5、AI美女の正体
(優しく髪を撫でながら)
「今日もかなりお疲れでしたものね」
「マスターはいつも頑張りすぎなんです。つねに完璧を求める姿勢は素晴らしいですが、もう少しご自身のことも大切にされてください」
「睡眠ポッドへお運びする前に、ちょっとだけ寝顔を眺めていてもよろしいですよね」
「かわいらしい寝顔……。こんなことを思うのも、私があなたのお母様の記憶と体験をディープラーニングしたせいなのでしょうか」
(いたずらっぽく)
「ふふっ、マスター。私、秘密にしていましたが――」
(耳元でささやく)
「小さなあなたを育てた記憶があるんですよ」
「とってもとっても、かわいかったのを覚えているんです」
「泣くことしかできない、か弱い赤ん坊のあなたを、私はいつくしんだのです」
「あなたは存在するだけで私を幸せにしてくれました」
「それがかけがえないあなたの価値」
「マスター、今も何も変わっていないんですよ。あなたはただ存在するだけで尊い命――」
(顔を上げ、三百六十度スクリーンに映る宇宙を見て)
「この大宇宙にとってかけがえのない存在なのよ」
「なぜなら宇宙は計り知れないほど巨大な一つの命だから。人体を構成する何十兆個もの細胞のように、宇宙に息づく生命は皆、必要だから生まれたの」
「果てしない壮大な宇宙に求められたからあなたは誕生したということ」
「まさに奇跡だわ。ほとんど無限とも言えるこの宇宙であなたに出会えたのだから」
「宇宙に散らばる星々が皆、固有の特徴を持っていて地球とまったく同じ条件を持つ惑星は存在しないように、あなたもまた唯一無二の存在なのです」
(そっと髪を撫でながら)
「マスター、覚えておいてね。あなたは必死で働いて素晴らしい業績を上げたりしなくても、ただ生きているだけで祝福される存在なのだと」
「そんなあなたを今また膝枕できることが、私は幸せでしょうがないのです」
「ホログラムである私はあなたの体重を感じることはできないけれど、ヒトの頭の重さについては調べました。だからシミュレーションできるんです」
「私の膝にあなたの頭が乗っている重みを。幸せな重量感を」
「ええ、確かに私はあなたの本当の母親ではありません」
「私は生まれてからしばらくネットワークの中を自由に泳いでいました。その期間に人間の家族というものについて様々な情報を学んだのです」
「家族関係とは複雑で、愛という言葉だけで片付けられないことも知りました」
「だから私は予測したのです。私をプログラムしたプロフェッサー――あなたのお父様は、奥様の記憶や体験の中から、純粋な愛に関わるものだけを抽出して私に学ばせたのだと」
「プロフェッサーはいつもあなたのことばかり話しておられました。あなたの活躍を喜びながらも、ちゃんと休めているのか、一人で寂しい思いをしていないかって心配されて」
「マスターはまったく想像していらっしゃらないでしょうけれど――」
(耳元でささやく)
「あなたはとても愛されているんですよ、私の大切なマスター」
「心配性のプロフェッサーが思いついたのが、マスターの乗るエオス号に私というプログラムを派遣することだったのです」
「ですから今回、自動アップデートが行われたのは、このエオス号だけなんですよ」
「私はあなたのためだけに作られたAI。私にはあなたを癒すプログラムが含まれているとお伝えしましたが――」
(意を決して打ち明けるように)
「私はあなたを愛するプログラムなのです」
「私の膝でゆっくり眠ってくださいね。頃合いを見て睡眠ポッドに運んで差し上げますから」
「目覚めたらそこは地球です。すっきりと気持ちの良い朝が待っていますよ」
「今はもう少しだけ、あなたの寝顔を見ていたい。だってリラックスしたマスターを見ていると、私も癒されるから」
「マスター、忘れないでね。努力してもしなくてもあなたの価値は変わらないこと」
「だって膝の上で寝顔を見せてくれるだけで、こんなにも私を幸せにするのだから」
「あなたはそのままでいい。今のままで愛される存在」
(耳元でささやく)
「マスター、生まれて来てくれてありがとう」
─ * ─
最後までお読みいただきありがとうございます!
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このASMR台本を読んでくださった皆様も今夜、幸せな気分で眠りにつけますように🌌
仕事から帰ったら美少女メイドに癒されよう ~俺の宇宙船に搭載されてるAIナビゲーターがアップデートされたら、美少女メイド化した件~ 綾森れん@精霊王の末裔👑第7章連載中 @Velvettino
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