5話【1】:ナト町を奪還せよ!
気を失うように寝ていたからか、一度目が覚めると再度眠りに付くことは難しかった。そのため、読書でもして睡魔を待つことにしていれば、同じように目が覚めたのか外で風に当たっていたらしいレイが部屋に戻ってきた。
「おや、ゴウも目が覚めたのかな?」
「ん、まぁな」
「体は?」
「思ったよりは痛くないけど……風呂には入れないな」
そう言うと、レイは少し困った表情をする。
俺が言外に含めた「今日は無理」という意思を感じたのだろう。多分、今は俺をどう説得するかで迷っている。だが、ここは譲れない。世界のために――というよりはレイのためにかもしれないが――肌触れ合う云々は、大分受け入れられるようになった。レイが好みの顔もあって、寝るだけなら正直慣れた。が、それは衛生面が確保されているという前提である。流石に傷だらけの状態で風呂に入る勇気はない。風呂に入っていない状態であれば尚更だ。
ただ、レイの気持ちは分かる。
都合良く倒すことができたとはいえ、ミウィちゃんが配置していった魔物は強かったはずだ。聞いた話では、ナト町は一部の場所を除いて魔族に占拠されているという。自警団やカテドラルから派遣されている騎士たちの活躍によって辛うじて壊滅は免れているが、それも時間の問題のようだ。そうなれば、次はカテドラルが標的になる。女神様のいるカテドラルが壊滅状態になれば人間族の負け――つまり、人は滅んでしまう。だが、カテドラルに人が集中しすぎるのも良くはない。治安が悪くなり、争いが増え、行きつく先が同じになる可能性もあるからだ。だからこそ、ナト町から魔族を追い出し、聖玉を設置し、町の安寧を取り戻さなければならない。
そのためには、俺の力が必要になる……かは正直微妙なところではある。今の段階ではレイが自身で言うほど弱くは見えないからだ。ただ、レイのことはレイ自身の方がよく分かっている。彼が不安になるということは、ナト町に集結している魔族は想像より多いのかもしれない。もしくは強敵ばかりが集っているか、だろう。つまり、保険はあるに越したことはないということだ。
「無理をさせたいわけではないんだけど……状況を考えるとね?」
「いや、分かる。分かるんだよ、言いたいことは。必要な時にキスじゃダメなのか」
「ゴウも大分抵抗なくなってきたね?」
「まぁ、慣れてはきた。……それで? それじゃダメなのかよ?」
じっとレイを見つめると、彼は悩ましそうな表情をする。絶賛葛藤中と言ったところだろうか。
効果の持続期間を考えると、多分寝たいんだろうとは思う。冷静に考えると、力が増幅されている状態のレイをあっさり吹っ飛ばしたミウィちゃんはかなりの強敵のはずだ。敵が彼女だけであれば正直キスだけでもなんとかなるだろう。こちらは持続時間こそ短いが効果は高めである。しかし、敵の数を考慮すると、効果を掛け合わせたい――というのがレイの考えだろう。
「……俺は、気にしないよ?」
やや長めの思案を終え、レイは引き攣った顔で言葉を発した。
「嘘吐くんじゃねぇよ! あと、俺が気にするって言ってんだよ!」
「でもね、状況を考えるとそうも言ってられないじゃない? 俺は一応勇者だしさ」
やはり引き下がってきた。
レイは普段はあれこれ言っているが、勇者という肩書がある以上は、与えられた役割をしっかりとこなすつもりらしい。自分のこれまでの扱いを思えば、多少は見過ごしてもいいのでという方向に思考が流れてもいいはず。だが、彼は救える命は救いたいようだ。なんとも器の大きい男である。
「ゴウの協力が必要なんだよ。もう分かるだろう?」
駄々をこねる子どもを諭すかのような声音と、下がった眉尻に、意思が揺らぐ。もう分かっている。俺はこいつの顔に弱い。自分の面倒な性質をクリティカルに貫いてくる。これで、こいつがとっくに俺の良くない性質を理解した上でやっているのだとしたら……恐ろしいものである。
「風呂。風呂の用意してくれるなら考える」
「ふふ、分かったよ。すぐに準備してくるね。……ありがとう」
ふっと笑う姿に、覚悟を決めざるを得ない。
前言撤回だ。自覚があってもなくても、レイは恐ろしい男である。
***
激痛に耐えながら入った風呂は想像よりも重労働だったようで、レイと共にベッドに入ればあっという間に眠りについていた。次に目が覚めた頃には、すでにうっすらと陽が昇り始めていた。俺よりも早く起床していたレイによって作られた朝食を頬張りながら、出発の準備をする。昼までにはナト町に辿り着かなければならない。
「レイ、今後の予定は?」
「まずはナト町に昼までに辿り着くこと、だけど……おばさんは多分結界が破られたことは気付いているはずだよ。だから、間違いなく妨害が入ってくるだろうね」
