事件シリーズ 糞男ー犯人も裁判長も

龍玄

糞男ー犯人も裁判長も

 事件は2002年7月19日23時15分頃、群馬県勢多郡大胡町に住むある家庭に聞き覚えのない男から突拍子もない内容の電話が掛かってきた。

 「娘はどうなってもいいのか。50万円を用意しろ」

 その時、家には12歳の長男・正治と両親がいた。16歳の高校生の長女・聖子は家にいなかった。両親は夜になっても帰宅しない娘を心配し、長女の友人たちに連絡を取り、探していた。そんな時、長女の携帯電話から着信があった安堵して、父が電話口に出るとその男からだった。唯ならない要求に父・武夫は母・真澄に警察に連絡するように指示し、聖子の無事を祈りながら男とのやり取りに専念した。娘に何があった。この男は誰なんだ。聖子が誘拐された。武夫は、男のやり取りをしながら、手掛かりや何が起こっているのか必死の思いで探り出そうとしていた。これは、現実なのか夢なのか。確かに着信番号は聖子の携帯電話からだった。電話を拾った者の悪戯か、そうであって欲しいと高鳴る心音を宥めていた。

 聖子が1学期を終えた日の出来事だった。その日の13時頃、トウモロコシ畑を家に向かって歩いていた。そこへ見知らぬ男が道を尋ねてきた。普段通り聖子は、対応した。男は車から降りてくるといきなり聖子を拘束し、後部座席に押し込んだ。聖子は男が運転席に乗り込む前に逃げようと試みたが、チャイルドロックが掛けられておりドアを開けなかった。聖子は、一瞬にして誘拐された。

 誘拐した男は、坂本結男(36歳)だった。二人に面識はなかった。坂本は、自分の欲求を満たすために聖子を誘拐した。坂本は高校に進学した頃から無免許でバイクを乗り回したり、女友達と遊びふけっていた。高校は早々に中退し、アルバイトをしたり、プレス工やとび職などで小遣い銭を賄っていた。当時、交際していた女友達を妊娠させ、堕胎させていた。その費用は、坂本の母に支払わせていた。

 人生の歯車を自ら壊しながらも、性欲を満たすために堕胎させた女性ではなく、その後に交際した女性と結婚。二人の子供を授かっている。しかし、坂本が定職に就くことはなかった。金がなくなると働く。しかし、家計にはいれない日々を繰り返していた。必要な家計費は消費者金融からの借金を当てていた。金を借りると一部は妻に渡し残りは他の複数の女性との交際費に充てていた。糞中の糞。こんな男に引っかかる女も女だ。糞には公衆便所かその予備軍が引き寄せられる。金には金が集まると言うが、糞には判断力の乏しい女性が引き寄せられるのは嘆かわしい現実だ。避妊などするわけがない。結果的には妻以外の女性を妊娠させ、堕胎させることを繰り返していた。その費用は、糞らしく逃避して支払っていない。女性関係や経済的なことから離婚。当然の結果だ。それをいいことに坂本は、女性との交際に熱意を高めていった。風俗店勤務の女性・美沙と知り合い、美沙の連れ子のいる家に転がり込む。割り切った関係はヒモ状態でも順調に進み、やがてその女性と結婚。結婚後はとび職として働いていたが職場でたびたび問題を起こし、職を転々としていた。その苛立ちから美沙や連れ子にも手を上げるようになってきていた。負のスパイラルは怠惰の人間を容易に飲み込んでいく。住居のある近隣と揉め、坂本は実家に流れ込む。そこには両親と弟がいた。坂本は、建設現場を渡り歩いていた。経済的に不安定ながらも何とか継続はしていた。やがて美沙との間に女の子を授かった。しかし、出産費用を巡って両親と揉めた。妊娠は欲求の成れの果て、欲求を満たせない煩わしいものに金を払う意識など持ち合わせていなかった。当然のように離婚。その後、欲求を満たすためテレホンクラブで女を漁り、欲求を満たしていた。それでも思うように連れなくなると

美沙に泣きながら「俺を分かってくれるのはお前しかいない」と泣きながら嘆願し、それが功を奏して美沙の母性本能がを擽った。しかし、名が続生きはしない。美沙や連れ子に手を上げるようになった。思い通りにならなければ見境がなくなる。欲求の抑制が効かなくなっていた。鬱憤晴らしとして性的願望を満たすため、女性を拉致して乱暴することに執着し始めた。弱い者を屈服させることで支配者となり優越感を満足させられる。ターゲットを物色するため街を車で流し始めた。

