明日、この世界に僕と君がいなくても

愛寂

第1話

3度目の世界大戦。人類史上初の全面核戦争。

戦争の惨禍は、人々からすべてを奪った。


幸運なことに、日本に核兵器が落とされることはなかった。

しかし、無事で済むわけがない。

朝から晩まで警報が鳴り響き、不安に駆られる毎日。

戦争に伴うかつてない規模の経済恐慌。

生活インフラの崩壊や食糧不足。



社会から秩序を奪うには、充分すぎた。



「はぁ。今日はこれだけか…。」


荒廃した町でつぶやく少年が一人。


彼は戦災孤児だった。年は13歳。

9歳の時に両親が死に、孤児院に保護された。

その孤児院も、終戦間際に空爆を受け、仲間は死んだ。

生き残っただけでも、相当運がよかったのだ。

文字通り何もないまま放り出されるということを除いては。


現在の日本に、子供だからと保護してくれるような場所は無い。

故に、瓦礫の中から金属や家財道具の残骸、果ては布切れまで、

金になりそうなものをかき集め、それを売ってなんとか生きのびている。


今日の収穫は、かつてタンスだった木材だけ。収入はたったの200円。


もう2,3日何も食べていないのに、これだけでは何もできない。


少年は、一縷の望みをかけて公営の炊き出し所に向かうことにした。

炊き出し所では、誰にでも無料で食事が提供されることになっている。


あくまで名目上は、だが。


炊き出し所に到着した少年は中に入った。

何もない。誰もいない。すでに何者かに略奪されたようだ。


国家権力が意味をなしていない現状では、当然といえば当然だ。


少年は、絶望を抱きながら歩く。


———このまま死ぬのだろうか。いや、いっそ死んだほうが……


その時、少年の視界に人間が現れた。


少女が倒れている。少年と同じぐらいの年代だろうか。

見ると、手に缶詰を持っている。


———奪うしかない。


やらなければ死ぬ。仕方ない。仕方ないことなんだ。どうか許してくれ。


そんなことを考えながら忍び足で近づく。

缶詰が少女の手から離れる、その刹那。


「あなた、どういうつもり?」


少女の細腕が、少年の手首をがっちりと掴んだ。










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明日、この世界に僕と君がいなくても 愛寂 @0210710

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