第4話

生徒指導室のドアを閉めると、背後に人の気配がした。振り返ると、足立君が立っていた。


「……なんでいるの。今日は土曜日だよ。」


「土曜日でも学校には入れるよ。」


「そうじゃなくて、……まあいっか。」


私は話すのをやめて廊下を進んだ。彼も静かに後ろをついてきた。


「ねえ足立君。」私は歩きながら言った。


「うん。」


「こんな弱さが、私に必要だったの?」


「こんなっていうのは、前々から嫌がらせをしてた先輩の顔に、こらえきれず右ストレートを決めたこと?」


「……。」


私は頭を抱えた。私が手首をついたのも、先輩を殴ったのも、女子更衣室での出来事だ。


「彼女ら、また君に嫌がらせをすると思う?」彼はさらに質問を重ねた。


「しないんじゃない、流石に。」


反撃の可能性があるのにちょっかいをかけるほど、三年生は暇ではないだろうと思った。


「なら、結果的にはその弱さが問題を解決したわけだ。たとえそれが最も原始的かつ幼稚な手段で、全く根本的な解決になってないとしても。」


「それ、褒めてる?」私は立ち止まって聞き返した。


「もちろん。まさか誰にでもできる、なんて思ってないよね?」


彼は横まで来て私の顔を覗き込んだ。


「できてほしい、とも思わないくらいには。」


私としても、もう二度とこんなことをするのはごめんだった。ただ、もしまた同じことが起こったとしたら、私はまた同じことをするだろうとも思った。


「そうだ。足立君の良いところ、教えてあげるよ。おだててやる気にさせるのが上手い。」


「あんまり嬉しくない言い方だなぁ。」そう言いながらも、彼は少し嬉しそうだった。


「え、せっかく褒めたのに。」


「また見つけたら教えてよ。そうだな、あと二つくらいあるといいかも。」


「悪いのなら二つあるんだけど。そういう臆病なところと、常習的に覗きをするところ。早急な改善をおすすめするよ。」


足立君は目を逸らした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

愛及屋烏 藤宮一輝 @Fujimiya_Kazuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