いけない恋とわかっていても
学生作家志望
先生のこと
「今日も先生かっこいいなー!」
「それなー!」
教室と廊下の間にある窓を全開にして、女子が数名、目の前を通りかかった先生の話をしていた。
その女子たちは、いわゆる陽キャで、声は廊下と教室にうるさく響いていた。「そんなに笑って何が楽しんだろう」私はいつも心の中で正論をぶつけ、勝った気でドヤる。
これだけでも私が典型的な陰キャであるというのがよく理解できたと思う。
しかし、そんな私は陰キャでありながら、さっき女子共がわーきゃー騒いでイケメンだと言っていたアオイ先生に、恋心を抱いてしまっている。
女子共が言うイケメンは、単純に顔だけを見てそう言っているのだろうが私は違う。アオイ先生の内面までよく知っている上で本気で恋をしているし、イケメンだと思っているんだ。
だからそんな簡単にイケメンなんて言わないでほしい、というのがあの女子共に言ってやりたい本音。
言えるわけがないけど………
◆
「伊藤、これを教室まで代わりに運んでくれないか?男子生徒がいなくてな、すまん。」
「坂本先生!さすがにこれはっ!」
「とにかく頼んだぞ。」
ドンッ!
「ひっ、!」
職員室のドアが壁に激しく打ち付けて大きな音を立てた。その音にびびったのは私のみで、廊下には誰もいなかった。
私は職員室に、ちょっとした用事があっただけで、まさかこんな雑用を頼まれることになるとは思いもしなかった。
気分は最悪である。
「おもっ!何入ってんだよこのダンボール。」
私は女子の中でもなぜか力が強いイメージを持たれているらしいが、私が強いわけじゃない。
私以外の女子がか弱いフリをしているんだ。
ぶりっ子ばっかりで本当に呆れる。おかげで男子がいなければ、私に力仕事がまわってくるようになってしまった。
「私だって………きついっての、、」
「伊藤さん!?」
「え?あ、アオイ先生。」
廊下の角で偶然すれ違ったアオイ先生は、私が汗を拭いながら運んでいるダンボールに、横目で素早く反応して声を出した。
「どうしたんですか?アオイ先生」
「いや、どうしたじゃないよ!なんでそんな重そうな荷物を1人で運んでるんですか?伊藤さん!」
「あ、これですか?先生に頼まれちゃって、他に男子がいないからって。」
「こういうのは普通先生に頼むんですよ。無理しないでくださいね。」
そう言うと、先生は当たり前のように私が抱えていた重いダンボールを待ってくれた。
「んっしょ、」
アオイ先生………
「重っ!!!!!」
「え、せんせい!大丈夫ですか!」
アオイ先生は私が持っていたダンボールのあまりの重さに驚愕したのか、廊下に響くほどの大きな声を出してしまった。
「だ、いじょうぶだよ。伊藤さんは行ってもいいよ。」
「ありがとう、ございます!w」
廊下の暗い方へと、とにかく先生から離れられるように早歩きで向かった。もちろんそこには何もない、ということは用事もない。
ただ今はこの溢れ出る何かを抑えるために、比較的目立たない場所に向かったんだ。
影のかかる場所にひっそりとしゃがみこんで、私はずっとさっき起きたことを考えていた。
「アオイ先生………私のために、、」
確かに、アオイ先生のやってることは言っちゃえば普通のことかもしれない。
そもそもこんな重い荷物を女子生徒1人に持たせるあのクソ教師がおかしい。
普通は先生みたいな大人が運ぶべきもの。
そう、普通のこと。普通のことだって、分かってんのに。
「かわひいい!!」
溢れ出る思いは、恋、愛情、可愛さ、かっこよさ、もうなんだっていい。だからとにかく言わせて。これだけは。
可愛い!!
私のために待ってくれたのはかっこよかったけど、「重い!」って叫んじゃうのとか最高に可愛いんだけど!!
まさかのキュン死、2度も………
◆
なんて日があって、それから私はアオイ先生のことが本気で大好きになった。
テレビのドラマとかでやってる、先生と生徒の禁断の恋。
嘘くさいって思ってたけど本当にあるみたい。現に私は、今もこんなに好きって思いが溢れてる。
………どうしようもないこの恋って感情と心、私はいつになったら諦められるんだろうな。
わかってる、自分が気持ち悪いってことくらい。
みんながアオイ先生に言う「かっこいい!」はきっと恋なんて感情が混ざってない言わば「ノリ」その場の。
でも私は違う。その場のノリなんかじゃなくて、本当に心の底から「可愛い」と「かっこいい」が出てしまう。
ダメだってわかってるのに、どうしてやめられない、どうしてもっと好きになる。
早く諦めないと………
でも、諦めたくなんてない。
諦めて先生を忘れるなんて、嫌だ。
この気持ちをぶつけたいよ、全部放って、それで失敗してぐちゃぐちゃになれば、私はやっと諦められる。
お願い、私を諦めさせて。
ガラガラガラ
チャイムがなって少し経った後、3限の授業の「保健」の先生ではなく、なんと別教科担当であるアオイ先生が、なぜか私たちの教室に入ってきた。
「アオイ先生だー!!」
みんなが口を揃えて言った。かっこいいという言葉もまた同時に飛び交う。
「みんなありがとうね笑」
先生が優しく微笑んだ。やっぱりその笑顔は可愛かった。
「実は今、みんなの教室をまわってある報告をしているんだ。」
「報告ってなに?」
「この場を少し借りて報告させていただきます。この度、かねてよりお付き合いさせていただいていた数学の水沢先生と結婚することになりました!」
「ええええええっ!!!!」
「そもそも2人って付き合ってたの!?」
「みんなには言ってなかったんだけどね笑それで、今後少しだけお休みをいただきます。色々やることがあるのでしばらく学校には来れませんが、みなさん頑張ってくださいね!」
「おめでとー!!」
「ヒュー!ヒュー!」
みんなの声がゴムのように何回も、何回も私の耳に伸びてきた。突き刺さってまた縮んで、それの繰り返し。
悲しみとか辛さとか、そんなんじゃなく、1番先にやってきた感情は、「やっぱそうだよね」という「諦め」だった。
私の恋は儚くもなく、特に目立つこともなく、先生の中でストーリーになることも出来ず、なんの形にならずに消えていった。
私の恋は、なんの意味もない、ただの気持ち悪い片思い。
諦めさせて、なんて一時も考えなければよかったかな。
諦めたくなんてないよ、辛いよ、認めてよ。認めてほしいだけなんだよ。
私の恋心を認めてその優しい微笑みを私にだけ見せてほしいだけなの。
いけない恋とわかっていても 学生作家志望 @kokoa555
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