第1話 宣告

「診断の結果あなたの寿命、持って1ヶ月でしょう。」

年に1回の定期健康診断の際に、突然医師からそう告げられた。そう言えば定期健康診断の割にはいつもみたいにスムーズじゃなかったし、医師から呼ばれるのもいつもより遅いような気がした。どうやら僕はもう少ししか生きることが出来ないくらい身体に異常があるらしい。

そんな状況下で僕は

「え、まじか。まだ今月の読んでる漫画の新刊買ってないんだけどな」とかなりどうでもいいことを考えていた。

本来余命宣告されたら

「そんな……あと少ししか生きれないなんて」

と泣きじゃくるか絶望に駆られることだろう。もしくは「いや、自分は何があってもちゃんと闘ってこの病に勝ってみせる」

なんて生きることにより闘志を燃やすかもしれない。

だが僕は全くそんなことなくてあっさりこの現実を受け入れてしまった。僕ってこんな物事あっさり受け入れる人間だっけと思いつつ、それでもいざ現実で余命宣告をされると受け入れてしまった。

医師が手術がどうとか今後どんな風に治療していくだとか細かい説明をしているが、全く耳に入ってこない。

呑気なもので「余命わずかとかまず誰に報告すればいいっけ」とかそんな事を考えていた。

僕はこう見えて友達はそこそこいる方だし、少し言うのは恥ずかしいが僕にはもったいないくらいの素敵な彼女もいる。両親も父母共にまだバリバリ現役で働いていて、周りの人間関係には恵まれた方だ。

悩みに悩んだ結果、とりあえずこの後会う約束をしていた彼女に報告することにした。

正直なんと報告すればいいか迷ったが、今日医者に伝えられた通りに話すことに決めた。そうでないと余計なことまで話しそうだから。

ちょうど彼女から連絡が入った。

『もう定期健康診断終わった?』

「うん、終わった。今病院出たから15分くらいで着くかも」

『了解。私も同じくらいの時間にちょうど着きそう』

「じゃあ、いつものとこで」

『了解。あとでね』

「うん。気をつけて」

そう言うと電話を切り、電車に乗った。

電車に揺られながら、どんな風に話を切り出すか考えた。もしかしたら話してる最中に彼女は泣き出すかもしれない。いや、逆に「どうにかして治んないの?!」って声を荒らげるかもしれない。彼女を悲しませたり彼女に辛い思いをさせるならいっそ言わない方がいいのか。そんなことまで考えた。でも彼女の性格上、隠し事はするのもされるのも嫌いだし後々報告すると怒ると思う。それは避けようと思った。

そうこう考えているうちにいつの間にか目的地に着いた。待ち合わせ場所に向かうと彼女の方が早く着いたらしく、携帯を弄りながら待っていた。

高めの位置で結んだサラサラと風に揺れるポニーテール。スラッとしたシンプルめのジーンズにショート丈の水色のシースルーシャツ。彼女はこういうシンプルなコーデが良く似合うし、ぶっちゃけ綺麗めでもシンプルでもなんでも着こなす。

「お待たせ。遅くなった。」

「ううん、大丈夫。私もさっき来た所だから全然待ってないよ。」

「そか、それならよかった。今日ちょっと暑いし先にカフェとか入ってなんか飲んで涼む?」

「そうだね。喉渇いたしなんか飲みたい。ね、いつものとこ行こうよ。新作出てたしそれ気になってんだよね。」

「じゃあ行こうか」

そう言い、いつも行ってるチェーン店のカフェの方に歩き出す。彼女も僕の隣に並び、歩き出す。僕はいつもこの待ち合わせした後、目的地に向かって彼女と歩き出すのが未だに少し恥ずかしくて慣れない。涼しげな顔で歩いているがなかなか頑張ってバレないように隠している。

「ね、そういえばさ、前行ったカフェあるじゃん、あそこのお店夏の新作もう出てたよ」

「えー、そうなん?じゃあまた行かないとだね。新作僕も気になるなぁ」

「なんかね、丸ごと桃ミニ…パフェみたいなのだったよ。」

「夏結構桃使ったスイーツ多いよね」

「ゼリーとか冷たいものと相性がいいし夏にはもってこいじゃん」

「確かにそうだね」

歩きながらたわいのない話をする。僕は彼女とのこういうなんでもない時間が好きで移動時間もさほど苦にならない。それくらい僕自身も彼女に気を許しているのだろうし、この空気感が心地がいい。

色々話しているうちにカフェに着き、レジにてさっと注文をし、席で注文した品々を待つ。やがてそれぞれが注文した品が到着した。

彼女は季節限定の最近発売されたばかりの新作。僕は決まっていつも注文する定番ドリンク。

ぱっと見サバサバした彼女の見た目に反し、新作や流行という言葉に弱い彼女。

意外だねと言うと彼女は

「来年飲めるかわかんないから、今飲んでおいた方が後悔作らなくていいじゃん」

と得意げに言った。確かにそうかもしれないと納得がいきつつも僕は冒険家な方じゃないから結局いつも飲む定番のものを頼んでしまう。どうやら彼女はチャレンジ精神が強いらしい。

ドリンクが到着し、少しひと段落したところで僕は彼女に例の話を切り出すことにした。

「あの…さ、僕ちょっと今から君に大事な話をしなければいけないんだ」

キョトンと首を傾げ、「ん?」と言う彼女。

ここまできたからには言うしかない。

「僕、どうやら残りの寿命が短いらしいんだ。」

「それ…は後少ししか生きられないってこと?」

「うん」

思わず下を向いてしまう。今彼女はどんな反応をしているだろうか。

恐る恐る顔を上げ、彼女の様子を伺う。

彼女は何かを考えるように頬杖をつき、目を逸らした。何も言わない彼女。

僕はなんて声をかければいいか分からず、思わず無言になる。

すると、

「ねえ、なんかやりたいことはある?」

「え?」

「あのさ、どっか旅行行かない?」

突然旅行行こうだなんて、どういうことだろう。

続けて彼女はこう言った。

「ちょっとさ、思い出づくりの旅に行かない?せっかくならさ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天使の梯子をのぼるまで なのはな。 @Riira79

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