同じように支度をしながら、レイが答える。
ミウィちゃんの狡猾さを考えると、夜まで時間を稼ぐような策を取ってくるだろうとのこと。夜になれば、敵の勢いは増すだけである。そのタイムリミットまでにいかに魔族から土地を取り戻し、聖玉を設置することができるかが大切になってくるという。
「まぁ、ナト町の人たちが俺の言葉を聞いてくれるかが正直一番の問題なんだけどね。あはは」
「あははじゃねぇだろ、それ……」
カテドラルからそう距離もない町であるため、当然レイの噂を知っている。そして、レイが勇者としてカテドラルを旅立ったことは既にナト町に伝わっているはずだ。この世界には魔道具の通信機があるのだから。まさかそれが悪い方に作用する可能性があるとは思いもしなかったが。
「まぁ、でも大丈夫じゃないかな。ゴウがいるし」
「どういう意味だよ……」
「ほら、ゴウって運が良いからさ」
レイの言葉に、思わず「はぁ?」という刺々しい声が出る。昨日の惨状をもう忘れたのだろうか、こいつは。確かに、笛で結界の守護者のようなものを呼び寄せるという幸運な状況はあった。だが、その反動か、四体同時に呼び寄せるという最悪な事態が起きた。この件は俺とレイだけだったから被害は少なくて済んだものの、もしもを考えると俺の運に頼るのは不安がある。
「俺、ワルドアナザァに来るまではそんなに運の良いほうでもなかったんだぞ。むしろ、悪かった自覚がある。……急にこんなに幸運続きだなんて、絶対何かあるだろ。変な力が働いているとしか思えないんだけど」
「でも、昨日のことを考えると、結果的には幸運だったと言えるようなことが起きるんじゃないかなって思うんだけどな」
「えぇ……?」
そうこう言いながら小屋を後にする。
道中の話題は、俺の運の良し悪しになりそうだ。
昨日よりややすっきりとした森に差し込む光が気持ち良い。そよそよと吹く風は心を穏やかにしてくれる。もっとも、それも外に出た一瞬だけであったが。
「だからね、俺はゴウの運を信じてみたいんだ」
「なにが、だからね、だよ。そもそも、俺の運が良いっていうにはそう思えるだけの出来事が少なすぎるだろ」
「なら、バオムの森を抜けるまでにどれだけ獣や魔族と遭遇するかで決めようよ」
「勇者様さ、話聞いてました?」
マジでこいつ……!
絶対理解した上で言っているのだろうというのが分かるのが、余計に腹立たしいポイントだ。案の定「聞いてるよ?」と、俺が駄々をこねているかのような雰囲気を醸し出しながら言うものだから、思わず拳に力が入ってしまう。
「ゴウは知らないだろうけど、バオムの森の生態って気持ち悪くてね。元来生息している獣と、自然発生した魔物と、連れてこられた魔物とが勝手に交配しているんだよね。要は、生態系が乱れているんだけど、それだけじゃなくて単純に数も多いんだ。だから、何にも遭遇せずに森を抜けることはまず不可能なんだよね。でも、最初の晩も今も、あまり遭遇していない」
「いや、待てよ。最初の晩は強そうなヤツと遭っただろ!」
「むしろ、それだけで済んでるんだよ。普通はあれに遭うまでにもっと消耗してるんだからね?」
俺が知り得ない情報があるからこその判断だと、レイは言う。
だが、それを言うのであれば俺しか知り得ない俺の運の悪さだってある。現代のことを上手く伝えられるかが問題だが、補足は質問が飛んできたからでも良いだろう。とにかく、これまでの不運エピソードを話さなければ。俺には分かる。都合の良い展開と都合の悪い展開はセットになっていると。そして、後者は前者の結果が良いものであればあるほど悪くなっていくだろうとも。もし仮に、都合の良いことだけが起きたとしても、だ。いつかは反動がくるに違いないのだから。
「そうは言うけどな。あまりにも楽観的過ぎるだろ。さっきも言ったけど根拠にかけるというか……」
「運に根拠なんてないと思うよ、俺は」
「それは……そうかも……? ……いやでもそれなら逆に俺が運が悪いって言うならそうなるだろ。運の良し悪しなんて主観的なもんだし」
前置きは十分だろう。
俺はレイに自身の不運エピソードを語り始めた。それは例えば、初めてのバイト先が勤めて一ヶ月で火事になったとか、初めてできた彼女が実は三股していて本命ですらなかっただとか、そういう印象の強いものから話していく。火事の件はそういうこともあるだろうというような反応だったが、恋愛の話は引っ掛かるところがあったらしい。「ロニアといい女性の趣味が悪いねぇ」と、憐憫の瞳で見つめられてしまった。ロニアさんを同列に語らないで欲しい。彼女には可愛らしい一面がたくさんあるのだから。
