3、膝枕でドライヘッドスパ体験

(膝の上に乗った主人公の頭を撫でながら)

「頭皮にもたくさんツボがあるんですよ。頭の頂点にある百会ひゃくえが有名ですね。万能のツボと言われています」


「両手の親指でじんわりと刺激していきますよ」


百会ひゃくえをゆっくりと押しながら)

「痛すぎたらおっしゃってください。いた気持ちいいぐらいがちょうど良いんです」


「体が温まってきた感じがしますか?」

「血行促進にも役立つツボですので効いているようですね」


「次はお顔の方へまいりまして、四本の指の腹でひたいの生え際から押していきます」


(触れながら)

「頭皮がずいぶん硬くなっていますので、指の腹ではなく第一関節を押し当てて強めにマッサージさせていただきます」

「おでこと頭の境目に押し付けまして、頭皮を揺らすように前後左右にマッサージしますよ」


(マッサージしながら)

「縦方向に一、二、三、四、五。横方向に一、二、三、四、五」

「頭皮を動かすことで筋肉に張り付いた筋膜をはがし、筋肉のスムーズな伸縮を改善していきます」


「あ、少しずつ動くようになってきました。目の疲れも取れるはずですよ」


「え? 頭皮と眼精疲労に関係があるのかですって?」

「大いに関係しているんですよ」


「頭皮が硬くなると、頭部全体の血流がとどこおります。血流の低下は、目への栄養や酸素の供給に悪影響を与え、眼精疲労を引き起こす原因となるんです」


前頭筋ぜんとうきん全体をよくほぐしていきましょうね」


(生え際をマッサージしていた指が額のほうへ下がっていく)

「あ、はい。私が今マッサージしている場所が前頭筋ぜんとうきんです。頭の前部分から眉にかけて、ひたいを覆っている筋肉になります」


「くるくると回すようにしてほぐしていきますね。目は閉じていただいて大丈夫ですよ」


「だんだんポカポカとあたたまってきましたか?」

「血流が改善されたようです」


「では黒目の真上――ちょうど眉の真ん中にある魚腰ぎょようというツボを指圧していきます」


「両手の親指を当てて―― ぎゅぅぅぅっと」


「いったん力をゆるめてもう一度――ぎゅぅぅぅ」


いた気持ちいいですか? こちらのツボを指圧することで眼輪筋がんりんきんの緊張がほぐれ、眼精疲労の改善に役立つのです」


「マスター、お仕事中はじーっと一点を見て集中しているでしょう?」


「筋肉は動かさないと固まってしまいます。だから眼輪筋がこんなに硬くなっているんですよ」


「仕事中にキョロキョロするわけないだろって?」


(やや不満そうに)

「AIに正論で返さないでください」


「眼精疲労を改善する二番目のツボは目頭めがしらにある睛明せいめいです。眉のすぐ下――鼻の付け根部分ですね」


「眼球のすぐ上となっていますので、指の腹で優しく揺らしていきます」


「ここはお疲れの時にご自分で押していらっしゃる?」


「とても良いですね。でも疲れを感じたら休憩を取ってくださいね」


「忙しくて休んでいる暇なんかないですって?」


(小さくため息をつきつつ)

「みんなのために頑張るマスターは素敵ですけれど、あなたの健康を心配している人がいることも忘れないでくださいね」


(気を取り直して)

「三番目のツボは太陽といいます。こめかみと目尻の間にある少しくぼんだ部分ですね」


「二本の指でくるくると回すようにして揉んで行きますよ」


「いかがでしょうか?」


「はい、目を開けていただいて大丈夫です」


「視界が一段明るくなってすっきりした感じがしますか? それは良かったです!」


「それでは側頭筋そくとうきんのマッサージに移っていきます」


側頭筋そくとうきんの場所ですか?」


「名前の通り頭部の側面にある筋肉でして、こめかみから耳の上あたりを覆っています。顎の筋肉にもつながっていますので、ストレスフルな毎日の中で無意識のうちに歯を食いしばっていると、緊張してしまいますね」


