1000年続く名作を
Rie🌸
第1話 源氏物語の誕生
藤原宣孝は布団の上。朦朧とする意識の中。本妻や子どもたちに囲まれている宣孝は二十歳前後は離れてる妾の顔を思い出している。
◇◇◇
結婚当初ー...夜空に満月が輝いておった。
初めて床を共にした夜のことである。
彼女の艶やかな黒髪を撫でながら、宣孝は口にした。
「そなたは儂が初めて好いた女子に面影が良く似ている」
「まあ、宣孝様ったら初夜の後に別の女子の話など聞きたくはありませぬ」
宣孝は気色ばむ彼女の目元に軽く口付けをする。
「そう言うな。そなたと同じように頭が良く文才に優れておった。
その者が書いていたという物語、大層面白いと評判であった。
しかし、読むことも出来ずに身分違いにより声をかけることもなく終わった無様な初恋の話よ..」
彼女は儂の話を聞いたあとに、儂の腕の中で考えこむように思案した。
パッと顔を上げた彼女は眼を輝かせる。
「でしたら、いつか、私が宣孝様の為に物語を書いてさしあげますわ。
その女子より面白く後の世にも続く名作をー...」
儂はその言葉に豪快に笑った。
「わははは!それでこそ、そなたは儂が妻にと見こんだ女子よ。楽しみにしておる。」
頬を赤くする彼女。
そう言ってから宣孝は彼女に口付けた。
唇を離すと、彼女は普段の賢さとは程遠い少女の顔になった。
この夫婦ー...
藤原宣孝と妻、後の紫式部が初夜に交わした約束が1000年続く名作を誕生させることになるのです。
◇◇◇
宣孝の死後
紫式部は部屋の机の上に紙を開いて、筆を取り文字を記していく。
「母上。物語を書いておられてるのですか?」
宣孝との間に誕生した子。娘の賢子である。
「ええ、完成したら賢子にも読ませてあげたいわ」
穏やかに微笑む紫式部。楽しみでございますと賢子も笑顔だ。
『可愛らしい子じゃのう』
赤ん坊を抱き上げる宣孝。
『名は宣孝様がお付けください』
『もう、決めておる。賢子じゃ』
『賢子?』
『そなたのように、賢い子になるようにと』
豪快に笑う宣孝。頬が染まる紫式部。
宣孝様のことを思い出すと胸に温かみが過る。
そして、あの日、交わした約束を守りたい気持ちが強くなって筆を取る。
嫉妬でつまらない喧嘩もしたけど、暗い気持ちをも吹き飛ばすような豪快な宣孝様に惹かれたのだから。
賢子とここで物語を書きながら、宣孝様を想って穏やかな日々を過ごしていけたら幸せ
だわ。
細やかな願いを祈る紫式部。
(ただ、もう紙が僅かなのよね。どうしたものかしら?)
ある日、悩んでる紫式部の元に宮中から一通の文が届くことになる。
その内容が彼女が執筆している『源氏物語』を宮中に広げていくことになるのです。
おしまい
1000年続く名作を Rie🌸 @gintae
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