その後もタンスの角に小指をぶつけたら骨折しただとか、鳥のフンが買ったばかりの帽子に落ちたことが三回あるだとか、そういう小さな不運話をして、いかにこれまでの俺の運が悪かったのかを話した。だから、今がいかに運良く思えても過信するのはよろしくないのだと熱弁していれば、レイが突然前を指してみせた。
「なんだよ」
「ナト町に着いたよ?」
「はっ!? 一回も魔物に遭遇しないうちに!?」
レイの楽観的予想の通り、一度も魔物に遭遇することなくナト町が視認できる場所まで辿り着いてしまった。「俺の言う通りだったね?」と、何故か誇らしげに言うレイに俺は何も言い返すことができない。ここまで連続していると、もう自身の運ではなく超常的な――それこそ女神様の力が働いているとしか考えられなかった。
「女神様の加護……?」
「まぁ、サンクチュア大陸内ならその可能性もあるよね。……ナトを奪還して次の大陸に移ってからが楽しみだね?」
「……くそ、この大陸にいる間はお前の意見を呑んでやるよ……!」
反論ができなくなってきたので、一先ずはレイの言い分を受け入れることにした。確かに、都合の良い展開自体は起こっているのだ。俺自身だってそれを期待して行動している部分もある。ナト町奪還でもそれ込みで行動しなければならない場面もあるかもしれない。
「どうせ都合良くなるなら平和的解決ができればいいんだけどな」
「あはは、確かにね。……でも、流石にそこまではなさそうだよ。気を引き締めていこう」
レイが剣を抜いたことを見て、俺も弓を手にする。
「おばさんが何を仕掛けてくるかまでは分からないから、油断せずに行こう」と、レイが先頭に立って町まで歩き出す。
「……おっと、怖いなぁ!」
「……っ、あぶなっ!?」
その瞬間に、魔術と思われるものが俺たちを横切っていく。「あら、避けられたわ」と、やや低めの声が聞こえてくる。その方向に視線を向ければ、レイよりもやや高めの――目測であれば190センチメートルくらいはありそうな男性の姿があった。口元は鉄の扇で隠されているが、金色の瞳からは敵意のようなものが伝わってくる。
「君は……見たことない顔だね?」
「アンタが噂の勇者サマ? 見かけだけなら弱そうには見えないわね」
「あはは、よく言われるよ。……それで? こちらに攻撃してきたってことは、魔側かな?」
一気に空気がヒリついたものになる。
先に攻撃を仕掛けたのはレイだった。距離を詰めると、鉄扇目掛けて剣を振り下ろす。男性は後ろに飛んで回避すると、すぐに詠唱を始めて魔術を放ってくる。
「ミウィとの契約でね、アンタには死んでもらうわよ」
「本当厄介なおばさんだなぁ」
「乙女におばさんだなんて……信じられない男ね」
俺は蚊帳の外のようだ。
女性的な雰囲気を併せ持つ男性は、俺に攻撃してくる様子はない。最初のはただの威嚇だったようだ。ただひたすらにレイだけを狙っている。だが、彼は魔術を得意としているらしく、近接戦を強いられるレイ相手にやや苦戦しているように見えた。
「紅蓮の刃よ、敵を貫け――フレイムランサー!」
「っと、危ないな! ……技名言うのってかっこいいよね。俺も真似しようかな」
「お前、この状況で何言ってんの!?」
「随分と余裕ね。もう一撃お見舞いしてやるわ!」
徐々にヒートアップしていく戦闘に、しかし交じることはできそうにない。加わったところで、戦力になるわけでもない。人に対して矢を放つ勇気もないので、少しの思案の後、戦う二人を放置して一足先に町に入ることにした。
「えっ、ちょっとゴウ!?」
「俺先に行ってるな~」
「ちょっと君邪魔なんだけど!?」
「アンタは町に入れるわけにはいかないのよね!」
「頑張ってな~!」
レイにひらひらと手を振って見せれば、後ろのほうから「ゴウ~!」と叫ぶ声が聞こえてくる。だが、ここにいても出来ることなどないのだ。町に入って情報収集する方が余程有意義な時間を過ごせるだろう。紫髪の男性は俺を追ってくる気配はない。ただひたすらにレイに対してだけ攻撃をしているようだ。とはいえ、今のレイならまず負けることはないだろう。
そう考えて、ナト町とバオムの森の境界を示している木製のアーチの元まで歩いて行く。木製のアーチには聖玉を埋め込む部分があるが、三つある聖玉のうち二つは既に欠けていて、本来であれば輝いているはずの玉はうすぼんやりと光っているだけだった。もうほとんど機能していないのだろう。俺がアーチをくぐれば、ぼろぼろの聖玉は二つともピキッと音を立てて完全に割れてしまった。残りの一つだけでは簡単に魔族が侵入できるようになってしまう。マジックバッグの中から預かった聖玉を取り出し、新しいものをアーチの窪みに埋め込む。すると。
――ギャアアアアア!!!
――グォオオオオオオ!!!
