人工神木ゾースト・ア・ゾーン

釣ール

アゾースト・アポカリプス

 夜風に吹かれてしたいことって何があるだろうか?

 虫に会いたくないなら地方はだめでしょう?

 人に会いたくないなら時間帯を決めるとか。


 思う通りにいかないから小さな親切に気がつくものの、そうと分かった時は印象が悪くなる一方で繊細せんさいな人間関係にはいつもおどろかされるばかりだ。


 人間が二次元の何かにほれることがあるように、辛い時には何かにすがりたくて仕方がない。


 今残ってる彫刻とかに目的や天才性だとかそんなものあったのだろうか不思議に思うよ。

 こうして特に何も考えずに神木しんぼくってやつを育てて枯れるまで面倒を見てみたら簡単に刀をいれようだなんて思わねえ。


 神木しんぼくといっても本物じゃない。

 さらに言えば長年生えていたものでもない。


 Zoo of the end.


 そんな物騒な名前のほろぶことがないネズミから抽出ちゅうしゅつした名称不明めいしょうふめいの植物を少し実験という目的で飼っていたらやたら育ち盛りで人形ヒトガタのように枯れたから神木と名付けた。


 英名の通り動物を終わらせるわけだからこんな不気味な枯れ方をするとはね。


 いつの間にかこちらの口調まで真似て喋り出す始末。

 おかげでこの木を素材にものづくりをする手間がはぶけた。


 何をしゃべってるかまったく分からないが、こいつは植物ではないらしい。

 造花ぞうかよりもはるか前に作られた人工植物。


 それがほぼ植物と変わらない組織で人語までしゃべりはじめているわけだから確実に人間か哺乳類ほにゅうるいの中に犠牲者が歴史上いたはずだ。


 ネズミにかじられるまえの姿は分からないが生き残れなかった植物の名残。


 神木なんてかっこつけた名前にする必要はなかったな。

 かといって他に聞きあたりもないし。

 それじゃあ頭が悪すぎるか。


 Zoo of the end.


 どうせならもう少し大層な名前にするか。


 Zone of the storm.


 原型げんけいはないが人間の悪意ごときで他の動植物をほろぼされるわけにはいかないのでね。


 いっそかじられたネズミからここまで育って枯れた生き様と死に様をこの理不尽と血の味だけが支配する消滅可能性星ディストピアを巻き込んで最期を迎えよう。


 ゾースト。

 それが枯れてまでかたりかけるお前の名。

 そして俺たちはユニットとして組むことになる。


 ゾースト・ア・ゾーン。


 実験といっても名のある科学者じゃない以上は俺たちの功績こうせきなんてすずめの涙さ。


 俺が自室からの夜景をのぞこうと窓の近くのテーブルへ寄りかかると、ゾーストは雰囲気が伝わったのかまるで上位派閥じょういはばつ科学者の奥方おくがたのようによりそってくれる。


「おまえの性別、どっちだよ」


 人の癒しは人でしか得られない。

 それはもう飲食店で間に合ってる。


 どのみち俺たち人間は分かり合えない。

 諦めなかった青い日々も戻ることはないしそのままだとだまされて最期まで金をしぼりとられるだけ。


 ゾーストよ。

 枯れてまだ生きる人工神木が希望になる現実を俺たち人類に見せつけるのか?


 とっくの昔に作り上げた過去の人々による置き土産として。


 お前の意志を聞かせて欲しい。

 それがユニットってもんだろ。


 夜だからか、それとも久しぶりに人間じゃないとはいえ誰かからのぬくもりを得られたからか俺もおかしくなってしまったらしい。


 まあ、いいか。

 いっそこのまま朝から夜まで続く変わらない理不尽をゾーストに語りつくそう。


 不思議とネタ切れになりそうにない。

 俺も含め人類のおろかさは、話せる範囲から話せない範囲まではば広いしな。


 作られた顔に表情を影で現すゾースト。

 そこまで人間に寄せてくれるのか。


 今夜は脳内を侵食されそうだ。

 ゾーストに限ってそんなめんどうなことは俺に必要はない。


 明日も嘲笑あざわらおう。

 秘密を抱えるふたつの生命体として。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人工神木ゾースト・ア・ゾーン 釣ール @pixixy1O

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