14 第六感がなくても

「これで5つの怪異体験は終了です。思った以上にきみたちが親睦を深めていたので、いろいろと想定外のことも起こりましたが、次の機会に生かすとしましょう。よければ、感想や意見など、なんでもいいので紙に書いておいてください」

 また、いつものように紙を配られる。

 こうして、この施設は俺たちの意見を取り入れて、第六感を持つ子を増やそうとしているのかもしれない。

 途中で体験をやめた子の中にも、もしかしたら、すでに第六感を得た子がいるかもしれない。

 それがいいことなのか、悪いことなのか、俺にはよくわからなかった。

 でも、そういう子がいてくれたら、玲士が孤立することも、岬が透にからかわれて傷つくことも、たぶんなかっただろう。

「あの……どうして最後の体験は、みんな同じ場所だったんですか。1人ずつ……相手が全員、プログラムだったら、こうはならなかったですよね……」

 萩野さんは少し考えた後、

「人間味に欠ける相手では、感情が動きにくいですからね。それと……なにか想定外のことを期待していたのかもしれません」

 そう言った。

 そういえば、俺たちはモニターだ。

 まだこの六感を生み出すプログラムも、試行錯誤してる最中なのかもしれない。

「萩野さんは、あの白い部屋にいて、平気なんですか?」

「平気です。僕も理解できていない人間なので。理解したくとも、大人になってから身につくものではないですから」

 そっか……萩野さんも同じなんだ。

「第六感がなくても、友達のこと、理解……できますか?」

「……そうですね。それを今回は見せてもらいました。食堂に、飲み物やデザートを用意してあるので、体験も終わったことですし、Bクラスの子ともぜひ、心置きなくお話してください」


 その後、俺たち3人で食堂に向かうと、玲士、桃井さん、岬、城崎さん、啓太が1つのテーブルを囲んで座っていて、俺たちを手招きしてくれた。

「勇矢、おつかれ!」

「おつかれー。助かったよ、玲士……! 茶髪の子、玲士だよね?」

「自分の姿は見えなかったけど、たぶんそうかな」

「玲士くんのおかげだな。正直、死ぬかと思った」

「俺たち、なんもできなかったからなー」

 俺に続いて、智樹と透が感謝を告げると、玲士はちょっと恥ずかしそうにしていた。

「僕も……1人じゃできなかったよ。そこにいるのが勇矢だってわかってたし、桃井さんと岬も、きっと協力してくれるって思ったから」

「桃井さんは、2番目に出て来てくれた子だよね? 見た目は男の子だったけど……」

「まあ、あそこはああするしかないでしょ」

「岬は、人を傷つけたりはできないはずだってやつ! ずるいよなー。自分が安全だってわかってから動くの」

 透がまた岬をからかう。

「そ、そういう透は、ただ逃げ出そうとしただけだっただろ……」

「なに透。逃げ出したの?」

 啓太が、少しからかうような視線を透に向ける。

「逃げてねぇ。逃げれなかったし。マジであっち側、怖いんだからな!」

「そのわりには、いま、平気そうだけど」

「……ま、岬のおかげで、安全だって思えたし。その……守ってくれてありがとな」

 透は、素直になるのが苦手なだけなのかもしれない。

 言われた岬も、慣れないのか少し戸惑っていた。

「体験……どんな感じだったのかな」

 城崎さんが、そわそわした様子で尋ねる。

「あとで教えてあげる。春香はやっぱり、そういうの好きだよね」

 桃井さんと城崎さんも、これまで通り仲良くできそうだ。

「つーか、腹減ったし。デザート、取ってこよう!」

 そう言いながら透が席を立つ。

「こ、こっちは透たちが来るまで待ってたんだけど……」

「わかってるって。一緒に取りにいきゃいいだろ。昼あんま食べてねぇし。久しぶりにちゃんと腹が減ってんだよ」

 透と啓太と岬がデザートを取りに向かうと、それに続いて、智樹と桃井さん、城崎さんも、デザートを取りに向かう。

「僕たちも、行こうか。のど、かわいちゃった」

 そう玲士に声をかけられる。

「うん……」

 そう席を立ったけど、少しだけ俺の中に心残りがあった。

「……ごめんね、玲士」

「え……?」

「5つめの怪異体験。あそこでちゃんと負けてたら、玲士のこと理解できるようになってたかもしれない。わかってたはずなのに……俺、勝とうとしてた」

「怪異だって、勝とうとくらいするでしょ」

 あの恐怖と理不尽を受け入れることが、きっと第六感を手に入れる鍵だったんだろう。

 それなのに、怖がって、助けてもらって、安心してなにもできなかった。

「そもそも、謝るのは僕の方だよ。体験の前に、やめて欲しいってちゃんと言えなかった……望んじゃったんだ。勇矢が同じになってくれたらって」

「いいよ。望んでくれていい。望んだとおりには、ならなかったけど……」

「あそこで勇矢を見捨ててまで望むことじゃない。あんな怖い思いをしてまで理解してくれようとした。それでもう充分だよ」

「玲士……」

「それに、思い直したんだ」

 玲士が俺を見てにっこり笑う。

「勇矢が第六感を覚えちゃったら、僕、相棒の必要なくなっちゃうなぁって」

「なにか見えたとしても、玲士は相棒だよ」

「ありがとう。これからもよろしくね、相棒」

 そう差し伸べられた玲士の手を、今度はしっかり掴んだ。

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六感プログラム 律斗 @litto

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