町中から獣のような悲鳴がたくさん聞こえてくる。
聖玉をアーチにはめたことで結界が強固になったのかもしれない。その結果、結界の範囲内にいる魔族たちが影響を受けているのだろう。
「あ~、もしかして余計なこと、したか……?」
ざわめきに耳を澄ませば、悲鳴だけではなく困惑なども聞こえてくる。恐らく後者は町の人々の者だろう。「よく分からないが今がチャンスだ!」とか「負傷者は教会まで避難しろ!」だとか、様々な叫び声も聞こえている。
「お前も急いで避難しろ!」
「えっ、俺? ……うわっ!?」
様子を確認していれば、自警団や騎士たちがこちらの方へと走ってくるのが見えた。その内の一人は俺に気付くと、勢いよく俺の手を引いてどこかへと引っ張っていく。力強いそれに引き摺られるがままに足を動かす。ちらちらと周囲を見てみると、こちら側の入り口の方は戦闘による被害が少ないことが分かる。建物は損傷してはいるが、多くの建物は雨風が凌げないほど崩壊しているものはそう多くはなさそうだ。欠けていても聖玉は機能していたのだろう。ミウィちゃんのような強力な魔族以外は積極的に近寄ろうとはしない程度には。
そして、連れていかれた先――教会にも聖玉を抱えた女神様の像があったことから、町の入り口から教会にかけては結界が機能していたことも分かる。だからこそ被害が少ないのだろう。だが、ナト町について聞いた話と照らし合わせると、安全圏はここの一帯だけということになる。
その証拠になるかように、教会の内部には通路を除いた場所を埋めるかのように負傷者が所狭しと並べられていた。体を動かせないほどの重傷者が多いように見えるが、ベッドが足りていないのか、床に寝かされている人が多いようだ。壁にもたれ掛かっている人も少なくはないようで、想像よりも厳しい状況であることは瞭然だった。
「おい、健康なヤツは手伝え」
教会内部の様子を観察していると、女性にしてはやや低い声のシスターに声を掛けられる。邪魔だと言わんばかりに吊り上がった薄い青色の瞳がこちらを見つめていた。男性のようにも見える容姿のシスターはこちらの返事を待つことなく、救急箱のようなものを手渡してくる。そして、比較的軽症者がもたれ掛かっている壁を指すと、重傷者の元へと歩いて行った。レイが町に入るまではやることも特になさそうだ。治療の手伝いをしながら話を聞けそうなら話を聞いてみてもいいかもしれない。
(しかし、まぁ……この短時間で似たようなヤツに二人も会うとは……)
女性的な男性と性別不詳のシスターと。
こんな短期間で出会うものなのだろうか。案外この世界は魔族以外には優しい世界なのかもしれない。そうであるなら、瞳の色くらいで色々言わないで欲しいものだが。
(いや、レイの場合は性格もあるのか?)
正直ないとは言えない。
とはいえ、今ここで考えても仕方がないだろう。シスターに渡された救急箱を手に、壁際へと向かう。俺は比較的軽症に見えて事情を知っていそうな男性の元へと歩み寄る。がっしりとした体型の壮年男性に近付けば、彼は閉じていた瞳を開いた。
「てめぇ、見ねぇ顔だな」
ジッと見つめられ、威圧感にたじろぎつつも、今日この町に来たばかりであることを告げる。その流れで応急手当をしてもいいかを尋ねれば、「頼む」と短く返ってきた。許可を得られたので、まずは傷の程度を確認することにした。
よくよく観察してみると、何故彼が横にならずに済んでいるのか分からないくらいダメージを負っていることが分かる。体のあちこちには切り傷や火傷凍傷など、武器や魔法による様々な傷がある。腕もだらりと脱力しており、素人目に見ても骨折しているのではないかと判断できる。だが、骨折に関しては医師に任せた方がいい気もする。とりあえず、回復薬などで対応できるものから取り掛かることにした。
「てめぇはどっから来たんだ」
服を脱いでもらえば、見えている範囲よりもずっと負傷箇所が多い。回復薬を塗布していると、壮年の男性から声を掛けられる。それに「カテドラルから」と答えると、男性は僅かに瞬きをして俺の顔を観察し始めた。そして、俺の瞳を見つめると何かに納得したかのように首を縦に動かした。
「なるほど、てめぇが噂の……。勇者はどうした?」
「まだ町の外で戦闘中じゃないですかね……」
「チッ、やっぱバオムの方まで抜けてんのか。……あのぼんこつ一人で対応できんのか?」
「多分問題ないかと……」
言いながらも不安になってくる。
大して時間は経ってはないものの、レイが町に来る気配はまだない。今のレイであれば負けはしないだろうが、もしもを考えるとある程度手伝いをしたら様子を見に戻った方がいいのかもしれない。
「……ってか、レイのこと知ってるんですね?」
「あいつは定期的にナトに来てるからな。聖剣の縛りのせいで力を発揮できねぇしな」
「聖剣の……縛り……?」
