最終話 アーサーside

 部屋に戻り、高鳴る胸を必死になって静める。


『アーサー様は、幼い頃、どうして騎士になろうと思ったのですか?』


 ついさっき、リリア=ベルナールに言われた言葉を思い出す。


 俺が騎士になったのは、贖罪のためだった。

 俺の近くにいたがために賊に襲われ、命を奪われた人たち。せめてそのかわりに、少しでも多くの人を救わなくてはならない。例え、自分の命を危険に晒したとしても。

 そうすることが、自分の使命だと思っていた。


 だが、それよりもっと昔、初めて騎士になりたいと思ったのは、もっと単純な理由。たくさんの人を守りたい。ただそれだけだった。


 彼女と話していると、そんな昔の、単純で純粋だった頃の思いが、再び呼び起こされてくるようだった。


「どうしてだろうな。さっきの彼女が、一瞬アリサに見えたのは」


 騎士になるという夢を、いつも笑顔で聞いてくれた人を思い出す。

 そんな彼女が、アリサがもし生きていて今の俺を見たら、何と言うだろう。

 おそらく、さっきのベルナールと同じことを言ったのではないか。なぜか、なんとなくそんな気がした。


「こんな気持ちでアリサのことを思い出すのも久しぶりだな。いつもは、思い出す度に謝ってばかりなのに」


 死んだ人間の気持ちを勝手に想像し、勝手に納得した気になるなど、バカバカしい話。

 なのにこんな風に思ってしまうのは、ベルナールとアリサに、どことなく似たものを感じたからだろう。


 特別容姿が似ているわけでもない。アリサは、あんな風に武術になど長けていなかった。

 だが俺が悩んだり落ち込んだりしていると、いつもあんな風に言葉をかけてくれた。


 たったそれだけで、彼女にアリサと似たものを感じたんだ。

 つい、我を忘れて見とれてしまうほどに。


(まあ。こんなこと、口が裂けても言えないがな)


 今思ったことは、絶対に、何があっても言うつもりはない。

 アリサに……ずっと忘れられない、幼い頃の初恋の相手に似ている。そつ思って見とれていたなんて、言えるわけがない!


 それでも、彼女のことを思うたび、せっかく静めたはずの胸の高鳴りが、再び大きくなっていくのだった。






 ※今回の話で第一部が終わり、一旦完結とさせていただきます。

 物語はまだまだ続くといった感じですが、本作は『その溺愛、過剰です!?』コンテストに出すために書いたもので、これ以上続けるとコンテストの規定文字数をオーバーしそうなのです。

 というわけで、ここで一区切りさせていただきます。


 できることならコンテストで良い結果を出し、大喜びで続きを書くなんてことになってほしいです。

 ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました!

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舞踏会の野獣と呼ばれた私の縁談相手は、前世メイドだった頃にお世話していた子でした 〜縁談そっちのけで騎士になるのを目指します〜 無月兄 @tukuyomimutuki

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