4、仕上げは耳かきでおやすみなさい
//SE 体を移動させる
「ありがとうございます。まずは蒸しタオルでお耳全体をあたためますね」
//SE ウイーン、とテーブルの一部がせり上がってくる音
「あ、マスター、振り返らないでください。頭は私の膝に乗せたままで」
「音が気になられたのですね。これはテーブルから蒸しタオルが出てきた音です」
「宇宙船エオス号のリラックスエリアには、リラクゼーション・プログラムに必要なありとあらゆる設備が整えられております」
「それでは蒸しタオルを乗せていきますよ。お耳を包み込むように、そっと――」
//演技依頼 タオルを乗せる。
(これ以降、音がくぐもって聞こえる)
「熱すぎませんか?」
「柑橘系の香りですか?」
「はい、こちらレモングラスのアロマオイルを二、三滴たらしております」
「気持ちいい? よかった」
「耳をあたためると自律神経が整うんですよ」
「副交感神経が優位になって、全身がリラックスしていくんですよ。安眠にもよく効きます」
「ちょっと眠くなってきたでしょう?」
「それでは蒸しタオルが冷めないうちに、耳たぶを軽く拭いていきましょう」
//演技依頼 タオルを外す。
(音の聞こえ方は普通に戻る)
「まずは上のほうから優しく拭いていきますよ」
//SE 蒸しタオルで耳介を拭く音が間近で聞こえる
(真上から耳をのぞきこんでいるので、すぐ近くで)
「耳たぶの裏側も優しく拭いていきますね」
「次は耳介のくぼみに沿ってタオルをすべらせていきます。くすぐったくありませんか?」
「ちょうどよい力加減ですか? よかったです」
「耳たぶも優しく撫でていきますね」
「最後に耳の穴の入り口も少し拭かせていただきます」
「蒸しタオルでの洗浄はこれで終わりになります」
//SE ウイーン、とテーブルの一部がせり上がってくる音
「今度は何がテーブルから出てきたのか、気になっていらっしゃいますか?」
(少し笑う)
「ふふ、拭き取り化粧水と綿棒です。化粧水をつけた綿棒で、耳介を掃除するんです」
(化粧水を振って綿棒の先を濡らす動作)
//SE ボトルの中で化粧水が揺れるチャポチャポという水音
「それではまた上のくぼみから失礼します」
//SE 綿棒が耳介をすべる音
「優しくそーっと、綿棒でやわらかく拭いていきますよ。力が弱すぎるとくすぐったいと思いますので、おっしゃってくださいね」
「耳たぶもちょいちょい、と」
「はい、外側は綺麗になりました! さっぱりしましたか?」
「ちょっとゴミを飛ばしていきますね。息をかけますよ」
//演技依頼 耳たぶに「フーッ」と息を吹きかける。
「それでは耳かきを始めます。まずは優しい感触の竹耳かきで軽くマッサージしていきますね」
「入り口付近を掻いていきます。まずはお顔側ですね」
//SE 竹耳かきが耳の中で動く音
(オノマトペを言いながら)
「カリカリカリカリ…… 少し下の方――耳たぶ側に下がっていきます。力加減はちょうどよいですか?」
「分かりました。少し強くしますね」
「今度は後頭部の方――後ろ側へ行きます」
「カリカリカリ―― 耳の穴の中にもたくさんツボがあるんですよ。優しく刺激していきますね」
「上のほうへ上がっていきますよ。外側へ向かって掻き出すようにマッサージします」
「気持ちよいですか? 肩の力を抜いてくださいね」
「ゆっくり細く、口から息を吐くと力が抜けますよ」
「それでは奥の方に入って行きますので、痛みがあったらすぐにおっしゃってください」
//SE 耳かきが耳の奥に入っていく音
「カリカリカリカリ…… 奥の方にゴミが見えますね」
「ちょっと竹耳かきだと難しそうですので、スパイラル耳かきに持ち変えて取っていきましょう」
//SE ウイーン、とテーブルの一部がせり上がってくる音
「ええ、そうです。色々な耳かき棒を取り揃えております」
「こちらはらせん状になっていて、ゴミをからめとるんです」
//SE 耳かき音
(と同時にオノマトペを言いながら)
「ゴシゴシゴシ、と。シリコンタイプですのでやわらかい感触だと思います。気持ち良いですか?」
「たくさん取れました!」
「最後に梵天で、残った小さな粉を払っていきますね」
「竹耳かきのうしろ側に梵天がついているんです」
「ではお耳の入り口のほうから撫でていきますよ」
//SE 梵天がこすれる音
「ふわふわふわ。くすぐったいですか? 大丈夫?」
「少し奥の方に入れて、抜いていきます」
「ぼわっと―― こまかい粉が出てきましたので、フーって飛ばしますね」
//演技依頼 耳の中に「フーッ」と息を吹きかける。
「はい。こちら側のお耳は終了です。反対側のお耳を掃除して行きましょう」
「マスター、もう片方のお耳を上に向けていただけますか?」
//SE 体勢を変える音
「ありがとうございます。体勢つらくないですか?」
「よかった。ではまた蒸しタオルであたためていきますよ」
//SE ウイーン、とテーブルの一部がせり上がってくる音
(蒸しタオルを手に取って)
「あつっ。少しさましましょうね」
//演技依頼 タオルを左右の手にぽんぽんと跳ねさせて、温度を下げる。