「あのぽんこつから聞いてねぇのか?」
俺の反応に、男性は「しまったな」とでもいうような表情になる。聖剣にまつわる情報を俺が知っている前提で口にしてしまったのだろう。まさか知らないとは思わなかったなと、苦い顔をしていた。
「聞かなかったことにしてくれ。俺が言ったのがバレちまうからな」
意味深な発言から、この男性がレイとそれなりに交友があったことが分かる。彼は、俺が聖剣云々の話題に突っ込むより早く「あいつは元気か?」と、わざとらしく別の話題にすり替えた。
「えぇ……。いや、まぁ元気は元気ですけど……」
「そうそう、俺はいつでも元気だよ?」
「レイ……!」
俺が困惑しつつも返答をすれば、背後かつ真上から聞きなれた声がする。顔を上げると、にっこりとした笑みを顔に貼り付けたレイの姿があった。レイは俺の瞳を見て少しだけ驚いた顔をするも、すぐにまた笑みに戻ると俺の頬をむぎゅっと抑えると、顔を顰めている男性に視線を向けた。
「やぁ、エヴァン。珍しく傷だらけだね」
「……レイ」
「ペルーアの客人に治療までさせちゃって……いいご身分だね?」
にこにこと楽しそうにエヴァンと呼ばれた男性に話しかけるレイ。反対に話しかけられた方はといえば、より苦々しい顔をしている。だが、ぽんこつと称していたレイに対してエヴァンさんは強く出ることができないのか、何かを言い返す様子はない。ただただ顔を顰めているだけだ。
「いや、これは成り行きだっての」
「成り行き? ……ゴウは本当に運が良いねぇ」
「どれを見てそう言ってんだよ……」
「えぇ? だって、エヴァンに出会ってるじゃないか。……で、今どんな感じ?」
理由の説明になっていないが、推測するにエヴァンさんはそこそこ戦況に詳しいのではないだろうか。レイが状況を尋ねるくらいだ、すごく遠いというわけでもないだろう。
レイにナト町の現状を聞かれたエヴァンさんは「カテドラルまで到達すんのも時間の問題だな」と溜息交じりに答えた。魔族たちの侵攻は徐々に苛烈さを増しているという。厄介なことに魔族も一枚岩ではないようで、人間を利用して何かを企んでいるもの、ただただ殺戮を楽しむもの、女神様の討伐を優先的に行動するものなど、目的がそれぞれで違っているのだそうだ。ナトに攻め入るものの多くは女神様の討伐を中心に動いている上に部隊で行動しているので非常に苦戦を強いられている状況であるらしい。
「だが、今日の奴等は突然苦しみだしてよ。そのおかげで昼は被害が少なくて済んだな」
「あはは。なにしたの、ゴウ?」
「……町のアーチに新しい聖玉をはめました……」
俺のせいだと理解するのが早すぎる。
視線に耐えられず、素直に白状すれば「やっぱり運がいいねぇ」とレイは笑った。
「その調子で結界を強固にしていこうか。雑魚は勝手に蒸発するだろうから、残ったやつをなんとかすれば町を奪還できるんじゃないかな」
「なら、ある程度手当を手伝ったらそっちに移るわ」
「……ああ、それならついでに……」
レイは一度教会の外に出ると、何者かを引き摺って戻ってくる。エヴァンさんの「アンリ!」という驚いた声に引き摺られてきた人物をよくよく観察すれば、それは先程レイに喧嘩を吹っかけてきた女性的な雰囲気を持った男性だった。アンリと呼ばれた男性は気を失っており、やけに体がぼろぼろになっている。しかし、何故か顔だけは傷一つない。それがかえって恐怖だった。
「彼のこともよろしくね」
男性を笑顔で差し出すレイはもっと恐ろしかったが。
***
「……で? なんで、こんなことになってんの?」
「あはは、やりすぎたかなぁ」
エヴァンさんを始めとした壁にもたれ掛かっていた負傷者に手当を施し、聖玉設置のためにレイとともに行動を開始した。……のは、良いのだが。
「アタシが監視させてもらうわよ」
何故か、先程レイと戦った男性――彼はアンリと名乗った――が付いてくることになった。アンリはレイに対して強い敵意を抱いているようで、背後からはひしひしと殺意を感じる。それを咎める人間はいるはずもない。当然だ。ナト町に現れる魔人はみな赤い瞳である。つまり、瞳の赤いレイのことを勇者だと頭では理解できたとしても、感情は恐怖を感じてしまうのだろう――というのが、本人の意見だ。荒れた町の惨状を見れば、俺も同意するしかなかった。
被害状況は北に進むにつれて、悲惨になっていく。崩壊していく建物は徐々に増えていき、回収できていない死体がそこらじゅうに転がっている。全身残っていれば奇跡なのではないのかと思えるほど、未回収の死体は損傷していた。片腕がないのは当たり前、片足がないのも当たり前。だが、それで済んでいるのであれば良い方に思えてしまう。半身がないもの、顔がないもの、様々な臓器が飛び出してしまっているものが大半で、目の前に広がる光景は凄惨を極めていた。野ざらしになっている時間も長いのか、あちこちから腐敗臭が漂ってくる。鼻を、喉を、そのもっと奥のものを、刺激する強烈な不快感に耐えることができない。
