第4話 

『最高難易度ダンジョン初の生存者! 有名配信者スピード教!!』

『★10ダンジョンに突如現れた喋る人型モンスター!?』


「ねえねえ今日のニュース見た?」

「見た見た! スピ様凄いよね! ★10ダンジョンで生きて帰って来れたんだよ! やっぱ推すべきはスピ様だわ」

「スピード教やべえよな! てかあのモンスターやばくね? 俺かっこいいと思っちゃったんだけど!」

「わかる~~~あいつ普通のモンスターと違って滅茶苦茶かっこいい!!!」


 教室内は昨夜の話題で盛り上がっていた。

 時々聞こえてくるモンスターの話題に響希はもどかしい感情を抱いた。

 この場に話題の本人がいる事など誰一人気づかない。気づかない方が響希自身対応が楽なのでスマホで音楽を聴き続ける。

 音楽を聴きながら電子書籍を読んでいると、机をトントントンと叩く音が聞こえ視線を動かした。

 

「律、凛。おはようございます」

「おはよ~なのです。きーくん」

「おはよ響希」


 カップル配信者リツリンちゃんねるとして活動している冬樹律ふゆきりつ春鈴凛はるすずりんが笑顔でそこにいた。

 あ、これは何かありますね。と響希は長年の幼馴染の表情に瞬時に察した。


「きーくん、今日律の家に集合なのですよ」

「理由は勿論分かるよな?」

「————はい」


 気づいてますね。と響希はぎこちない笑みを作りながら頷く。そこで律の笑顔がほんの少し柔らかくなったのを響希は見た。

 

「後でな」

「はい」


 二人が響希から離れ椅子に着いた。三人の学校内での会話はこれだけ。

 これだけな理由を知っている響希は特に何も思う事なくまた音楽と読書に集中した。






リツ:配信もうすぐで終わるから二泊分の用意しておいてくれ

白波:お泊りですか

リツ:お泊りです

りんりん:勿論ワタシも一緒なのですよ!

白波:そこに私がいてもいいのですか。恋人関係に傷が入るものではないのですか

りんりん:ワタシ達がいいよって言ってるのだからいいの!

リツ:という事で、準備しておいてくれ

白波:はい


 三人用のチャット画面を閉じて、お泊りセットを用意する。

 用意が終わり響希は部屋から出てリビングに向かう。そこには響希の母親と父親がいた。


「母さん、父さん。律の家にお泊りに行ってきます」

「律くんとこ? ちょっと待って…………これ律くんとこに渡してくれる? 渡すタイミングがなくって」

「分かりました」

「響希、発作はどうだ?」

「発作はつい三日前になったばかりです。今週はならないと思います」

「そうか、無理はするなよ。苦しかったら誰かに頼るんだよ」

「ありがとうございます」


 ありきたりな家族の光景に響希は心が少し暖かくなり、表情が和らいだ。

 響希は表情が変わった事に気づかぬまま「行ってきます」と言って家から出た。

 

<>


「深夜に食べるポテチは背徳感あるよな。という事でこれ、お前だよな」

「今の流れからそう来ますか? はいそうですよ」


 もっしゃもっしゃと三人でお菓子とを食べていると、律がスマホの画面を響希に見せた。

 そこには昨夜響希が助けた配信主の切り抜き。そこには死にかけの配信主スピード教とモンスターの姿をした響希の動画が流れていた。

 

「きーくんの話通りの姿をしていたからすぐに分かったなのです」

「お前の前世、一応人間だったんだよな???」

「最初は人間でしたよ。改造の結果がそれです」

「闇が深ーい……いや、まぁ、うん、お前が人間になりたいって理由分かったわ、これみたら分かるしかないわ」

「元に戻りたい! からの人間なのですね~」


 二人の言葉にこくりと頷きながら響希はジュースを飲む。

 本来響希は前世の話をするつもりは一切なかった。ただ不運な事に呪いによって苦しんでいる時に目撃されてしまい、話すしかなかった。

 幼いながらも普通と違う響希に「こいつは一人にしておけない!」と思っていた二人の思いは、呪い&前世の話でよりその思いは強くなった。そのせいか二人が付き合って響希が、こういう場合は距離を取るべきと思ったのに前と距離感はあまり変わらなかった。

 その時響希が「何故」と疑問を問いかけた時に二人は言った。


『一人にしたら折角戻ってきたお前の心また消えるだろ』

『一人にしておけないなのですよっ』


 それからも三人の交流は今でも続いている。

 