「耳の上部分に四本の指をあてまして、斜め上方向へ押し上げるように、ぐるぐるとほぐしていきます」


「すごく気持ち良いですか?」

「こんなところがっていたなんて知らなかったですって?」


「首や肩と違って自覚症状が出にくいかもしれませんね」


「ずいぶんやわらかくなってきましたね。ほぐれてきたようです」


「では最後にうなじの方にある後頭こうとう下筋群かきんぐんをゆるめていきますので、少し頭を持ち上げますね」


「頭の下に手を入れさせていただいて――」

「まずは耳たぶのうしろにあるツボ――風池ふうちから押して行きます」

胸鎖乳突筋きょうさにゅうとつきん僧帽筋そうぼうきんの間にあるくぼみですね」


「ああ、マスターったら胸鎖乳突筋きょうさにゅうとつきんもすごく硬くなっていますよ!」

「首を動かさずにずっと同じ姿勢でお仕事されていましたね?」


「首を振り振り仕事するバカはいないって?」


(ちょっとふくれて)

「マスターったらまた正論をおっしゃる」


「そりゃそうでしょうが、三十分に一回は首を回すなどして体をいたわってほしいのです」


胸鎖乳突筋きょうさにゅうとつきんは、頭蓋骨の耳の後ろ部分から鎖骨までを斜めにつないでいる筋肉です」

「胸鎖乳突筋の周囲にはたくさんリンパ節が集まっていますから、マッサージすることでリンパの流れを促進できるんですよ」


「少し頭を傾けさせていただいて――」

「胸鎖乳突筋は首をひねると浮き出てくるんです」

「デリケートな場所ですので、優しくつまむようにしてほぐしていきますね」


「強すぎませんか?」


「もっとがっつり押してほしい」


「こちらは頸動脈の近くですので、押し付けないように揺らす感じでゆるめていきますよ」


「眠くなってきましたか?」


「ええ、生理学的に正常な反応です」


「マッサージにより頭部の血流が改善され、脳内においてセロトニンやエンドルフィンなどリラックス効果のある物質の分泌が促進されます」

「これらの神経伝達物質は心身をリラックスさせ、眠気を誘発します」


「マスターの脳波もアルファ波優位になり、リラクゼーション効果が確認できています」


「はい、こちらのリラクゼーション・プログラムは常に体温・血圧・心拍数・脳波などを測定し、適宜必要な施術を組み合わせて行うものとなっております」


「胸鎖乳突筋はずいぶんゆるんできたようですので、後頭こうとう下筋群かきんぐんのマッサージに戻っていきましょう」


頸椎けいついの左右にある天柱てんちゅうというツボを押していきますよ。ちょうどうなじの生え際のところですね」


「ぐいーっと。気持ち良いですか?」

「肩の力を抜いて、口から細く長く息を吐いて脱力してください」


「何度か指圧していきますね」


「ぎゅぅぅぅっと。楽になってきましたか?」


「頸椎の左右にこわばりが見られますので、やわらかくしていきましょう」


(オノマトペを言いながらマッサージする)

「ぐい、ぐい、ぐいっと」

「筋肉がコリコリ言ってますね。ヒトの頭は重いですからね、四キロから六キロと言われる重量を支える筋肉群はどうしても緊張してしまうんです」


「背中の方までしっかりほぐしていきましょうね」


(マッサージを続けながら)

「ずいぶん緊張が取れてきましたね」


「リラクゼーション・プログラムも最後の施術となりました。イヤーエステと耳かきを行いますのでマスター、体勢を変えて横向きになっていただけますか?」


「マスターったら恥ずかしがらないでください」

「小さな子供に戻ったつもりで、私にすべてゆだねてくださいませ」


(主人公から耳かきは不要だと断られ)

「え? ――まあ!」

「全自動耳かきマシンで掃除しているから必要ないなんておっしゃらないでください!」


「リラクゼーション・プログラムにおける耳かきは耳アカを取るのが目的というより、耳の中をマッサージさせていただくものです」


「耳の中には迷走神経という、副交感神経の一種が通っています。迷走神経を優しく刺激することで気持ちが落ち着き、眠りへと誘われるのですよ」


「さらに私の膝のぬくもりや、人の手で掻いてもらうというふれあいが、オキシトシンの分泌を促します」

「オキシトシンは脳の視床下部から分泌されるホルモンで、幸福物質とも呼ばれているんです」


「ではマスター、お耳を私の方へ向けていただけますか?」




─ * ─




次回は耳かきで寝かせます!

あと2話で完結です。応援ありがとうございます!

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