「……アンタ、顔色悪いわよ」
腹の底からせりあがってくる不快感に視界がふらついているなと思っていれば、背後にいたアンリがさっとハンカチを差し出してくる。そして、それを俺の口元へと当ててくれる。ハンカチには香油か何かが染み込ませてあるのだろうか。花のような、樹木のような、安心できる香りが少しだけ気分を良くしてくれる。
「あ、ありがとう……?」
「おや、優しいじゃないか」
「……結界が広範囲で機能するようになれば、弔ってあげられるもの」
「……なるほどねぇ?」
意外な優しさに目を瞬かせていれば、レイはさして驚いてもいないくせにさも驚いたかのような表情でアンリに声を掛けた。そんなレイの様子に、アンリは非常に不愉快そうに答える。レイとの戦闘前にミウィちゃんの名前が出ていたことから、彼は魔族側なのかもしれないとも考えていたのだが、どうやらそういうわけでもないらしい。なにかしらの思惑があって、個人的にミウィちゃんと契約をしたのだろう。そして、その内容にレイが関わっているのかもしれない。
「そういうことなら日が暮れるまでに結界の範囲を広げないとね。力を持った魔族が多ければ聖玉の力が削られていくだけだしね」
「聖玉設置して……その後は?」
「残った魔族たちの掃討になるよね。とはいえ、俺が戦闘に加わると乱れそうな気もするし……自警団や騎士団とは違う場所で戦った方が良いかもね」
そう言うと、レイは町の中央広場ある噴水に聖玉を置く。置いたというよりは投げ込んだと言ってもいい。様々なものの体液で濁り切った水があっという間に浄化されていく。聖玉にはこのような効果もあるのかと目を瞬かせていれば、「綺麗なのは見た目だけだから、そのまま飲んだらダメだよ」とレイが言う。「誰が噴水の水なんて飲むんだよ」という言葉は、あちこちから聞こえ始めた悲鳴にかき消された。
「おや、近くにも潜んでいたみたいだね?」
「どうするんだ?」
「町の戦力は一部を除いて休憩中でしょ。なら、単独行動がしやすいうちに少しでも数を減らしておこうか。大抵の魔族はここまで入ってくることができなくなったしね」
現在のナト町には強い力を持った魔族が多く侵入しているため、いくら女神様が力を込めた聖玉でも広範囲をカバーしようとすると脆くなってしまう。だからこそ、こうして様々な場所に聖玉を設置しているわけだが、本来であれば町の主要な箇所に数個あれば結界として十分機能する。つまり、聖玉を設置したところで多くの魔族が町に残っていれば結界はすぐに脆くなってしまうということである。結界を正常に、かつ少ない数で機能させるためには、魔族を町から追い出さなければならない。
「というわけだから、今のうちに数を減らしたいんだよね」
「まぁ、お前がそうしたいなら俺はそれでいいよ。いてもいなくても変わらんし」
「そんなことはないけどね。 ……それじゃ、行こうか」
レイは聖剣を手にすると、北上途中の鈍足な魔物に斬りかかる。こちら側に背を向けていたのもあって、サルのような見た目の魔物はあっけなく消滅した。「さ、この調子でいこう」と駆けるレイの後を追う。
「戦闘はお前に任せるからな!」
「あはは、ほどほどに頑張るよ」
謎チートである必中があるとしても、矢を放ちながら走ることは俺にはできそうもない。戦闘場所に辿り着くまでは大人しく後を付いて行くだけにすることにした。口を開く気配はないが、アンリも俺たちに付いてきている。彼は足が速いのか、俺の真横を通り過ぎるとやや前に位置取ると一定のペースをキープしながら、敵にも攻撃を仕掛けていた。
「切り裂け、風の刃よ――ウィンドシェイバー!」
「やっぱり技名言いながらってかっこいいよね」
「なら、お前もそうすればいいじゃん。雷陣剣とかさ」
「それいいね。……よし、やってみようかな」
走りながらも魔法を敵に命中させていくアンリを見て、レイは自分も技名とともに攻撃をしたいなどと余裕の発言をしている。そんなにやりたいのならやればいいと、スマホゲームに出てきた適当な技名と上げてみれば、レイは響きを気に入ったのか、レイはそのまま剣に雷を纏わせた。
「――雷陣剣!!!」
そして、無駄に高く飛び上がると、前方をゆっくりと走っている魔物の群れ目掛けて落下する。その勢いに任せて剣を振り下ろすと同時に、メインの攻撃対象の周囲にいる魔物を巻き込むように雷の方陣を展開した。
「おお、かっこいいじゃん!」
「意外と威力が乗ったね!? ……いいね、これは悪くない!」
声を出すと気合が入るのか、それとも調子自体が良いのか。
レイは複数の魔物を派手に吹き飛ばす。その衝撃で吹き飛ばされた魔物はそのまま消滅していく。思っていたよりも威力が大きい。レイの想定も超えていたようで、彼自身もやや目を丸くしている。