 「これまでの自分の人生は何をしても中途半端で空しいものだった。この先がどうなってもやりたいことをやろう」。人生が馬鹿馬鹿しく思えて投げやりな気持ちに陥っていた。坂本は女子高校生をさらって性的暴行をした上で人質にし、遊ぶ金を得ることに思いを馳せた。そう、聖子は坂本の思い付きに運悪く付き合わされることになる。一人でトウモロコシ畑を通る道を歩く聖子に道を尋ねる振りをして拉致することを成し遂げた。人気のない赤城山の山林内に向かい車を停め、「言うことを聞かなければ帰さねえぞ」と凄み、疲弊していた聖子に抑え込んで性的暴行を加えた。恐怖の中でも逃走の機会を伺ってい試みた。坂本は、聖子の逃走に気づき逃げる聖子に追いつき後ろから聖子の首に腕を回し、締め上げた。聖子は暫くして抵抗しなくなり、薄目を開けて口元から泡を吹いて、胸のあたりが痙攣していた。

 「やばい、病院に連れて行くか。いや、犯行がばれる、それは不味い」と考えた坂本は、聖子の頭にビニール袋を被せ、自身の体重をかけ聖子の首を絞めた。それでも息をしていたのでカーステレオのコードを使って首を絞めた。動かなくなった聖子さんを山林に捨て聖子の荷物から現金約2600円と携帯電話を奪うと残りは山林に投棄した。奪った金でゲームセンターに行った。少し落ち着いて「自分は殺人者になってしまった。もう、終わりだ」と思い詰めた。最後に美沙に会いたい。性欲を思い存分晴らしたかった。全てを忘れるために。

 しかし、美沙の居場所が分からなかった。坂本が美沙の連れ子に手を出した時、児童相談所が面倒見ていたのを思い出した。児童相談所の担当者を脅せば連れて来させる。そのためには拳銃が必要だと考えた。手に入れるには50万円が必要だった。そして、聖子の携帯電話を使って聖子の親に身代金として50万円を要求した。

 連絡を受け取った両親は警察の指示で坂本と何度も交渉を行い、23万円を受け渡すことが決まった。警察の見張りを警戒した坂本は、受け渡し場所を何度も変更し、受け渡しの機会を伺っていた。坂本は23万円を手に入れた。警察は坂本を追跡していた。泳がせる時間は危険が伴うとして逮捕に踏み切った。逮捕された坂本は「聖子さんは仲間と一緒だ」と悪足掻きをした。警察は、捜査を混乱させるものだと追及した結果、自供を得た。自供通り聖子さんの変わり果てた姿がそこにあった。

 坂本は、殺人・猥褻略取・人質による強要行為などの処罰に関する法律違反・強姦・窃盗・拐取者身の代金取得などの罪に問われた。

 検察は「身勝手な犯行」と断じ、矯正は無意味で再犯の恐れは極めて高いと死刑を求刑した。裁判官は坂本に事件についてどう思うかとの問いに「ほとんど考えずにいる」と供述した。一方、弁護側は、坂本の自己抑制・忍耐力のない人格が形成された生活環境を放置してきた親族や社会・教育にもせきにんがあるのではないか、と主張した。その後、坂本は無期懲役を言い渡された。坂本の刑事責任は極めて重大とされた一方、その場の思い付きに近い杜撰な面も含まれている犯行で綿密に計画されたものとまで言えない。前科・前歴もなく反省する気持ちが芽生えてきていることも窺えるとして極刑を回避された。

 坂本は諦めたように退廷した。その後、裁判長は遺族に語り掛けた。

 「犯人が人を殺すのは簡単だが国家として死刑判決を出すことは大変な事です。納得できないと思いますがそういう事です」

 遺族に国家の都合など知るところではない。裁判長が述べたものは言い訳にしか聞こえなかった。この判決後、両親や友人たちが中心となり、極刑を求める署名活動が行われた。その結果、76000名分の署名が集まり、前橋地検に提出された。

 その結果、一審判決が破棄され、坂本には死刑が言い渡された。一審で計画性がないとされたが二審では偶発的ともいえない、と認定された。犯行の残忍さを指弾し、逮捕後、しばらく真実を供述しなかった態度も無慈悲だと指摘した。裁判長は「聖子さんの恐怖・絶望・無念さを思うとき言ううべき言葉がない」として極刑はやむを得ない、と結論付けた。

 坂本は弁護士の勧めを拒否し、上告を行わなかった。坂本は控訴審で被告人質問で一審判決で「死刑じゃないのは可笑しいと思った」と述べていた。これが反省の気持ちの芽生えとされたのだ。

 判決確定してから四年後に坂本の死刑は、執行された。

 







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