第10話

第10話: 揺れる心、決意の先に


一輝は、未来科学振興会との戦いから戻ってきた後も、胸の奥で燻る感情に悩まされていた。美咲との連携は確かに成功しつつあるが、心のどこかで引っかかるものを感じていた。それは、力の大きさや自分がこれからどう戦っていくべきかという不安だった。


研究所の休憩室で、一輝は窓の外をぼんやりと見つめていた。青空の下に広がる街の景色は、一見平和そのものに見えたが、一輝の心の中には静かでないものがあった。


「一輝くん?」美咲の声が静かに響く。振り返ると、彼女が少し心配そうにこちらを見ていた。


「美咲...」一輝は微笑みを浮かべたが、その笑顔にはどこか影が差していた。


「どうしたの?最近、何か悩んでいるように見えるわ。」美咲は一輝の隣に腰を下ろし、彼の顔を覗き込むようにして尋ねる。


一輝は少し言葉を探してから、ゆっくりと答えた。「なんだか、これでいいのかって考え込んでしまうんだ。俺が本当に、今のやり方で正しいのかどうか...」


美咲はその言葉を聞き、少し考え込んだ後、真剣な表情で答えた。「一輝くん、私たちはまだ全てを理解できているわけじゃない。でも、だからこそ迷うんだと思うの。」


彼女は続けた。「でも、私も最近感じているの。この力をもっとちゃんと使えるようになれば、きっと誰かの役に立てるんじゃないかって。だから、怖いけど前に進むしかないって。」


「怖いけど...前に進むか。」一輝は美咲の言葉を噛みしめるように繰り返した。そして、彼女の目をじっと見つめた。「そうだな。迷うこと自体が、俺が前に進むための道標なのかもしれない。」


美咲は頷き、微笑んだ。「私たちは一人じゃないわ。一緒に頑張れば、きっと乗り越えられる。どんな壁が立ちはだかっても。」


その言葉に、一輝の心は少しずつ軽くなっていった。彼女の言葉が、自分の決意を固めるための力となったのだ。


その時、藤堂が慌ただしく部屋に入ってきた。「一輝くん、美咲さん。新たな情報が入った。未来科学振興会が再び動き出したらしい。」


一輝はすぐに立ち上がり、美咲と目を合わせる。「行こう、美咲。今度こそ、迷わない。」


美咲も強く頷いた。「うん、私たちの力で必ず止めるわ。」


二人は藤堂に従い、作戦会議室へと向かった。そこでは、レイや他のメンバーたちが待機しており、次の作戦が開始されるのを待っていた。


「今回のターゲットは、以前よりも重要な結節点だ。」レイが地図を指しながら説明を始める。「成功すれば、未来科学振興会の計画を大きく遅らせることができるだろう。」


一輝は地図を見つめながら、心の中で静かに決意を固めた。(美咲や仲間たちと共に戦い抜いてみせる。迷いを乗り越えて、前に進もう。)


作戦が開始されるその瞬間、一輝の心には不思議な静けさが広がっていた。彼は仲間たちと共に、この戦いに臨む覚悟を決めたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

帰還勇者の魔術科学クロニクル カオル @kaoruwatabe

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る