その眼で無限の可能性を見て!

高島よしえん

第1話 福井県鯖江市

淳とは兵庫県の大学で知り合った。

最初の印象はヒョロっとした、背の高い人。

ぽっちゃりで背の低い私はなんとなく羨ましくて目で追っかけていたんだと思う。

たまたま席が近くなって、たまたま目が合ってしまった。

「メガネどこで買ってんの?」

まさか声をかけてもらえるとは思ってなかった私はとても驚いてあせった。

「えっと…城みたいなメガネ屋さん。」

私の地元では有名なメガネ屋さん。確か今は

お笑い芸人の兄弟が2人でCMをやっているはず。淳は知らないようだった。淳は、有名だけど格安で当日にすぐ出来るメガネ店の名前を言い、私にもその店を勧めた。なんだか都会の人なんだなと感じた。

 数ヶ月後、知り合いに誘われて行ったランチ会で、また淳と出会えた。

「あれっ?メガネ変えたん?」

私なんてもう忘れられていると思っていたのに。まさか誰にも気づいてもらえなかったメガネの違いを言い当てられるなんて。その時、私はきっともう好きになっていた。なぜなら一瞬で淳に勧められたメガネ店で購入しなかったことを後悔していたから。

「あ、誕生日にね、買い替えたの。日にちにちなんで。」

不思議そうにメガネを覗いてくる淳に私は説明した。

「10月10日だからね。」

テーブルの上に一〇一〇と横に指で書いてみせた。

「眉毛と目みたいでしょ?」

淳は納得した様子で突然言った。

「もしかして、ひとみ?」

「え?由紀だけど。」

誰かと間違えたのかと思った。ちょっと不安そうになった私に淳は言った。

「いや、目の日に生まれたなら、そんな名前かなって考えて、速攻当てにいっちゃった。勝手に詮索してごめん。俺の名前は椿。苗字だけどね。誕生日は8月7日花の日って言ったら覚えてもらえるのかな?」

笑いながらそう言った淳に好感度があがった。その日をきっかけに私たちはどんどんお互いの距離を縮めていけた。

 一緒に住むことに決めた日のことを私は忘れない。あれはすごく寒い日、天気予報には雪の結晶マークがついていた。チラチラと雪がみえはじめたとき

「雪と…椿ってキレイだよね。」

寒い公園で、降ってるか降っていないかわからないぐらいの雪が舞い降りてくる中で私は島根の家を思い出していた。庭には沢山の雪が積もっていて、こたつに入って外を見ると真っ赤な椿が咲いていた。こんなに寒いのにたくましいなと思ったのを覚えている。

「わかるよ。うちの庭にもあったから。」

ぼんやり頭の中で昔の思い出をめぐらしているとき淳は言った。

「いや、椿由紀ってよくない?って話。俺の地元と見てみてよ。」

あれから色んなことがあった。就職をどうするか、地元に帰るか、大学の仲間たちとどう付き合っていくか、苗字や性のこと…。


私たちは椿の姓を名乗ること、福井県で一緒に住むことを選んだ。


今日は娘の誕生日。

「ハッピバースデートゥユー♪

 ハッピバースデートゥユー♪

 ハッピバースデー♪ディア カエデ〜♪

 ハッピバースデートゥユー♪」

フッーと楓がロウソクの火を吹き消した。

うまくいかなくて何度も何度も吹き消す姿が可愛らしくて私たちは笑い合う。

私は膨らんだお腹に手を当てた。

予定日は3月3日。

ケーキを食べながらテレビを見ていた楓が

言った。

「目が赤ちゃんの日になってる!」

テレビを見るとアニメのキャラクターが

メガネをなくして探していた。目が3と3。

そういえば淳が薦めてくれたメガネ屋さんも

最近は目が3と3の顔をしたポスターが貼られていたっけ。楓にとっては3と3は目と目であり、赤ちゃんの日になるんだね。私たち2人の

間では耳の日って話していたんだけどな。

世間一般では間違いなく雛祭りであろう

3月3日。

思い出の1日になることは間違いない。

食事が終わって楓が言う。

「歯ぁ、みがいてくるぅ〜。」

娘の後姿を見ながら頭の中で考える。

(楓の誕生日はお口の日。いい歯なんだから大事にしようね。誕生日も、歯磨きも。)

しつこいと言われたって毎年毎年、言い聞かせるつもりだ。


10月10日に生まれた私はもしかしたら、ひとみって子と重なって見えたのかも知れない。でも、もしも私が目の日って言わずに「昔の体育の日」って話したら淳とはそんなに仲良くなっていなかったかも知れない。そんなたくさんの偶然が重なって今の私たちがいる。それならそれを楽しんじゃえ。

目の日に生まれた私が鼻の日に生まれた淳と知り合って、いい歯の日に生まれた娘がいる。そして嬉しいことに次の子は耳の日に誕生するはず。これで顔の完成だ。完璧家族。

予定どおりにいくとは思わない。

でも、そろそろ一緒に住み始めて8年。

8は横にすると無限のマークだよ。

無限の愛を誓えるかな?

とりあえず明日一緒に、新しいメガネ選びに行って見ない?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

その眼で無限の可能性を見て! 高島よしえん @zenkai55

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