(タオルから揮発するアロマオイルを吸い込みながら)
「はぁ~、レモングラスの爽やかな香りが広がりますね」
「ちょうどよい温度になったかな。では乗せていきます」
//演技依頼 タオルを乗せる。
(これ以降、音がくぐもって聞こえる)
「温度、いかがでしょうか。気持ち良いですか?」
「耳の中を掃除する前に蒸しタオルであたためることで、蒸気がゴミをふやかして取れやすくしてくれる効果もあるんですよ」
「少し眠くなってきましたか? 眠りたくなったらいつでも寝てくださいね」
「ご安心ください。マスターが就寝されましたら睡眠ポッドまでお運びいたします」
「まあ、3Dホログラムには運べないだろうから眠らないですって?」
「重力制御装置コントロールと空気循環機能を駆使して運びますから、ご心配には及びません」
「それでは蒸しタオルが冷め過ぎないうちに外して行きましょうね」
//演技依頼 タオルを外す。
(音の聞こえ方は普通に戻る)
「それではまたお耳の外側と耳たぶを拭いていきますね」
//SE 蒸しタオルで耳介を拭く音が間近で聞こえる
「優しくゴシゴシゴシ、と」
「入り口付近にも少し入って行きますよ」
「どこか拭き足りないところはありますか?」
「上のくぼみのところ? あ、耳介ですね。では念入りに拭かせていただきます」
「ほかはいかがでしょうか?」
「大丈夫ですか?」
「では拭き取り化粧水をつけた綿棒でのお掃除に移らせていただきますね」
(化粧水を振って綿棒の先を濡らす動作)
//SE ボトルの中で化粧水が揺れる水音
「化粧水をつけることで汚れを取りやすくするだけでなく、綿棒のすべりが良くなって気持ちいいですよね」
「そーっと、優しく、綿棒をすべらせて行きますね」
//SE 綿棒が耳介をすべる音
「ヒトの耳介は複雑な形状をしておりますから、全自動クリーンルームで全身シャワーマシンのお世話になっても、きちんと洗えていない場合が多いのです」
「たまには手動でシャンプーをして指先で洗ってあげるのが理想なのですが、マスターは毎日お忙しいですから、ご自分で頭を洗うことなんてありませんよね」
「耳の中も入り口だけ、ぬぐっていきますね」
「ええ、ほんの入り口だけです」
「ヒトの耳道に対して綿棒の直径は太すぎますので、奥を掃除するとゴミを鼓膜の方に押し込んでしまう危険性があるのです」
「綿棒でのお掃除は終わりです。最後にゴミを飛ばしていきますね」
//演技依頼 耳たぶに「フーッ」と息を吹きかける。
「くすぐったかったですか?」
「ふふっ、では耳かき棒でのお掃除を始めますね」
//SE 竹耳かきで耳掃除をする音
「もっと強めに掻いてほしい?」
「耳道を傷付ける恐れがありますので、リラクゼーション・プログラムにおいては三次元重力自動制御装置が働いて、大きな力をかけられないようになっているのです」
「でしたらステンレス製の耳かき棒に持ち替えましょう。ステンレスは竹耳かきより硬く、刺激が強いですので、マスターのお好みにあうかも知れません」
//SE ウイーン、とテーブルの一部がせり上がってくる音
「では入れてまいりますよ。金属ですので最初、冷たく感じるかも知れません」
「ヒヤッとしましたか? 大丈夫ですか?」
「すぐにあたたまってくるかと存じます」
//SE ゴリゴリとステンレス耳かきで耳道をこする音
「竹耳かきやシリコン耳かきと比べて音も大きく響くと思いますが、刺激が強すぎることはありませんか?」
「しっかり掻いてもらってる感じがします?」
「気持ちよいみたいでよかったです!」
「ゴリゴリゴリ―― あ、ここかゆいですか?」
「では少し速く掻いていきますね」
//SE 高速の耳かき音
(少し位置を変えて)
「ここはどうですか?」
「気持ちいい? では少し強めにマッサージしていきますね」
//SE 強めの耳かき音
「こちらのお耳もゴミが奥の方に押し込まれているようですので、ステンレス耳かきの反対側――スパイラル状になっている方で取らせていただきますね」
//SE 耳の奥でスパイラル状のステンレス耳かきが半回転する音
「痛みなどありましたらすぐおっしゃってください」
「眠くなってきましたか? よい兆候です。体温・血圧ともにわずかな低下が見られ、体が入眠準備へと移行しているようです」
「ゴリゴリゴリゴリ……」
「こちらも、おっきいのが取れました!」
「マスター毎日忙しいですから、ゆっくり耳かきする暇なんてありませんものね」
「仕上げに梵天で綺麗にしていきましょう」
//SE 梵天が耳の中で動く音
「ふわふわふわ。マスター、気持ちよさそうですね。全身の筋肉がゆるんで、呼吸も深くなってきたようです」
「残っていた小さな粉も取れたみたいですね」
「最後にゴミを飛ばしますので、ふーってしますよ」
//演技依頼 耳の中に「フーッ」と息を吹きかける。
「これにてリラクゼーション・プログラムは全て終了です」
「マスター?」
(耳元でささやく)
「眠ってしまわれた……?」
─ * ─
次回最終話。AIさんの秘密が明かされます!
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