着いちゃったね異世界

「・・・ううん」

ついさっき感じた感覚に襲われながら、俺は目を覚ました。草の感触が顔面にツンツンとつきささる。そして顔を上げるとさっきの草がどこまでも遠くへ続いていた。大草原ってやつだ。

「ここは・・・」

「異世界にようこそ越前君」

頭の中に作者とやらのムカつく声が響く。

「来ちまったのか・・・異世界に・・・」

「ざっつラーイト!」

予定通りに進行しているからか、作者は上機嫌だ。反比例して俺は落ち込んでいた。

「ああ・・・兄貴どうしよう・・・俺・・・兄貴・・・・」

「まま、落ち込まないでよー」

相変わらず気楽な声に俺はキレた。

「てめえなあ!全部全部お前のせいだろうが!」

「おやおや。怖い勇者様だねえ。これじゃ読者がにげちゃうよー」

「うっ!・・・」

正論を言ったつもりだったのだが、とても卑怯な言葉で俺は封殺された。ここから先、俺が元の世界に戻れるかは作者、そして読者次第。俺はその二つに自分の夢を人質にとられ、手も足も言葉もでない状態になっていた。

「・・・キレてすみませんでした」

とりあえず読者に謝っといた。それくらいしか対応策が思いつかなかった。

「うんうんいい子いい子。それじゃあまずは近くの町に行こうよ。ストーリーをすすめないと、越前君の夢も遠のくし」

「っくしょう・・・」

とりあえず俺は足を前に踏み出した。できれば踏み出したくなかったが踏み出すしかなかった。しかしここは剣と魔法の異世界。移動ですら普通にはできない

「ぷぎゃあー」

聞いたこともない変な奇声と共にスライム状のへんな奴が現れた。

「な、なんだこいつ!」

「お、さっそくエンカウントだねえ」

「えんかうんと・・・?」

「ええー・・・エンカウントもしらないの?うーんやっぱり運動バカを異世界転生させるのは無理だったかなあ?ぶつぶつ・・・」

「いいからあいつは何なのか教えてくれ!」

「ああー、はいはい」

作者は面倒ながら丁寧に教えてくれた。

「あれは魔王の配下のモンスターってやつだよ。魔王の目的はこの世界の支配。そのために世界のあちこちに自分の配下をばらまいて、いろんな種族を迫害してるの」

「じゃあ、あのスライム状のやつも・・・」

「もちろん攻撃してくるよ。がんばれー」

「はあああ!?」

不満をぶちまけようとしたが、先にスライムがこちらにとびかかってきた

「ぷぎい!」

「うおおおっ!」

俺はそれを何とか体を反らしながらの横跳びで回避した

「おおいいねえ。さすがスポーツマンだよ。派手な戦闘期待してるよ」

「な、無茶言うな!初めての戦闘でそんなの気を配れるか!」

「でもおー、かっこいい演出しないと、読者が離れちゃうよー」

「ぐ・・・」

そうか。俺は普通に魔王やモンスターを倒せばいいわけではないんだ。読者がこの小説から目を離さないような事をいちいちやりながら話を進めなければ、読者が離れてやがて作者のモチベも離れて打ち切りになる。畜生ガッテムこの野郎!

「うおおおおおお!(心の中で泣きながら)」

俺はとにかく何をすればいいかわからないが、なんか派手なことをしようとだけ心に決めて突っ込んだ。とりあえず全力でパンチ。

ぼごお

「ぴぎ!」

モンスターが悲鳴を上げる。バスケで鍛えた腕が繰り出すパンチは結構いけるらしい。こんなことのために鍛えたわけじゃないんだけど。

「うおおおおお!」

そのままパンチを連打。スライムは手も足も・・・いや元から出てないけどでなかった。

ぷしゅう・・・・

何度も殴られたスライムは、倒れた後に煙となって消えた。

「はあ・・・はあ・・・ど、どうだ・・・・」

「うーん10点」

「はあ?」

かなり頑張ったのだが作者からの評価はかなり低かった。

「だって必殺技も魔法もないんだもん。こんな泥臭い戦い、だれも見たがらないよ」

「んなもん使えるわけねえだろ!覚える機会も練習する機会もなかったんだぞ!文句言うなら必殺技なり魔法なり俺に教えろよ!」

「いやあそうしたいんだけどさー。最近は最初から主人公が強いと読者から「はあ、また主人公が理不尽に強いパターンかよ。つまんねー」ってなっちゃうからさあ。越前君にあんまりテコ入れしたくないんだよねー」

言ってることが理不尽すぎる。派手な技は教えないけど派手な事してね♪ってできるわけねえだろがそんなの!

「ぷぎゃあー」

悩む俺をモンスターは待ってはくれない。またさっきのスライムが出てきた。

「ぷぎい!」

「ぐはあ!」

悩みで頭がいっぱいだったせいで今度はよけられなかった。腹に固いボールが結構な速度でぶつかったような衝撃に襲われる。腹痛の時にやられたら多分不味いことになってたと思う。

「ちょっとちょっとー。かっこ悪いところ見せちゃだめだよー読者が」

「あーもう!わかるっての!」

とりあえず俺は起き上がり、スライムにまたしても猛ダッシュ。

「うおおおおおお!」

さっきは殴って駄目だった。ならば今度は違う方法で行くしかない。俺はスライムをがっしりとつかむと地面に叩きつけた。

どごお

「ぴぎっ」

スライムの悲鳴が上がるがそんなこと気にしてられない。俺はそのまま叩きつけを連打した。

「うおおおおおおおおおお」

だん!だん!だん!だん!

「ぴぎい!ぴぎゃ!ぷぎ!ぴゃ!」

仕上げにスライムを真上に高く放り投げ、落ちてきたところを

「ファイナリティイキイーーック!!」

なんか思いついたそれっぽい言葉と共にスライムを蹴り上げた。

「ぴぎゃあーあーーあーーー」

スライムはちょっと離れたところへ蹴飛ばされ、煙になって消えた。

「はあ・・・はあ・・・」

「んー・・・15点」

「はあ?」

こんだけやってやっと5点しか上がらないのかよ!

「っていうか何?ファイナリティイって。だっさ!」

「お前がなんか技出せって言ったんだろうがよ!」

「あんな破れかぶれが技に見えるわけないじゃん。ちゃんとレベルアップで習得した奴じゃないと」

「じゃあそのレベルアップとやらをさっさとさせてくれよ!」

「うーん・・・確かにこんなちんけな主人公をいつまでも書き続けるのもつまんないしなあ。よし、越前は町に到着しましたっと」

作者がそういうと、足を動かしていないのに、周りの風景が動き出した。電車に乗ってるかのように風景は流れ、あっという間に近くの町の入り口に着いた

「な、なんだこれ!?」

「ほら私は作者だからさ。私が言っちゃえば本当になるのよ」

「だったら最初からこうしてくれよ・・・っていうかそれで魔王とか倒せるじゃねえか・・・」

「デウスエクスマキナ的なのは好まない人多くてさー」

何を言っているかわからないが、そういう風にしたくないのは伝わった。














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

皆さん(読者)のせいで異世界転生することになったので最後まで作者のモチベを支えやがってください ほのかな @honohonokana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る