第3話 リアルリアクション

 前にもいった通り、あたしゃ世間の瑣事さじに疎い。翌日リンに合うまでアラカミが閉鎖されたことを知らなかった。

「て、ことは課金した分はパァ?」

「全部じゃないみたい。系列の会社で流用可能みたいよ」

 前から思ってたんだが、コイツはお嬢のクセにヤケに金周りに目ざといなと思いつつ、時空スライムと例の巻物の回収が頭によぎった。あそこはゲーム内ステージではないし、チュートリアル? いや運営直轄の中間地帯みたいなモンだから、ログインできるかもしれない。リンも口寄せ契約してるから、開いてたら二人で行ける。

「今すぐ問い合わせしよう」

「え、できるの?」

「お姉ちゃんに任しとき」

 いぶかるリンを押し切って、いざ公式へ。だいぶMPを食うがもはや関係ない、アバター同士で手を繋いで、呪文を唱える。

「せーの、リュウホ・リュウホ・オッカワ・コタイ・エル・カンタービレ!」

 ブラックアウト……。

からの画面復帰。

 高度な塗りつぶしの黒に青白い歯車がクルクル回る。

 やっぱり昨日も感じていたが、OS自体が再起動するようだ。

「なにコレ、なんか大げさじゃない?」

「昨日もこんな感じだったよ」

 柔らかな光が浮かび上がり、二人ともその白さに吞み込まれ、包まれていく。

 一コマで暗転後、巨大物恐怖症メガロフォビアを誘発しそうな、だだっ広い空間が四方に拡がった。

 その中には夥しいコンソール群らしきものがあり、うたた寝するよう幽かな寝息を立てている。史上最大の虫アースロプレウラほどの大きさで、各自、横腹の複数の気門から空気を出し入れし、その生在を控えめに主張していた。

 うむ、今回は余裕をもって経過を観察できたな。

「しかし、やけに凝ってやがる」

「ゲーム中に再起動するゲームなんて、今まであったかしら?」

「リンちゃん。ゲーム中じゃなくない?」

「で、なくったって、強制再起動とは何事?」

「こまけぇこたぁ気にすんなって。それにしても、やっぱデカいな。まぁ、止め絵の書割をパターンで重ねただけだから金はかからんだろうが」

 ぐるりと、改めて辺りを見回した。誰でもメガロフォビアになりそうだなコリャ。

「おーい、タエちゃん出てこぉーい」

「お帰りなさいませ、お嬢さま」

 はやっ。ん? 一応あたしのアバター男なんだが? まあいいか。

「今度はもう一人連れてきたよ」

「どちら様ですか?」

「あたしのご学友のリンちゃんだよ」

「あら、ごきげんよう、タエちゃん」

 おすましコンサバ嬢(ワラ)

「いらっしゃいませ凛様。」

 向き直って、

「葵様、当システムのデベロッパー・ナンバー00番に紐づけしても、よろしいでしょうか?」

「よろしいよろしい、苦しゅうない。よきにはからえ」

「では、そういたします。何かございましたら、何なりと御用をお申し付けください。」

「あおたん、慣れてるね」

「まあ、だいたい仕様は一緒だから」

 アレ? タエちゃん、今あたしの本名呼んだ?????

「なんで名前知ってんの? リンちゃんは今紹介したしゲームも『りんちゃん』登録だけど、あたしのアバター名、違うんだけど?」

「昨日の正午過ぎにシステムの書き換えを成されたおり、名義も改に変更されてございます。」

「う~ん、よく分からんが、まあいっか」

「それってもしかして、召喚魔法とか要らなかった、てことじゃない?」

「リンちゃん、どゆこと?」

「ふつうに、あおたんとしてログインできるってこと」

「そうなの?」

「はい。登録番号とパスワード、それに指紋、声紋、網膜組織などから、頻度・時間の傾向パターンを踏まえ、複合的に判断しております。」

「え? そこまでこのゲームに個人情報を登録した覚えないけど?」

「このゲームとは、先日お調べになったARAKAMIのことですか?」

「他に何が?」

「ちょっと、あおたん何か様子がおかしいよ」

「ここはアラカミのゲーム内じゃなくて、運営とか会社のサイトだからじゃない?」

「いやそうじゃなくて……」

「とりあえず、アラカミの全ポイントを他のゲームに移したいんだけど?」

「ゲーム内通貨のマラも同様に含まれますね?」

「たうぜん。とりあえず『崩落学級』にでも移しといて」

「終了いたしました。」

「え、バカはえーよ(笑)」

「こちらをご覧ください。内訳となっております。」

 示されたモニタを覗き込んでいるリンの顔つきが、見る間に豹変していく。今まで一度も見せたことない顔だ。

「ちょっとコレ何の冗談?」

 冷ややかな声音に怒ってるような表情。横並びの数字の羅列を見ても、あたしには何のことやら。

「コレってもしかしたら……、考えられるとしたら……、いやでも……、でも確かにそう、それしかない! こんなのアラカミの全ユーザーのポイント総数じゃなきゃ、ありえない!」

「はい。ご随意のままにいたしました。何か誤り、失念等ございましたでしょうか?」

「間違いって、桁が、次元が、まったく違う……」

「なにマジになってんのリンちゃん。顔こわいよ(笑)」

「ここら辺とか見てよ!」

 ちょっ、頭をつかむな!

「レベルとか、HPとか、MPとか、攻撃力とか、スピードとか、防御率とか、運とか、お金とか、全部振り切ってる。下の表示欄が真っ赤か、全部0で埋まってる」

「て、ことはウチら無双?」(ワラ)

「無双どころか、これじゃまるで……」

「差し出がましいようですが、一つ提案がございます。ゲーム内通貨をより共通性の高いものへと変換可能ですが、いかがいたしましょうか?」

「共通性の高い、とは?」

 リンちゃん目が怖い(苦笑い)。

「例えば他のゲームでも使用でき、また買い物も出来るものへと交換可能です。」

「とは?」

 リンちゃん必死すぎ(汗)。

「リン様がゲームに課金なされたメタコイノンなど、ゲーム外でもご使用可能なリアル仮想通貨、有価証券などが該当いたします。」

「はぁ!?」

 リンちゃんコワッ(冷汗)。

「ちょっと、もう、わたしの手には負えないわ」

 ヘタリ込んでも床から生えた椅子に受け止められて深くハマってしまうリンちゃんカワイイ(ワラ)。でも、さっきから一人で何言ってんの?

「あおたん、誰か協力者が必要だよ。誰かいない? itとか投資とか詳しい人。プログラマとか、出来ればシステムエンジニアレベルの人がいいんだけど」

 ハマりこんだポーズのまま指示出しリンちゃんカワヨ(ワラ)。

「う~ん、ヲタクくんのこと?」

「とにかく、今は何でもいいからコンピュータ弄れそうな人」

「じゃあ、クラスのアキヒコとか?」

「その人に連絡取って、とりあえず話は私がするから。もちろん全部は言わないケド。あおたんは繋いだら、すぐ私に交代して」

「え、今?」

「今!」(ヒェッ汗)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

吾こそは新神/ARAKAMI 川辺閾 @fennec_fox

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