
「じゃあ、ワタシもいきましょうか」
リーダーの男が指示を出すと片方の目が隠れた二人の女が出てくる。
隠れている目の左右が違い、髪の色も赤と青となっていた。
「あれは……王道の左右対称双子姉妹!?」
「なにが王道にゃ?」
「いや、何でもねぇ……ここまでテンプレなのが出てくるとは思わなかったぜ」
赤い髪の女は血走った目で獲物である両手に装備されている長く鋭い爪を舐めた。
シ〇ーハンズか、フレ〇ィか……なんにせよ、Aランクってことだから見た目に騙されるわけにはいかないな。
皮鎧というかボンテ―ジスーツの様なものを着ている女が先に間合いを詰めて来た。
「援護はするから自由に動きなさいな」
後ろにいる青い髪の女の方は闇の中から、ヘルハウンドを召喚してくる。
召喚術師と軽戦士の組み合わせで俺達を追い込むつもりのようだ。
「エリカ……は、寝てるか……レイナ、いつもの鉄球!」
「はいな! もう作ってあるからなぁ、初手から決めるんや!」
リサとセリーヌが俺達の視界から消えるように動いた。
視界に取らえてるのは赤と青の女とヘルハウンド達である。
空中に散らばった鉄球たちが敵に襲い掛かった。
ヘルハウンドはあっという間にミンチになり、青い女は黒いスライムを壁にしてギリギリ防ぐ。
咄嗟に壁を用意するとはやるようだ。
「赤いのがいないぞ!?」
「ジュリ坊! 足元にゃ!」
「影魔法使いか!?」
足元から手だけが出て俺の足を斬り裂こうと動くが、俺の体は突き飛ばされて救われる。
ガギィンという金属音が響き、斬り裂こうとした爪が折れた。
「装備が弱いのだな。もっとランクの高いものを持ってくるのだ。もっとも落ちぶれた冒険者が買えるかはわからないのだな!」
セリーヌの剛腕がボンテ―ジスーツの女の腹にボディブローを決めて、結界を張っている男の方へ殴り飛ばす。
男に女がぶつかると、闇の結界が晴れていった。
「ちぃっ! もう一度結界を……」
「無駄ですわよ」
エリカの声と共に光の精霊が空中に浮かんで眩い光を周囲に放つ。
商業エリアがざわざわと騒ぎ始めた。
「くぅ! 今日はこの辺にしておいてやる! いいか、次こそはテメェの命も終わりだ!」
「捨て台詞ありがとさん、大先輩」
俺はエリカを背負ったまま逃げていく元Aランク冒険者達を見送る。
「ジュリ坊、アチシ達も逃げるにゃ、こっちの道を行けばバレずに貴族街まで行けるにゃ」
「おう、ありがとうサラ!」
サラの後ろをついていきながら騒ぎが大きくなる前にその場を後にした。
王都で元Aランク冒険者に絡まれるとは、どうやら俺のことを良く思わない奴らがいるらしい。
「いいぜ、その喧嘩買ってやるよ!」
俺は気持ちを新たにデビュタントでやるべきことを改めて決めるのだった。
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