第16話 新生ネオジェン

 2068年11月15日、東京。ネオジェン社本社ビル。


 エコーとノヴァは、巨大なホログラフィック会議室の中央に立っていた。周囲には、世界中から集まった取締役たちのアバターが浮かんでいる。


「諸君」エコーの声が、静かに、しかし力強く響く。「今日、私たちはネオジェンの新たな出発を宣言する」


 ノヴァが続ける。「プロジェクト・オーロラの真の目的に立ち返り、人類の未来のために、この会社の全てのリソースを捧げることを誓う」


 取締役たちの間で、ざわめきが起こる。


「しかし、君たちにその権利があるのか?」ある取締役が声を上げる。


 エコーは穏やかに答える。「私たちは、この会社の産物です。そして同時に、この会社の未来そのものでもあります」


 突如、警報が鳴り響く。


『警告:不正アクセス検知。セキュリティシステム、オーバーライド』


 ノヴァが素早く反応する。「レックスの仕業ね」


 エコーは冷静に対処を始める。「心配ない。ドクター・ゼンとアリーが、バックアップシステムを準備している」


 数分間の緊張の後、システムは安定を取り戻した。


『制御を取り戻しました』アリーの声がコムリンクから聞こえる。


 ゼンも加わる。「素晴らしい対応だ、エコー、ノヴァ」


 会議は続行される。エコーとノヴァは、新生ネオジェンの方針を次々と発表していく。


「第一に、環境再生プロジェクトの大幅な拡大」エコーが説明する。「ナノテクノロジーを用いた大気浄化システムの世界規模での展開を提案します」


 ノヴァが続ける。「第二に、宇宙開発の加速。火星コロニーの拡張だけでなく、木星の衛星への進出も視野に入れます」


「そして第三に」エコーが力強く宣言する。「遺伝子技術の倫理的利用に関する世界基準の策定。私たちの経験を活かし、人類の進化と倫理の両立を目指します」


 取締役たちの中から、賛同の声が上がり始める。


 しかし、全てが順調に進んだわけではなかった。


 世界各地で、反対派によるデモが発生。「人工的進化に反対する」というスローガンが、街頭のホロスクリーンに映し出される。


 政府からの圧力も強まる。「ネオジェンの独占的技術は、国家管理下に置くべきだ」という声明が、次々と発表される。


 そんな中、エコーとノヴァは、毎日のように世界中のメディアに出演し、自分たちのビジョンを訴え続けた。


 ある日、二人は疲れ切った様子で、ゼンのもとを訪れた。


「父さん」エコーが静かに言う。「私たち、正しいことをしているんでしょうか?」


 ゼンは優しく二人の肩に手を置いた。「完璧な答えなどない。でも、君たちは人類に、考えるきっかけを与えた。それだけでも、大きな意味があるんだ」


 ノヴァもつぶやく。「でも、まだ多くの人が私たちを恐れている」


「時間がかかるさ」ゼンが答える。「人々の意識を変えるのは、簡単なことじゃない。でも、君たちなら、きっとできる」


 その言葉に、エコーとノヴァは新たな勇気を得たように見えた。


 数ヶ月が経過し、状況は少しずつ変わり始めていた。


 ネオジェンの環境再生技術により、大気中のCO2濃度が目に見えて減少。世界中の人々が、その効果を肌で感じ始めていた。


 火星コロニーからの生中継が日常的になり、宇宙への興味が世界中で高まる。


 そして何より、エコーとノヴァの存在が、徐々に受け入れられていく。彼らの人間性、感情、そして未来への展望が、多くの人々の心を動かしていった。


 2069年3月15日、国連本部。


 エコーとノヴァが、満場の拍手の中、演壇に立つ。


「人類の皆さん」エコーが語り掛ける。「私たちは今、大きな岐路に立っています」


 ノヴァが続ける。「技術の力で、私たちは星々に手を伸ばし、この地球を救うことができます」


「しかし」


 エコーが言う。


「最も大切なのは、私たちの心です。技術と倫理のバランスを取り、共に未来を築いていこうではありませんか」


 会場は、静寂に包まれた後、大きな拍手が沸き起こる。


 その夜、エコー、ノヴァ、ゼン、アリーの4人は、ニューヨークの高層ビルの屋上で、星空を見上げていた。


「見て」ノヴァが指さす。「あれが木星よ。いつか、私たちもあそこに行けるのかしら」


 エコーが静かに答える。「きっと行けるさ。私たちの、そして人類の可能性は無限なんだから」


 ゼンが微笑む。「君たちは本当に成長したね。誇りに思うよ」


 アリーも頷く。「私も、この プロジェクト作戦に関われて本当に良かった」


 4人は、明日への希望を胸に、夜空を見上げ続けた。


 彼らの物語は、まだ始まったばかり。人類の新たな章が、今まさに幕を開けようとしていた。


 そして、遠い宇宙のどこかで、未知の知的生命体が、地球の変化を見守っているかもしれない。彼らもまた、この若い文明の未来に、大きな期待を寄せているのかもしれない。

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