第17話 エピローグ

 2075年、木星軌道上のステーション「ガニメデス・ハブ」。


 巨大な観測窓から、木星の圧倒的な姿が見える。その周りを、無数の作業用ドローンが飛び交っている。


 エコーとノヴァは、到着ゲートに立っていた。二人の表情には、期待と緊張が入り混じっている。


「久しぶりね、おじさんに会うのは」


 エコーは頷く。


「ええ。5年ぶりです」


 ゲートが開き、人々が次々と出てくる。そして……


「お帰り、エコー、ノヴァ」


 ゼンは表情筋を精一杯動かしてにっこりと笑った。


「お久しぶりです、ドクターゼ…いや、父さん」


 エコーの声が少し震える。


 三人は、しばし言葉もなく見つめ合った。


「二人とも、本当に立派になったな」ゼンが誇らしげに言う。


 ノヴァが冗談めかして言う。「おじさんも、宇宙での生活が似合ってるわ」


 三人は、ステーションの中を歩きながら、この5年間の出来事を語り合った。


 地球での環境再生プロジェクトの成功。火星コロニーの拡大。そして今、木星の衛星での生活基盤整備計画。


「父さんの設計した居住モジュールは、本当に素晴らしいです」エコーが言う。


 ゼンは照れくさそうに笑う。「いやいや、君たちが地球で頑張ってくれたおかげさ」


 観測デッキに到着した三人は、目の前に広がる木星の姿に見入った。


「人類の可能性は、本当に無限大ね」ノヴァがつぶやく。


 エコーが続ける。「そして、私たちはその一部です」


 ゼンは二人を見つめ、静かに言った。


「実はこっちにきてから、いつの日かエコーとノヴァに読んでもらえたらと思ってな、小説を書いてたんだ……で、ちょうど今日書き終えたところだよ」


「どんな小説ですか?」エコーが興味深そうに尋ねる。


「未来の子……っていう」


 エコーとノヴァは、思わず顔を見合わせた。


「研究者の父さんが小説なんて、信じられない!」


 エコーが驚きを隠せない様子で言った。


「ねー、おじさんの小説だなんて、相当にクレイジーな内容に決まってるわ」


 ノヴァが茶化すように続けた。


 あははと軽快に笑うノヴァとエコー。

 小説の主人公であることをまだ知らない二人はこの後どんな顔をしてゼンの小説を読むのだろうか。


 ゼンは何も言わず、明るく笑い合う二人を微笑みながらしばらく見つめていたが、意を決して最後のサプライズを発表する。


「なぁふたりとも、話があるんだ。実は、えーと……この年齢でちょっと恥ずかしいのだが……」


「妹ができましたよ」


 お腹が大きくなったアリーが観測デッキの扉を開き、満面の笑みでエコーとノヴァを出迎える。


 この日、ノヴァとエコーは意識の再起動にかかる最長記録を更新した。


 三人……いや四人の笑い声が、木星を見下ろす観測デッキに響き渡った。新たな家族の誕生と共に、人類の新しい章もまた、ページをめくろうとしていた。


 <了>

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未来の子 南国アイス @icechan

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