最後の恋を諦めない

月輝巴夜

第1話 はじまりは…

 朝、目が覚めていつも通りの生活が始まる。けど、ここはもう壊れた環境で、無気力のまま日々が過ぎていく…。

 彼女の名は、愛。8年前にできちゃった婚で同級生の夫と結婚し、今は2児の母。2年前、夫に借金がある事がわかり、その後も浪費を続ける日々…さらに、愛に対し高圧的な態度を取り、気に入らない事があると、子供たちの前でも叱咤されることが増えた。そんな日々の中、愛の唯一の心の拠り所は、子供たちが寝た後にする、オンラインゲーム世にいう“ネトゲ”というもの。


 愛が、ネトゲを始めたのは学生の頃、友人の誘いがきっかけで始め、魅力にどんどんハマって行った。ゲームの世界でありながら、キャラクターの向こう側には、現実世界で生きる人々がいる。ゲームを楽しむだけでなく、チャットでたわいもない話をしたり、時には相談をしたり、乗ったりと、魅力溢れる世界にのめり込んでいた。

 子供が生まれ、日々の生活に追われている間は、ネトゲからは離れていた。夫の事があり、日々耐えて過ごす中で子供に笑顔を向けるために息抜きとして、寝る時間を減らして、ネトゲを再開。久しぶりにログインすると、風景は昔のままだけど、街や人、アイコンなど変わっているところだらけで、とても驚いた。フレンドリストは、オフラインばかりで数名しかいない。そんな少し寂しい再スタートだった。


 ネトゲの世界で、息抜きをするようになって1年が経とうとした頃、たまたま街中で懐かしい出会いをする。これが後に、愛の人生を大きく変える運命の人となるとは、この時知る由もなかった。


 愛が操作する自作のキャラクターは、人間の女性、黒い瞳が可愛らしく、大人びた顔つきに、細身の体型、現実年齢だと17~18歳くらい。キャラクター名は【aIsu(アイス)】。ネトゲのジャンルはMMORPGだ。

 ネトゲを再開してから、たまたま近くにいた人(キャラ)から声をかけられたり、ユーザー主催のゲーム内イベントに参加したりとフレンドもだんだんと増え、ギルド(チームの様なもの)にも入った為、また昔のように人と会話したり、遊んだりする日々が戻ってきていた。

 ゲーム内で、時折夫の事を相談するようになった。フレンドからは、離婚した方がいいと何度も言われたが、子供たちがいる為踏み込めなかった…。また、愛は夫の支持で、子供が中学生になるまでは、働いてはいけない。と決められていたため、8年のブランクから仕事する事に自信が持てなかった。


 そんなある日、ギルドメンバーの1人【みぃーむ】さんという人が、相談を受けていた事もあり、こんな提案をしてきた。

「よかったら、うちの事務所の手伝いをしてくれないかしら?もちろん、子供さんも一緒に来てもらってOKよ♪」

 みぃーむさんは、愛の住む隣の市にいる事がわかっていた。相談を受け、なにか出来ないかとずっと考えていたのだと言う。そして、もう一つ提案を受けた。

「それと、私は家の事が苦手なのよね…料理は得意だけど☆よかったら、シェアハウスにして住み込みって形で手伝うのはどうかしら?」

 愛は、驚きと戸惑いを隠せなかった…。

 その話を聞いていた、ギルドマスターの【チェリーレ】さんがポツリとつぶやく…

「俺たちは聞く事しか出来ない、決断して行動するのは、あいちゃんなんだ、前に進むなら俺もギルドメンバーもきっと、助けるよ。ママが笑顔じゃないとあいちゃんJrたちも心から笑えないんじゃないと思うから」

 チェリーレさんの言葉に、ハッとした愛。そばで眠る子供たちの顔を、優しくそっと撫でると2人とも嬉しそうにニコッと笑う。

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