別たれぬ腐れ縁
「―――こちら、今回の回収分です」
翌日。
不吉な予言通り、本当に再度回収任務に駆り出され、渋々ながら会いに来た梔子を出迎えた朱華の顔は、いつにも増して楽しそうに見えた。
梔子の主観が大いに反映されていなければ、の話ではあるけれど。
以前の術者である怪の弁慶は未熟であったために、黒く形の不安定な双頭狼の姿で振り回すことしか出来ていなかったが、改めて梔子が喚んだふたりは、それはそれは綺麗な白い毛並みの双子の狼として顕現した。
普段はいまのように手のひらにも乗る大きさの狼の形をとって、梔子の両肩に鎮座している。その愛らしい様は、最早ぬいぐるみも同然である。
しかし、手乗りの子犬と甘く見て喧嘩を売ろうものなら、想像の万倍はひどい目に遭うと今日の取り立て先が証明してくれている。
ケチな妖だから良かったが――店の座敷を血塗れにしたことはともかく――今回の取り立て先が人間だったら死んでいたと、梔子は疲れの滲んだ顔で嘆息した。
先の弁慶討伐のあと、梔子だけでは回収しきれないために駕籠屋を呼んだのだが、駕籠屋は地面に散らばる付喪や式神の山を見て、あからさまに引いていた。なにしろ九十八もの壊れた器物やら呪符やら管狐の管やら護法人形などが、人里の山奥にある不法投棄所もかくやと言わんばかりに積み重なっているのだから。
辻占神の占いでは此処までのことは言われていなかったと恨みがましく伝えると、駕籠屋にそれはそれは同情の眼差しで見られたものだった。
「いやあ、毎度申し訳ねえですねえ」
回収された賃金を受け取った朱華の目線が、梔子の左右の肩をゆるりと行き来してにんまり細められる。
「ああ、やっぱり面白いもんを拾いやがりましたねえ」
「……ええ、まあ、お陰さまで」
梔子の疲れた声を察した霰と霙が、威嚇するように低く唸った。
「随分と懐かれていやがりますねえ。僥倖、僥倖」
それすら可笑しそうに、辻占屋が笑う。
気儘な一人旅に、初めて伴が出来た。
新たな出逢いと、小さな変化が、梔子の日常へと変わった一日であった。
花屋街の辻占騒動 宵宮祀花 @ambrosiaxxx
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