「で? なんでお前こんな事したんだ? 俺達がダンジョン配信するってなった時お前断ったのに」

「もしや――心境の変化なのですかっ!!!!??」

「いえ、自宅の作成者として責任を取りに行っただけです」

「……?????」

「?????? 何? 自宅?」


 成長なのですかっ!? と歓喜の表情で立ち上がろうとした凛の様子に、響希は淡々と言葉に紡ぐ。そして発言内容に二人は頭のはてなを大量に浮かばせながら「なにいってんだこいつ」的な目で響希を見た。何度思い返しても自宅の意味が二人には理解出来なかった。ダンジョン=自宅とは? と首を傾げ更にはてなが周囲に飛び回る。

 その表情を見て響希は何度か瞬きしてから視線をずらした。


「ええと、ですね。少し待ってください、適切な言葉を考えます」

「うん……えっと、きーくんの言い方だとあのダンジョンが家~になるのですよね……? でもどうしてダンジョンが家できーくんがその? ダンジョンの作成者、建築主ってことでいいのです、よね……????」

「はい、私が実際にアレを作りましたので作成者兼建築主です」


 二人の心は一つになった「そんな事ある???」。ダンジョンとモンスターが現実の世界にいるからこそ響希の前世話はまだ信憑性があった。だが塔ダンジョンの作成者だけは全く理解出来なかった。

 律は額を押さえる。凛は返答に困り顔を覆う。ただ一人響希だけは平然とした顔で菓子を食べ続ける。

 暫くその状態で続いた後、凛が顔をあげて響希の両肩を掴んだ。


「?」

「一緒に配信しましょう」

「え」

「きーくんのダンジョン作成話、まっったく信じれないけどもし本当なら大変な事になっちゃう」

「え」

「……あぁ、なるほど。塔の持ち主ならどうしてそれを作ったのか、何故ここにあるのかとか色々批判の嵐になるだろうなぁ。最悪ダンジョンが現れた原因全部お前にしわ寄せがきそう」

「え、嫌、待ってください。流石にそれはないでしょう。その思考になる流れが理解できません」


 二人の言葉に今度は響希が困惑する羽目になった。あまり変わらない響希の表情は瞬きを繰り返し口を無意味に開閉させている状態になっていた。

 凛は困惑する響希に説明をする。


「きーくんも知ってると思うけど、ダンジョンって危険と隣り合わせなのです」

「それは理解しています」

「うん。でもさ考えてみて、ダンジョン内のモンスターが外に出てきたら――どうなると思う?」

「人間が殺害される、ですか」


 咄嗟に思い浮かんだのは前世で嫌になる程見てきた虐殺される人間。玩具にされる人間。挙句の果てには人間ではなくなってしまう光景だった。


「そう! それが起こるかもしれないなの。その時にきーくんがダンジョン、モンスターと関係があるってバレたらきーくん殺されちゃうかもなの」

「無関係でもお前はあの塔ダンジョンの持ち主、そこが漏れてモンスターの関係性を強引に紐付けられたら……まぁ無事では済まないだろ。俺達にも言える事だけど」

「何故、二人にも」

「加害者と深く関わっていたから~みたいな? 可能性の一つだよ、実際はどうなるか俺達にも分からないしな」

「それで一緒に配信して、皆に少しでもきーくんを知ってくれたら被害が少なくなるんじゃないかなぁってワタシは思うのですっ」

「あ~味方をつけるって意味での配信か、でもそれ俺達のスタンス的に大丈夫か? ほらカップル配信者として一応やってるわけだし」

「ワタシ達がいいならおーけーなのですっ!!!!!!!」

「ごり押しじゃねえか」


 そんな事ないのですよ!? いやそれはごり押しって言うんだよお前そういうとこあるよな。なんですって!? ウワッなにをする?! とワイワイと盛り上がる二人を気にも留めず響希は考えこむ。

 両手をじっと見つめぎゅっと握る。何の穢れもない綺麗な人間の手に響希は思う。

 ——もし二人の話す可能性が発生すれば、友を、家族を護る為に私はこの手をまた汚す事になるのかな。それも、今度は僕自身の意思で…………それは、いやだなぁ。

 目を伏せ、閉じる。響希は二人の提案をすぐにでも吞みたかった。あの時の人間人のイージャに戻れる好機だというのに何かざわつく嫌な恐ろしい何かを微かに感じてしまい響希は結論をすぐに出せなかった。

 提案を呑むか、何もせずいつもの日常を送り続けるか。


 

 悩みに悩んで響希は結論を出した。そうして騒ぎ盛り上がる二人に向かって口を開いた。



「————」

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異世界を滅ぼした魔王は転生先の現代でダンジョン攻略を楽しむはずだった~最大難易度のダンジョンに見覚えしかない…アッ!これ私が前世で作った奴だ~ 蒼本栗谷@現在更新停止中 @aomoto_kuriya

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