不審者の靨

比嘉パセリ

第1話 拾ってください 序

「えー今日のサークル活動はこれで以上になります!皆さん遅い時間までわざわざありがとうございました!!」

代表者の声を合図に全員がありがとうございました、と続けて一唱する。私の所属しているサークルでは、各大学合同で行われる珍しいサークルで、イベントの準備に追われるとこうして放課後に集まって活動を行うのが無難である。

「京極さん、この資料できた?」

「あっ、はい!ちょっと待ってください。今パソコンからデータ送るんで」


「京極さんここ誤字あるよー」

「すみません!今修正しちゃいます!」


「京極さんあとこれで終わり?」

「はい、それで大丈夫だと思います!」

「おっけー。それじゃお疲れ様。夜道暗くて危ないから不審者に遭ったら走って逃げるように!ばいばーい」

「おつかれさまです」

はぁ、やっと帰れる。何でもかんでもOKするんじゃないよ私のバカ!

時計の針は既に八を指している。今日はもう遅いし、コンビニ飯かインスタンラーメンでも食べるか。そう考える時間だ。

一日の疲労が一気に足にかかってきて、前に進むのだって一苦労。家に誰かが待ってくれているとしたら、私だってこんな億劫に感じることはなくなるのだろうか。

「ふぅ、さてバスの時刻は…え、五分前に出た!?しかもそれが最終とか有り得ない…。タクシーで帰りたいけど一人暮らしの身には高すぎるし、潔く歩いて帰るか…」

魂が口からぼとっと抜けそうな程長く大きなため息をつくと、荷物をぎゅっと握りしめ私は早歩きで帰路を進む。現在地から自宅までは20分。普段とは一味違う静寂と美味しい匂いが鼻腔を擽る感覚に酔いしれていよう。

「…あ、この公園懐かし。昔よく一緒に遊んでたっけな。でも流石にこんな時間に人は…て、ん?何だあの段ボール」

視線の先には割と大き目な段ボールが一個ぽつんと置かれていた。段ボールの側面には、’’拾ってください’’と書かれている。

「捨て猫か捨て犬?公園に棄てられて、こんな夜遅くまで可哀想に…。新しい里親さんが見つかるまで私が…」

段ボールを丁寧に開くと、中からトマトの匂いがしてきた。それを不思議に思いながらも恐る恐る中にスマホのライトを当てる。

「貴様、何をしておる」

「え?あ、す、すみません!って、…なんだ犬でも猫でもない…」

「いぬねこ?何だその生き物は。儂はそこらの餓鬼に拾われたかと思いきや気味が悪いと棄てられた神様じゃぞ。その発言、恥を知れ恥を」

「えぇ…なんで恥を知らなくちゃいけないのかわからないんですけど…。ちなみに何の神様なんです?」

じゅ~~と大きな音を立ててトマトジュースを飲み干す自称神様と名乗る不審者は、急にどや顔をかまして喋り始めた。

「ふふん、善かろう。儂の話を聞いて腰を抜かしひれ伏すがよい。善いか!儂はな、蜀咲函縺帙h繧翫♀�翫£�舌Χ縺奇ス茨ス�s縺ケ��♂�具ス�ス薙□�舌←縺会ス具ス鯉ス�…」

「うん…うん…」

先程まであんなに威嚇する番犬の様な表情だったのに、自分の事を聞かれると急に嬉しそうに喋り始める不審者。然し私の空腹の音が耳に届いた時、これと空腹を天秤にかけてみて、迷うことなく私は自分の胃袋を満たすことを優先した。

「ふん、それでな…って、おい貴様。中々無礼な女だな。そこらの侍女でもそんな事はしなかろう。っ人の話を聞いておるのか無礼者!」

私が話を無視しているから徐々にキレ気味になる武将口調の不審者。少し申し訳なく感じたものの、私は会釈だけして全力疾走でその場から逃げた。

「やっべえ~不審者と口聞いちゃった~…自分の事神様っていうとかゼッタイ可笑しい人じゃん。しかも拾ってくださいなんて書いてある箱に入って呑気にトマトジュース飲んでたし?てかあんな最低限の知識も分からん不審者がトマトジュースなんて買えるのか?盗んだとか?むーー…兎に角全力疾走で走って家に帰るしかないかこれは」

背後からずっと私を呼ぶ声が聞こえたものの、そんなことお構いなしに私は帰路を着いた。

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