5話 無くしたもの。
ナティクスとの会話は、主に
詳しい話は聞かされなかったが、
ちくしょうめ。
「――おや、もう夕方のようですね。」
「……?」
ついた時には日が頂点まで昇っていたのだが、気付けば既に夕暮れ時であった。
「折角ですし、ここで泊まっていくのはいかがですかな」
「良いんですか?」
「ええ、もちろん」
何だ、結構いい人じゃん。
「案内して上げなさい」
「かしこまりました。ではお客様、ついてきて下さい」
僕はナティクスに頭を下げた後、給仕さんについていく。
案内されたのは一つの部屋であった。
「それでは、何かあれば先ほどの部屋におりますので、何なりとお申し付け下さい」
「ありがとございます」
「はい。それでは」
そう言うと給仕さんは部屋を去る。給仕さんを見送った後、僕は部屋に目線を移す。
ふかふかのベッド、見た目の良いテーブルとイス。そしてお高そうなカーペット。
必要最低限なのは確かだけど、庶民に対して待遇良すぎない?貴族って一部は根のいい人なの?
ちょっと評価を改めようかな、と思いつつ何となく部屋を見て回る。
どれもレグルース村にいた頃ではお目に書かれないような物ばかりで、まるで自分が貴族になったようだ。
しばらく見て回っていると、ベッドの下に何やら怪しい光を見つけた。
そこを覗いてみると、ピンク色で構成された魔方陣があり、中心には怪しげな目が描かれている。
僕はその魔方陣を見ているうちに怖くなって、荷物の入った籠を持って部屋を飛び出した。
「あんなのあるなんて聞いてない……!」
部屋から出て立ち止まり、僕はそう呟く。
その後、僕は恐怖心で荒くなった息を整えて、入口まで歩き始めようとした、その時だった。
「コッ……コッ……コッ……」
「っ!?」
一階から誰かが上ってくる音が聞こえてきた。僕は用意された部屋とは違う近くの部屋を探して、咄嗟に隠れる。
「ふぅぅ……」
ドアを閉めてひと息つき、僕は辺りを見渡す。部屋は本棚で埋め尽くされており、隅っこには机があり、その上に置かれた火の灯ったろうそくが部屋内を薄暗く照らしている。
「本……魔術の事とかもあるのかな」
危険な状況にも関わらず、僕は怪しそうな本を探り始める。こういう所で好奇心が勝るのは、何譲りだろうか。
そこで僕はオレンジ色の表紙をした、やや分厚い本に目が止まった。
「聖獣製造実験報告書……著者ミラビル」
その本には、「聖獣」と呼ばれる戦争兵器を研究した報告が、事細かに記されていた。あまりにも活字が多いので、途中からざっくりと読み飛ばしていたが、一番最後のページ、多分一番新しい研究報告にこう書かれていた。
製造実験成功 No.1432 所有者:ミゾレノ・ユウ 原料:ファルシオン 能力:現在不明
突然の情報に頭が混乱した。しかしながら事態はさらに変化する。
「っ!?……おっ、えっ、が!?」
突如として胸が痛み始め、皮膚を突き破られ、触手が出てくる。穴の空いた胸からは血が流れ出し、そこから一本の剣が出現した。
「ふっ……がっ、えっ……」
どこかの見覚えのある剣を吐き出した後、皮膚が再生を始め、触手は元に戻り、僕の身体は痛みを残して、何事も無かったかのように戻る。
そこから痛みも引き始め、ようやく立てるようになり、僕はここまでの情報を整理し始めた。
「ファル、シオン……」
胸を突き破られ、あの触手が出てきて、そこからあの剣が出てきた。
「触手はいなくなったわけじゃなくて、僕の中にいて、僕の中からファルシオンが出てきて、それで……聖獣。戦争の道具……」
僕はファルシオンを手に持つ。その剣の見た目は、聖獣と呼ばれるには似ても似つかない悍ましい見た目だ。そもそも獣ですらないし。
「一体何が――「バンッ!!」っ!?」
思考を整理できない中、突如として扉が開けられる。扉の目の前に立っていたのは、顔を大きく歪ませたナティクスだった。
「……なぜ逃げたのです?」
言い放ったのはその一言。怒気を放ち、僕のやった行為そのものに不服感を感じているようだった。
「見たのですよね?彼と私のやりとりを。なら分かったでしょう。貴方はもう人ではないと」
手にはショーで見た物より遥かに大きい火を浮かべ、こちらへ詰め寄ってくる。
「ええ、良く分かりますとも。辛いですよね?奪われるのは」
ナティクスは胸に手を当て、優しい声色で訴えかける。
「でももう大丈夫。今ならまだ引き返せます。さあ、部屋へ戻って、楽になりましょう?」
頭によぎるのはショーにいた観衆。それと魔方陣、ナティクスの発言。不可解な点が繋ぎ合わさり、脳が警鐘を鳴らす。
「がぁっ!?」
殺す。そう思った時には、既に行動は終わっていた。ナティクスの腹をめがけ、ファルシオンを突き刺し、扉を突き破って押し倒す。
そこから僕は何度も何度も、ナティクスの急所突き刺すように剣を振り下ろす。
見ていて気分の良いものでは無かった。
やがてナティクスが動かなくなるまで、動かなくなった後もファルシオンを振り下ろし、気付けば日は落ちきっていた。
「うごっ……あっぐっ、おえぇっ!!」
僕は今更ながら冷静になり、感じたことの無かった血生臭さと、今見ている光景、そして何よりも、それを自分がやったという事に耐えられず、胃の中の物を吐いてしまう。
「あっ……うぅぅっ……!」
人を殺すことは、とても辛いことだった。
つくりものの聖獣 さんばん煎じ @WGS所属 @sanban_senzi
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