瀬戸内に響く鈴の音

額田兼続@KKG所属

姫の覚悟

天文12年。

瀬戸内大三島の大山祇神社の神職である大祝家に生まれた姫、鶴は女武将として育っていた。

彼女には2歳年上の恋人、越智安成が居た。

「出陣するのなら、私も連れて行ってください」

「いや、姫は大三島を守ってくれ。私は討たれたりしない。いつか帰って来る」

安成は笑って見せたが、その笑いはどこか儚く見えた。

強がっているが、本当は少し不安があるのだろう。

「分かりました…この御守りを授けますから、どうかお無事で」

鶴は母、妙林から貰った鈴のついた御守りを安成に渡した。

「ありがとう。御守りは大切にするけど…この鈴はそなたが持っていてくれ。鈴を鳴らしたら、私はどんな所からも駆けつけるから」

安成は御守りの鈴の部分だけを外しながら言った。

「はい。では…御武運を」


ある日、とある知らせやすなりのふほうが届いた。

安成の遺体は海の底へ沈んでしまったらしい。

鶴は泣きそうになったのをぐっと我慢して、

「まさか……そんなはず無いよね、安成殿?」

鶴は瀬戸の海の浅瀬に立ち、鈴を鳴らした。

しかし、いくら鳴らしても、いくら待っても何も無い。いつのまにか鶴の目には涙が溢れていた。

「安成殿の嘘吐き!どんな所からも駆けつける、と言ってたではないですか!?」

波はまるでそれをを安成の元へ届ける様に、鶴のこぼした涙を一粒残らず飲み込んでいった。


結果、敵の大将、陶晴賢を討ち取ることはできなかったが、鶴達は勝利した。

武将達は皆喜んでいるが、鶴だけは気持ちが重く沈んでいた。

(安成殿……)

そして覚悟を決めた鶴は、

「安成殿……?」

瀬戸の海へ船を漕ぎ、

「安成殿、迎えに来てください…鶴はここにいます…」

『その声は、鶴…!?』

鈴を鳴らして、

『何を…!?鶴、やめろ!』

「安成殿…居たのですね。今夜は星が綺麗ですね…では私もそちらへ……」

海へ沈んで、

『引き返せ!おい、鶴!?聞け!』

(貴方はカンカンに怒ってますけど…また会えると思えば…)

『鶴!帰ってくれ!お前はまだ来ちゃ駄目だ!』

(安成様…また……すぐに…………会え…………ます………よ…………………………)

二度と陸へ上がってくる事は無かった。

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瀬戸内に響く鈴の音 額田兼続@KKG所属 @Nekofuwa-jarashi

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