「この調子でいこうかな!」
「お前……早いって!!!」
この状況で楽しんでいるのか、機嫌良さそうに走るスピードを上げていくレイに、俺はといえば付いていくことが精いっぱいである。北に向かうにつれて魔物の数が増えいく。結果、都度戦闘が発生するために、レイやアンリの姿を見失わずに済んでいた。
レイはもちろんだが、アンリも容赦なく魔物を倒している。淡々と攻撃しているように見えるが、使用魔法の派手な威力からはむしろ強い嫌悪のようなものが透けて見える気もする。やはりミウィちゃんとの契約とやらは個人的なものなのだろう。レイに恨みであるのだろうか。だが、そうであれば契約などせずにレイを狙ってもいいような気もする。もっとも、それではいけない理由があるから魔族と契約という形を取っているのだろうが。
「……っ、あぶねっ!?」
考え事をしながら走っていたからか、接近する魔物に気付くのが遅れてしまった。反射的に良ければ、一回転する羽目になってしまった。だが、それが逆に幸運だった。地面に伏せる形になったことで弓を引きやすい態勢になる。付与理由不明のチートである必中のおかげで態勢に関係なく矢は当たるとはいえ、威力は大きいに越したことはない。昨日、明確に理解した。襲ってきた魔物は倒さなければ死ぬ。命を奪うことに抵抗がないわけではない。だが、死という恐怖はそれを上回る。それに。
(昨日は出来たんだ……今日だって……!)
火事場の馬鹿力かもしれないが、昨日は強敵相手にとどめを刺すことができている。一度経験してしまえば、二度も三度もきっと変わりはしないだろう。
「……当たれっ!!!」
レイのように矢に魔力を乗せて放つ。
昨日強大な炎の魔法を使用したからか、自然と矢には火属性の魔力が乗っていた。火属性の矢は相変わらずへろへろとした動きをしていたが、きちんと敵に命中してくれた。矢が刺さった狸のような魔物は「ギィッギャァ!!!」という悲鳴を上げてはいるが、しかしトドメには遠い様子だ。むしろ、攻撃してしまったことで、相手側の敵意を増幅させる形になってしまったらしい。「シャーッ!!!」という威嚇の声を上げながら、敵意のこもったギラギラとした赤い瞳がこちらを捉える。戦闘、開始だ。
「……っく!」
威嚇の声に同種の魔物が集結してくる。
たくさんの狸型の魔物に囲まれる前に、確実に数を減らす必要がある。見た目からして雑魚に分類されるのだろうが、例えそうだったとしても素人の俺は囲まれた時点で対処の仕様がない。そもそも弓という武器が近接戦に向いてない。まずは距離を取る必要がある。
「レーイッ!」
ついでにレイを呼んでおく。保険は大事だ。
いつの間にか距離が開いてしまっていたらしい。前方――やや姿が小さく見えるレイの「えっ!? いつの間に!?」という驚いた声が聞こえてくる。この驚きは気付いたら俺が魔物に囲まれていることへのものだろう。心の中でごめんと呟いて、目の前の敵に向き合う。
(やってやる……!)
狸たちの動きはそう早くはない。背を向けずに、ゆっくりと後退りしていけば一定の距離は保てそうだ。弓の照準を狸に合わせながら距離を取る。弓を上手く扱えるわけでもない俺が確実にダメージを与えるためには魔力を乗せることは必須。だが、矢に魔力を乗せるためには時間が要る。幸いなのは狸の魔物に火属性は効果がバツグンなことだろう。
「……いけっ!」
「ギャアッ!?」
一本一本矢を放っていく。
ダメージは確実に入っていることが分かるのに、放った矢はどれも違う個体に当たるせいで数は減るどころか増える一方だ。崩壊した建物に隠れていたのか、それとも何もない虚空から現れているのか判断する余裕もない。分かることは狸の数がいつの間にか十五を超えているということと、俺が危機的状況に追い込まれていることだ。
「……っ、うわっ!?」
それでも距離を取るために後退を続けていれば、瓦礫に引っ掛かってそのまま倒れ込んでしまう。急いで立ち上がろうと地面に手を置けば、運が悪いのか、建物の破片が手に突き刺さる。「いってぇ!?」と、思わず手の様子を確認すれば木片が刺さっていた。いや、今は呑気に傷の確認をしている場合ではない。慌てて弓を構えなおすも、すでに狸が三匹ほど目の前に接近してしまっていた。
「やべぇ……!」
矢を放っている時間はない。
レイがこちらに来る気配もまだない。
せめてダメージを軽くするために、身を屈める。
「水よ、その身を凍てつき刃と化え、我が敵を貫け――フリーズランサー!」
「ギャアアアア!!!」
レイとは異なる、男性の詠唱する声が聞こえたかと思うと、狸たちの悲鳴が上がる。反射的にぎゅっと瞑ってしまっていた目を開けば、視界の前にはつららのような巨大な氷が突き刺さった狸たちが広がっていた。
