第18話 大魔道士の邂逅

     大魔道士の邂逅


 稟議の森からもどったボクたちは、一躍時の人となった。何しろ、稟議の森にいた厄介な魔獣を倒した、というのだから。

 討伐隊を組もう……といった話まであったそうだから、ギルドも困っていたのだろう。ただし、その功績はあくまでヘラお嬢様のもの。ボクは目立ってはいけない。下僕としてお嬢様のダンジョン探索をサポートする立場であり、活躍したわけではないのである。

 お嬢様には、その評価がちょっと不服だったらしいけれど、魔力ゼロのボクが魔獣を倒した、なんて知れたらそれこそ大ごとになる。ぐっと堪えてお嬢様が賞賛を一身に浴びる。

 ただ、稟議の森で回収してきた魔石を換金しようとしたとき、とある噂を耳にしてお嬢様は激しく動揺する。

「強欲の天使が、ここにくるらしい」

 天使なのに、強欲……? その時点で二律背反のような気もするけれど、冒険者たちの間では有名な人らしい。

 しかし、お嬢様はその名前をきいてから、心ここにあらず……といった感じで、お屋敷にもどってきた。


「強欲の天使? 知らないよ」

 ファリスはそういって、首を傾げる。でも、アカミアがぴんときたようだ。

「多分その人、天使族です」

「知り合い?」

「とんでもない! でも、私も冒険者をしていたから、その名前に聞き覚えがあるんです」

 アカミアも天使族だ。そして、基本天使族というのは魔力が高いことで知られる。アカミアはそれほどでもないけれど、通常は魔法使いとして、冒険者の中でも位置付けられるはずだ。

「お嬢様は過去に会ったことがあるのかな?」

「さぁ……」

 ファリスは首をかしげるけれど、お嬢様が冒険者として活動する間のことを、この屋敷の人間は誰も知らない。

「でも、冒険者の中では超有名人ですよ。大魔道士に数えられる一人なので」

 世界でも屈指の大魔道士、そのうちの一人がヘラお嬢様だけれど、他にも勿論、大魔道士はいる。 そのうちの一人らしい。

 大魔道士の邂逅――。あまりよい想像ができるはずもなかった。


「ヘラ! 久しぶりだね‼」

 突然、屋敷に入ってきたのは、赤髪が爆発してファンキーな髪型になった……女性だった。

「お、お師様。お久しぶりで……」

 ボクもそれを聞いて、初めてお嬢様の魔法使いとしての師匠だと気づく。

 ただ驚いたことに、彼女は五人の弟子をひきつれて、魔法使いだけでパーティーを組んでいることだった。

 お嬢様とて、一人で冒険者をしているのだから驚くことではない。大魔道士と呼ばれる人は、単独でもダンジョンにもぐれる実力があることを示す。彼女の場合、そこで弟子の育成をするようだ。そして、過去にはお嬢様はその一団の中に入っていたのだろう。

 そういえば、勇者パーティーにいるポーラは姉弟子だった。この赤髪の女性はそうやって弟子を育てるのだ。

 オサイアン・フォンテン――。

 年齢的にはまだ若く見えるけれど、これは天使族の特徴らしい。実年齢はもう五十を超えているらしい。若く見える、という点ではエルフ族に近いけれど、長命の種ではないので、若い姿のままで死ぬそうだ。

「どうして、こちらに?」

 ヘラお嬢様がおずおずと訊ねると、オサイアンは真剣な表情となった。

「最近、この辺りに顔をだしていなかったから、おいしいものも増えたんじゃないかと思ってね」

「…………え?」


 その日から、オサイアンはお嬢様のお屋敷にしばらく滞在することになった。

 屋敷は元々広いので、その弟子である五人の魔法使いもふくめ、部屋数は十分に足りている。

 ただ問題は、ボクが出入りするのを憚られることだ。

 ボクは魔力ゼロの下僕、そんな者が貴族の家に雇われていることさえ厭う状況なのに、まして屋敷に平気で出入りするなんて、この世界では考えられないようなことなのである。

 そこで屋敷の外にある小屋に、一先ず寝床を移した。三畳程度の、元は物置だったところとあまり変わりないけれど、お嬢様の近くにいられない、というのが哀しいところだ。

 オサイアンの弟子は、二人が男性、三人が女性だ。人族とエルフ族の男が一人ずつおり、女性はエルフ族、天使族、人族だ。

 基本、魔力が高い平民をあずかっているはずで、お嬢様のようにその中でも特に魔力が強いと、貴族へと昇格する。お嬢様の場合、あまりの強さで冒険者になるときには貴族認定されたそうだけれど、この五人に貴族はいない。

 しかも、なぜかこの五人は仲が悪い。オサイアンがいるから、ケンカはしないけれど、冒険者は仲が悪い、それを体現するかのように五人はバラバラで、会話すらかわすことがない。

 ボクは急に大魔道士がこの辺りにきた理由を知りたくて、探りをいれているのだけれど、会話がないので中々に大変だ。ただその中で天使族の女性物がつぶやくのを聞いて、ボクも驚愕した、

「ここを守ったところで、しょうがないのに……」

 どうやら、危険がせまっているようだ。それも大魔道士を二人も集めないといけないような……。














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