第65話 入学式と余興

 ――翌日、入学式当日。


 王立アカデミーが誇る大闘技場。

 その広大な空間には、100名を超える合格者たちが集まっていた。

 緊張と期待が入り混じる空気が場内を支配している。


(さて……)


 ふと、俺は周囲を見渡した。


 新入生たちの表情は様々だ。

 緊張で顔を引きつらせている者、期待に目を輝かせている者、そして不安そうに周りを窺っている者。

 みな、これからの学園生活に思いを巡らせているのだろう。


 続けて客席に目をやると、従者や一部の保護者たち、そして新入生に興味を持ってやって来たであろう上級生の姿が見えた。

 彼らは余裕そうな表情で、俺たち新入生を品定めするように眺めている。


「ゼロス~! こっちよ~!」


「この声は……」


 突如として響く声に、俺は反射的に振り向く。

 するとそこには、レーナとシュナが隣同士で座っている姿があった。


 レーナは両手を大きく振りながら、まるで子供のように嬉しそうに俺の名前を呼んでいる。

 その姿は周囲の厳かな雰囲気とは不釣り合いで、明らかに注目を浴びていた。

 一方のシュナは、レーナの大胆な行動に戸惑いつつも、俺に向かって小さく手を振っていた。周囲の視線を意識してか、頬を少し赤らめている。


(相変わらずだな、レーナ姉さんは……)


 そんな感想を抱いている直後だった。


「そこにいたか、ゼロス・シルフィード」


 続けて、俺を呼ぶ声が響く

 振り返ると、そこには灰髪の青年――ノエル・ファナティスが立っていた。

 彼の赤い瞳には、昨日と変わらぬ挑戦の色が宿っている。


「よく逃げずにやって来たな」


 ノエルはそう言って、まるで昨日の一件を忘れたかのように振る舞っている。

 その態度に、俺は思わず眉をひそめた。


(いや、入学式だから来るのは当たり前だし、そもそも昨日は自分から立ち去ったんだろうが……)


 内心でツッコミを入れつつ、俺は彼を無視することにした。

 今は面倒ごとを避けたい。


「む、何か言ったらどうなんだ?」


 ノエルが不満げに言ったが、俺はそれにも応じず、再び視線を前方に戻す。



 ――――その直後だった。



 カツン、カツンと、かすかな足音が聞こえてきた。

 その音に導かれるように、会場全体が一斉に壇上へと注目する。


 そして壇上の奥から、一人の少女が姿を現した。

 背丈は少し低め。輝く銀色の長髪が、まるで月光のように風にたなびいている。

 容姿としては可愛らしい童顔で、一見するとただの子供にしか見えないが、その蒼色の瞳には底知れぬ深さがある。

 そして何より、人としては少し長い耳が一番の特徴だった。


 俺は、彼女のことをよく知っていた。


 名を、ノア・ホワイトムーン。

 150年前に突如として表舞台に現れ、王立アカデミーを設立したエルフ。

 経歴もさることながら、実力も圧倒的であるとして有名だった。


 会場内にざわめきが広がる。



「な、なあ、あの子どもは誰だ? いきなり来て壇上に載ってるけど……」


「バカ、アカデミーを受けてるくせに何で知らないんだよ」


「あの方が学園長だ。偉大な存在なんだぞ」



 平民と思わしき新入生の中にはノアのことを知らない者もいるみたいだが、そのほとんどが尊敬と畏怖の念を抱いていた。

 そんな中、俺は冷静に彼女を観察し続ける。

 魔法使い然とした格好に身を包み、左手は純白の手袋で覆われている。

 小さな体にもかかわらず纏うオーラは圧倒的で、他の誰とも比べ物にならない。

 

 そんなノアが壇上の中央に立つと、会場全体が水を打ったように静まり返った。


「初めまして、皆さん。わたしはノア・ホワイトムーン。ここ王立アカデミーの学園長です。それではさっそくですが、入学式を行いましょう」


 透明感がありながらも力強い彼女の声を聞き、場が一瞬にして引き締まる。

 そんな新入生たちを見てクスリと笑った後、ノアは続けた。


「本日、この王立アカデミーの門をくぐった皆さんに、心からの祝福と歓迎を申し上げます。皆さんは厳しい試験を乗り越え、ここに立っています。そのことをまずは誇りに思ってください。王立アカデミーは、確かな才能と実力を持つ者だけが入学を許される場所。皆さんは既に、素晴らしい一歩を踏み出したのです」


 言葉の一つ一つに不思議な重みがあった。

 まるで、ノアの言葉そのものに魔力が宿っているかのようだ。

 その証拠に、彼女の発言を聞いた新入生たちの表情が、自身と希望に満ち溢れたものへ変わっていく。


 ノアは続ける。


「今年はさらに特別と言っていいでしょう。次期剣聖と名高い剣士に、奇跡の聖女――そして、あくまで試験の段階においてですが、が入学してくれたのですから」


 ノアがそう告げた瞬間、周囲が一気にざわめき始める。

 彼女は小さく笑うと、続けて驚くべき言葉を口にした。



「彼らの実力は新入生はもちろん、在校生の皆様も気になることでしょう。そこで今年は特別にあるイベントをご用意しました。余興として、剣の試験においてトップ成績を残した両名――ゼロス・シルフィードとノエル・ファナティスの模擬戦を行わせていただきます」



 ………………



「ん?」



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大変面白い出来になっていますので、ぜひご一読ください!

一つの作品の人気が出れば、本作含めて他作品の執筆モチベーションにも繋がりますので、何卒よろしくお願いいたしします!!!

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2024年10月5日 18:03 毎日 18:03

ゲーム世界の1000年後に転生した俺は、最強ギフト【無の紋章】と原作知識で無双する 八又ナガト @yamatanagato

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