第2話 ろくな飯といい人
レーチェルさんからの言葉を受けて、愛は現実世界で動き出す事に―――。
まずは夫の現状を証拠として残すため、ボイスレコーダーや金銭面の洗い出しを始める。そんなある日、愛はある作戦に出る。ボイスレコーダーを準備しいつも通り夫にこう話しかけた。
「あの…子供たちに習い事させたり、家族で旅行に行ったりしたいから私も働こうと思うの。中学生まではと言ってたけど、幼稚園行ってる間の時間を使えば……」
愛がまだ話している最中に夫が嘲笑いながら割って入り怒鳴り散らす
「子供たちに習い事?何かやりたいって言ったのか?それに旅行に行きたい?時間があるから働きたいだ?俺が働いてないみたいな事言ってんじゃねぇよ!ろくな飯も作れないで!養ってやってんだからありがとうございます、だろーがよ!」
愛は怖くて黙り込んでしまった…。
そんな愛を横目に夫は続ける
「ふん、お前なんかより俺の方がよっぽどちゃんと家事出来るわ、お前、もう飯作んなくていいから、わかったな?」
「……はい」
涙すら出なかった、愛は震える自分を力いっぱい我慢して、夫が自室へ寝に入るのを待ち、夫が食べた物の後片付けをし、明日の準備を終えて子供部屋へ。レースカーテンの向こう側から優しく輝らす月明かりを浴びながら、愛は子供たちの寝るベッドの片隅で小さくなって声を殺し、肩を震わせ、服の袖がびしょびょになるまで濡らした。
翌朝、宣言通り夫は台所に…立っていなかった。
朝は食べない派な上に、仕事ギリギリまでは寝ているのが日常。勝手に起きてくるのでまだマシな方だと愛は考えている。
いつも通り、子供たちに朝ごはんを作って食べさせ、着替えと持ち物を準備し、朝の片付けを終わらせ、2人を乗せて園へ送って行く。
「愛さんおはよう!」
「おはようございます。」
「昨日、駅で旦那さんに会ったわよ!ほんと、絵に書いたような素敵な方よね!改札で戸惑ってる御年寄の方がおられてね、みんな見て見ぬフリなのに、旦那さんは自分から声掛けに行って助けてたのよ!凄いわぁ」
「そうだったんですか」
そう、愛の夫は近所でも評判の “いい人” そのため誰も愛の話を信じてくれず、また、愛は結婚を機に引っ越しているため、周りに知り合いがいないので、気軽に相談できる相手もいかなった。
そんなある日、長男の紅葉(くれは)の登園拒否が始まった。園長先生は、年少さんには良くあることだと言って、しばらく様子を見る事に…だが、これが夫をさらに怒らせる原因となる。
最後の恋を諦めない 月輝巴夜 @matchaIsu
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