「……え?」
予想外の光景に目を瞬かせいれば、「危ないところだったわね」とアンリが歩み寄ってくる。しかし、そんなアンリの背後から辛うじて一命を取り留めたのだろう一体の狸が襲いかかってくる。俺の口から危険を告げる声が出るよりも早く、アンリは手にしていた鉄の扇を後方へと薙ぐように払う。鉄扇の直撃を受けた狸は悲鳴を上げることもなく、そのまま息絶えてしまった。少しの間を空けて、狸の魔物たちの死体はすべて塵のように消滅していく。その様子を気にすることもなく、アンリはこちらに手を差し出してくる。
「ぼさっとしてないで手を取りなさいよ」
「あ、ああ……ありがとう……」
アンリの手を取って立ち上がる。彼の手には俺の血が付いてしまったが、それすら気にしてはいないようだ。一応バッグの中からハンカチを渡せば、「ありがとう」と笑って受け取ってくれた。
「アンタ、戦いなれてないのねぇ」
「最近まで戦いとは無縁だったからな」
「……アンタも色々ありそうね」
アンリほどではないけどな。
という言葉はぐっと呑み込んで、へらっと笑って見せた。
「ゴウ、無事かい!?」
タイミングが良いのか悪いのか、レイが駆け付ける。レイはレイで苦戦していたのかもしれない。剣や鎧には魔物の体液がべっとりと付いてしまっている。完全に息絶えると体が消滅してしまうというのに、魔物に攻撃すると体液が溢れてくるのだから不思議なものだ。考えたところで分かるはずもないのだけれど。
「アンリが助けてくれたからな。……お前は?」
「俺も平気だよ、これは全部返り血だしね。……ゴウを助けてくれてありがとう、アンリ」
レイの言葉にそっぽを向いたアンリだったが、よくよく見てみると耳が微かに朱色に染まっていた。「意外と可愛いところがありそうだよね」と隣で囁いた男に肘を入れておく。やはり、こういうところが敵を増やしている可能性が高そうである。
「さて、付近の魔族も減ったし聖玉を置いておこうかな」
レイが周囲を見渡すのにつられて、俺も周囲の確認をする。北に近付くにつれて、崩壊している建物は更に増えている。原型をとどめているものは少なく、地面には建物の破片が散らばっていない場所の方が珍しいほどだった。いつのものか分からない肉片や血痕などもあちこちに見受けられる。当然辺りには地獄と表する他ない臭いが充満していた。時々吹いている風だけでは、とてもではないがこの臭いを吹き飛ばすことはできないらしい。
レイは、この場所のどこに聖玉を設置するべきなのかを決めたらしい。聖剣を地面に突き刺すと、シャベル代わりにして土を掘り起こしていく。あまりの所業に声も出せずにいれば、近くから「信じられない……」という声が聞こえてきた。恐らく、今の俺とアンリの心境は似たようなものだろう。そんな俺たちの様子に気付いているのかいないのか、勇者様は何かを気にする様子もなく一生懸命に地面に穴を掘っている。だいたい数十センチほどだろうか。それなりの深さの穴ができると、レイはそこに聖玉を埋めていく。それを複数回繰り返したのを見届けるまで、俺の口は音を発することができなかった。
「よし、こんなところじゃない?」
レイは掘った穴に聖玉を埋め込むと、一度教会周辺――南側の拠点に戻ることを提案した。教会のある南から広場のある中央を抜けて港に続く道までは、聖玉を設置することに成功している。これによって、西側と東側の居住地域から弱い魔族は抜け出すことができなくなっている、というのがレイの予測である。そして、東西は自警団や騎士が警戒している。彼等もこの激戦の中で人々を守ってきた者たちだ。魔族たちが弱体化した隙を逃しはしないだろう。ならば、一度俺たちが拠点に戻って夜に備えるのは悪くない手だと、そうレイは言う。
「今のうちに片付けるってのは?」
「おばさんが手を打っていないとは思えないからね、港を取り戻すのであれば自警団との協力は必須だと考えているよ」
とはいえ、ただ来た道を戻るというのも気が引けるらしい。レイは、東か西のどちらかの道を迂回して教会に戻ることを提案した。
「なるほどな。……ま、俺は素人だし、お前の意見に従うよ」
アンリも異論はないようで、言葉を発する様子はない。それを確認したレイはそこらへんに転がっていた木の棒を拾うと、そのまま垂直に放り投げる。タイミングよく吹いた風が木の棒を西の方へと動かすのを見て「西だね」と、帰る方向を決めたようだ。
「……さて、どうなるかな~」
西に向けて歩き出したレイは、何故かとても楽しそうだった。鼻歌まで歌い始めたものだから、思わず俺とアンリが顔を見合わせてしまったのは仕方のないことだっただろう。
ゴツゴウ的に楽しい冒険!? 佐倉那都 @natsu2sakura
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