9歩目

もう一度ログインして、店の前でアヤメを待つこと数十分、どうやら店の中から出てきたようだ。


「いい写真撮れた?送ってよ。」


茶化すように言ったのだが、蛇に睨まれた蛙のようにうんともすんとも言わなくなった。


目が丸くなってポンコツ化したと言っていい。声を出そうとして口をパクパクさせている。だんだんと顔が赤くなってまるで金魚みたいだ。


「楽しくなったのも悪いけどさっ、なんでこんなところに連れてきたの?もちろんクエスト関連っで色々見て回るのは分かるよっでもここは関係ないんじゃないかな。」


何とか話題転換を見つけたようなしたり顔。だが全くといっていいほど形勢逆転には程遠い。話題のイニシアチブは俺が持っている。


「面白かったろ?長い時間かけたんだ。さぞお楽しみだったんだろう。礼に1枚くらい見せてもらってもいいじゃないか?」


なんて言えばアヤメの顔はさらに固まった。


虚ろな目のまま、写真をスクロールする指の動き、時間をかけて吟味するあたり結構撮ってますね貴方。


「別に1枚だけじゃなくてもいいんですよ、Best集でもいいんですよ。」


「うっいや別に迷ってる訳じゃなくて、コンナノミセラレナイというか、そもそも写真を送ったら何に使うつもりなのかなっ……ちょっと、いやかなり恥ずかしいというか、友人の女装姿を見たい感じでカイトのことを変態かなって思わざるを……」


「まぁ減るもんじゃないだろう、それに今は女の子なんだろ?女装でもなんでもないじゃないか。」


「減るものは減るの!こう、精神的なものだけど、ギリギリと減っていく感じするっ!だから絶対に見せないからなっ絶対の絶対!……待たせたのは悪いと思うけど。」


「じゃあ見せてくれよココロノトモよ。」


「なんか変。友達だったらそんな言い方絶対しない。……うっそんな顔してもあげないからっ……ってここから移動しないつもりかっ!?」


頑なにぷりぷりと怒ったように、どことなく気恥ずかしさを隠すように、ジト目をこちらによこしているアヤメ。男からされるのは嫌だが、女性からされるのはいい気分である。


うーん、と言いながらスクロールしているアヤメ。


ピロッ


25XX/3/13/14:06

「写真添付」


自分の新しい性癖を開けそうになっているが気を取り直して保存しておこう。


丸い形でころんとした可愛らしい、白色で統一されたラウンドブーケを両手で持ち、漆黒の背景と純白のスタンドネック×総レースのスレンダーラインドレスがモノトーンで収まっている1枚。


1枚だけだが自撮りは自撮り。それも満面の笑みで見惚れそうになる。ハーフアップの髪型とその顔全体を覆うベールダウンは神秘性を秘めてるかのような姿だ。


言われた通りウェディングドレスを着たのだ。可愛らしいヤツめ。


見上げるとアヤメがワタワタしていた。


「いやっ、そのっ、お気に入りに移動しようとしたら間違っ……消す!」


25XX/3/13/14:06

削除済み


なんかもったいない気がした。


まだワタワタとしている。今度はスクロールしては慎重にボタンを押す作業をし始めているアヤメ。なんだかまだまだ時間がかかりそうだと思った。


待っている間に次の目的地、六月街「蛍狩」について調べたことをまとめていた。


この五月雨街がずっと雨の街だと言うなら、六月街はずっと夜の街。


しかし地面からはキラキラと光が溢れているらしい。らしいというのは他の表現が難しいからだ。歩くと、その足裏に反応して地面が光る。だから光が溢れているらしい。


ずっと暗い街だから人が居るか判別するための措置だと思われる。


そして空中を蛍のような光が明滅するから立ち止まって眺める人もいる。実際に石川県の音楽フェスに行った際に姫路城内の公園で蛍を初めて見た時は、どうにか動画に撮れないか試していた。


でも写真に撮れない明るさで撮れなかったんだよな。たぶんこの街を撮る際にも同じ現象が起こるんじゃないかなんて思うけど、それだと映えないか。ホタルの発光リベンジと行きたいな。


……まだこの五月雨街について、謎が解けきっていない状態で別の街に行くのは、なんだかもったいない気がするが、今すぐ解けるものでも無い気がする。


そうしてゆったり雨傘をさしていると、ポツポツと降っていた雨が止んできた。そろそろ別のマップとしての六月街に移るのだろう。


「やっと写真の中身を整理出来たよ。こういう場所って他にもあるのかな?」


「屋内だったが、屋外で撮影出来る場所もあるみたいだぞ。非公式TGOフォトdizcordもあるみたいだし、URL送っとくよ。」


言いながらデバイス操作でURLを送っていく。ゲーム内でURLを送れることから、ゲーム内の座標をURLで送れることを試した人がいるらしい。もちろんMAP上で座標が示されるだけだが……こんな話がある。


なんでも、どんな願いも叶うドクロ状の石があるらしい。それなんてドクロストーンだよって話なんだが。それで5つぐらいに割れてて、集めてくっつければ願いが叶うだとか眉唾物の話も流れている。おおよそこんなにグラフィックの良いゲームだから不可能がないってことで噂されているのではなかろうか。


……だが火のないところに煙は立たない。


だから俺も非公式TGO七不思議dizcordのURLを持っていて、ここはなんとゲーム内からURLに繋ぐと、dizcord内の世界に移動する。この現象について誰も話はしないが、七不思議dizcord内のその1の怪談として噂されている。製作者不明の電脳空間と。


それで現相方のアヤメに発生していることも七不思議の一環なのではないかと、少しだけ疑っている。


「なんでこっち見てるの?ジロジロしててなんか気恥ずかしいし。……水着とかは期待しないでね。あまりいいものを持ってはいないので……」


そう言って自分の胸元に手をやるアヤメ。俺からしたら、有るように思うのだが。これで水着とパーカーの合わせてきたら癖に合うんだけどな。


慰めの言葉は思いつかなかった。


「手繋がね?」


なんとなくそう言った。他意は無い。何も考えてはいないが、なんとなくだ。そうするのがいいと思った。


突然の申し出だったが、アヤメは手を伸ばして来て、指を絡めることはなかったが、しっかりと手を繋いだ。


そして、別の街に繋がる門をくぐり抜けた。

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友人の魂は女の子!? @YodomiADI

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