お眠り令嬢と真っ正直執事
藤泉都理
お眠り令嬢と真っ正直執事
不釣り合いだという事はわかっている。
運動も、勉強も、体力も、育成も、家事も、話術も、芸術も、技術も、運も、何もかもが出来損ない。
すぐに嫌になるし、すぐに挫けるし、すぐに弱音も吐くし。
それでも続けているから、根性は、根性は、ちょっと、だけ、ある、よう、な、うん。
一つだけでも、何か誇れるものがあったらよかったのに。
それが例えば、家のお金であったとしても。
けれど、それすらない、貧乏令嬢、名ばかりの名家。
一つとして、誇れるものなど、なくて。
何もかもをそつなくこなす執事であるあなたに、相応しい主でありたいのに。
あの主あってこそ、あの執事ありと、拍手喝采を浴びたいのに。
(あの執事が居るから、あの家は外見だけでも保っていられるなんて、莫迦にされないのに)
「姿勢が悪いですよ。お嬢様。いつ何時誰が。いいえ。わたくしが四六時中見ている事を、お忘れなきように」
「………ええ、そうね」
(わたくしが居るから、あの家は外見だけでも保っていられるんですよって、高笑いなんかさせないのに………それにしても。時々、性悪なところも見せるのに、口が悪いところも見せるのに、どうして、人気があるんだろう。自分を偽ってないところが、人々の心を掴むのかしら)
「早く立派な主になって、わたくしを楽にさせてくださいよ。執事が一人だけなんてありえませんよ。早く人を雇えるようにもしてください。まったく。こんなに安月給で人を馬車馬の如く働かせて。ボーナスをたんと弾んで、休暇もたんともらわないと、やってられませんよ。わかっていますか?」
「………
「謝罪は不要です。成果を見せてください。はい。ダンスのお稽古を開始しますよ」
「………うえええぇ」
「お、じょ、う、さ、ま?」
「うえええぇえい。やったるわあい」
「はい。何か一つだけ。何でもいいのです。一つだけでいいので、芽を出してくださいね。花までは今は望みません。芽でいいのです」
「うえええぇえい。やったるわあい」
いつか、いつか必ず。
不釣り合いな令嬢と執事。ではなくて。
釣り合っている令嬢と執事だって、言わせてみせるんだから。
「見てなさいよ」
「言われるまでもなく」
(2024.7.1)
お眠り令嬢と真っ正直執事 藤泉都理 @fujitori
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