4話 胡散臭いもの。
僕はあの後、手探りで必要な物を探しながらも、二日で準備を終えた。
食料、道具、お金、いざという時の保険など、村長から聞いた話や、自身の経験を元に色々揃えてみた。
食料は家にある魚の干物や干し野菜など。
道具は山に潜る時に使うものや、家にある火打ち石とか。お金は銅貨10枚に銀貨1枚。保険は、古い羊皮紙に赤色の何かで描かれた魔方陣である。
ぶっちゃけ胡散臭いだけのお守り的な持ち物だが、父と母が遺した形見の一つなので、今も大事にしている。何でも持っていれば危険から身を守ってくれるらしい。
僕はそれらを籠に詰め、入り切らない分は腰当てに吊り下げ支度を終えた後、村長に軽い挨拶をし、いよいよ出発する。
「どうしてこうなったのか……」
一応、村長からは、「王都を目指すべき」というアドバイスを貰ってはいる。
そして僕は、王都を目指す旅をスタートさせた。
――――――――――――――――――――
時間は進み、早一時間。
今僕はレグルース村から一番近い、
一応、それらしき村は見つけ、今になってようやく村が良く見え始めた頃だ。
「はぁ……きっつ……なんでぇぇ!!」
多分、村長は馬車に乗って移動していたからすぐ着くと言ったのだろうが、自分の足で歩くとなると地獄である。
ビリバー村の入口に到着した頃には、僕の足と精神は既にボロボロであった。平地を歩く事に慣れてないからなのだろうか……。
「うっぷ……」
まあ、
僕は無事にビリバー村に着くことが出来た。しかしながら、村の入口は閑散とした雰囲気で、
何かあったのか、そう思い耳を澄ませると、何やら奥の方で人で賑わった何やら楽しげな声が聞こえてくる。
「お祭り?」
興味を持った僕は、村の中心辺りまで近づいて見ることにした。近づけば近づくほど、声は大きく聞こえ、また鮮明になっていく。
「さぁ〜!さぁさぁ!魔術師ナティクスの魔術ショーは、まだ始まったばっかだぞぉー!」
「は……?」
ナティクスという魔術師の横にいる人の言葉を聞き、僕は何を言っているとかと呆気に取られた。対して魔術とやらを待ちわびるように、熱狂する人々。
「では次は、火の魔術を見せてしんぜよう。……火よ!我が前に顕現せよ!」
ナティクスがそう言うと、突如として彼の手のひらに小さな火が浮かび上がる。
……吹けば消えてしまいそうな火だが、それでもナティクスは無から火を起こしている。仕掛けがあるのかと考えては見たが、どうやらそうでも無さそうだった。
「ではこの魔術を、的に当てて見せましょう。助手、セットを」
「か〜しこまりましたぁ!」
慣れた手つきで的を所定の位置らしき所に持っていくと、ナティクスの元へと戻り、ナティクスの後へと下がる。
「それでは参りましょう……はぁぁ!!」
魂を込めるような声と裏腹に、優雅な動作で放った火は、やや中心から軌道はズレるもの、しっかりと的に命中し的を焦がす。
「うぉ!やっぱりナティクス様は凄いぜ!」
「やっぱりナティクス様は神様なのよ!」
ナティクスの周りにいる観客が揃ってナティクスを褒めちぎり、金を投げる。殆どが一番価値の低い銅貨ではあるが、一部銀貨が入っていたりもした。
まあ確かにあれは魔術っぽいのだが、実際にはどうなのかは分からない。
魔術関連の話といえば、王都では貴族が魔術を使えたり、貴族が通える「魔術が学べる学校」もあるらしい。
そもそも魔術とは何なのか庶民たる僕には噂程度しか分からんが、まあ貴族の嗜みなんだろう。
つまりこの人は貴族出身なんだろう。そうじゃなきゃ、この胡散くさ――尊大な態度に説明がつかない。
「皆様、お布施をありがとうございます。これもひとえに神様や天使様のおかげ。この後もショーは続けていきますので、お布施を忘れないように」
ナティクスは観客に手を振り、優しい笑みで接している。僕はそんな彼を眺めていると、ふと目があった。
「……失礼。道を空けてください」
突然、ナティクスがそう言うと、観客は、彼が僕の所まで行ける程の道を空ける。
そしてナティクスはゆっくりと僕の元に近づき、こう言った。
「初めまして、旅人よ。ビリバー村へよくぞ来てくれた。私はビリバー村を収める、ナティクス子爵という」
「は、初めまして」
ナティクスはその尊大で柔らかな態度を崩すこと無く、僕に接してくる。
どうやら読み通り、貴族だったようだ。
「ビリバー村に来て間もないだろう。先ずは私の家で旅の疲れを癒してはいかがかな」
魔術を使う胡散くさ――、キチガ――、ん゙ん゙っ。不思議な人だが、まあ着いていく事にしよう。
実質一択だし。
――――――――――――――――――――
そうして着いてきたナティクスの家は、豪奢とは言わずとも、平民の家とは一線を画している。
この人は高い物をとにかく乱雑に置いて権力を誇示するタイプではなく、細かな装飾を家に施し、全体的な纏まりを持ちつつもそこらの貴族と同じだけのお金を掛ける、要するに几帳面な人だった。
この人は胡散臭い振りして、根は真面目らしい。
「こちらに掛けてくれ」
「ありがと……ございます」
籠を置き、イスに腰掛け、僕はナティクスと対面する。
ちょっと緊張するのでふと横を振り向くと、給仕さんらしき人がお茶を淹れてくれていた。
「お客様が来るのは大分久しぶりでしてね。少しおもてなしさせて下さい」
「……?分かりました」
すると給仕さんの淹れたお茶が僕の目の前に運ばれる。
「異国の地から遥々仕入れてきたものでして、
説明を気持ち半分で聞き、僕はその紅茶を一飲みする。確かに、心地よい香りとくどくない甘みがあるようで、如何にも味のうるさいクソった――品のある貴族が好きそうだ。
「さて、既にご存知かと思いますが、この村の話でもしましょうか――」
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