きみと焼き芋

紺野真

きみと焼き芋

この間の中間テストが返却された。今日は三教科ぶん。

私はいつものように平均、平均、平均。

明日にはテストの順位が廊下に張り出されるだろう。

一位はいつものように赤身さんなんだろう。

彼女が一位以外の順位だったところを見たことがない。

窓際の後ろ側の席にいる赤身さんの栗色の髪が、秋の陽射しできらきらしているのが見えた。


彼女は誰とも群れずにいつも一人でいるからどんな人なのか、よく知らない。



放課後、美術室に忘れたロケット鉛筆を探しに来た。

ロケット鉛筆は私の席でない席に置いてあった。

親切な誰かに感謝をしなければならない。


教室は少し暖かかったが、人の出入りの少ない美術室はひんやりとしていて寒かった。

窓から校舎裏の木がよく見えた。

授業中は気にしたことがなかったが紅葉が西日に照らされて綺麗だ。


もっと近くで見ようとベランダに出た。

眩しくて目を細めて簡易的な紅葉狩りをしていると、なんとなく焦げたような匂いがすることに気づいた。

ベランダから身を乗り出して匂いのする方、斜め下を見ると赤身さんが焚き火をしていた。

驚いて「焚き火?」と声に出してしまった。


赤身さんは一瞬身体をびくり、とさせると上を向いた。

「あ。」 栗色の髪がきらきらしている。

「文具さんも、一緒にやる?」赤身さんは私の想像の中の赤身さんよりずっと明るくカラっと笑った。




二人でしゃがんで焚き火を眺めている。

この時間はなんだろう。なぜ私はここにいるのだろう。なんで、なんで赤身さんと一緒にいるのだろう。

頭の中ははてなだらけだったが、心地良かった。


なるべく平らな石の上に木の枝数本、枯れた落ち葉と答案用紙が小さく燃えた。

赤ペンで書かれた100、96、9?という数字が見えた。

それもじき燃えていく。

赤身さんは焚き火に手をかざして「あったかーい」と言ったり、落ち葉を追加したり、口を尖らせて木の枝で土の上にメガネを描いたりしていた。


私たちは会話という会話をしないで焚き火の前にいた。

西日が沈みかけて空が橙と藍色が混じった頃、スカートを払って赤身さんが立ち上がる。

「私、テストが返却される度に焚き火にしてるんだ。明日残りの二教科も返却されるだろうからまたやるよ。文具さんも、来る?」

うん、と頷くとニコっと笑い手を振ってあっけらかんと赤身さんは去って行った。




テストが返却された。今日は二教科ぶん。

私の点数は平均、平均。

廊下に貼りだされた中間テストの結果は皆の予想通り、赤身さんが一位だった。

教室にいる赤身さんは私を見ない、カラカラと笑わない。

本当に昨日、赤身さんと焚き火をしたのか疑わしいくらいだ。


放課後、日直の仕事をだらだらと終わらせて校舎裏に向かうともう焚き火は始まっていた。

赤身さんがこちらを向く前にアルミホイルで包んださつまいもを差し出した。

「なに、これ?」

「さつまいも。家でチンしたからすぐ食べられると思う」


赤身さんは笑った。カラカラ。

「文具さんイケてるね」と言ってまた笑った。

私はなにが“イケてる”のか分からなくて、少し恥ずかしくなって、黙って焚き火にアルミホイルを入れた。

沈黙と「寒いね」「うん」以外の会話はほとんど覚えてない。


「そろそろ焼き芋出来たかな」

赤身さんはそう言って、心許ない木の枝でアルミホイルを取ろうとするからバッグからトングを取り出して赤身さんに渡した。

トングを見た赤身さんは目を丸くしたかと思えばまたカラカラ笑った。

私たちはトングと手袋を駆使してなんとか焼き芋にありつけた。


「おいしい。

美味しいよ、こんなに美味しい物初めて食べたよ」

大袈裟な、と思って笑いながら赤身さんを見た。

瞳が潤んでいるように見えたから

「私も。」 と小さく呟いた。

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きみと焼き芋 紺野真 @konnomakoto

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