門をくぐる日

@taitaibun

第1話 「大学行くんだって?」

「大学行くんだって?めっちゃすごいやん!」

高校の教師に合格を報告するため職員室を出た時、幼馴染の高人はそう言った。

どれくらい机に向かっていたのだろう、優斗はパソコンの画面越しに「合格」の文字を目にした時、ただひらすらペンを動かし続け、模試の結果に落胆した日々が頭の中で反芻した。

あと数ヶ月すれば大学生、大学進学者が少ない僕の高校ではそんな感覚はあまり感じなかった。大学に受かったという喜びの感情は持っているが、あまり所得が少ない僕の家庭の状況を鑑みると、あまりこれからの楽しみは感じない。

周りの皆はほとんどが専門学校か、就職だ。唯一大学に進学する真美は指定校推薦で冬が訪れる前には合格が決まっている。同じ大学ではないが、他クラスの女子と「大学行ったら何するの?」なんて話で盛り上がっている。


「切り詰めるとは言ったけど、これ以上どうすれば...」

優斗の父・照人はインターネットバンキングに表示されている数字を見て思わずそう呟いた。

優斗が合格した大学は私立の文系大学。今私立大学は1年間で100万円ほどかかるのが相場で、さらに入学時にはその100万円と同時に入学金も納入しなければならない。低所得の私にとってはとてつもない金額だ。

合格発表から数日、入学に必要な書類を郵便局に提出すると同時に近所のみずほ銀行へ優斗と共に向かう。

なぜ濃い青色という色は憂鬱な気分にさせるのだろう、照人は番号が記された札を持ちながら周囲を見渡しそう思う。

そのうち銀行員が数字を叫び札と振込用紙を渡し、財布から130万円をカルトンに載せる。それを銀行員は慣れていますのでと言うように素早く処理し、控えを受け取った。

「合格おめでとうございます!」

控えを渡しながら銀行員はそう言った。還暦に近い歳の女だろうか、口まわりの皺がより目立つ。

「本当におめでとうなのか」照人はそんな邪念のような思いが浮かんできたがすぐに振り払い、優斗と共に会釈した。

教育の街と言われる文京区にサラリーマンが一生涯で稼ぐ金額と同じくらいのお金で建てられた自宅を見て昔の自分を後悔する。あんな高いお金をかけてこの家を買うくらいなら、生涯賃貸の方が安かったのではないか。

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